19 ランチにて

>【ルベライト】新メンバー映り込んでないか?【れーな】


>【朗報】1年越しの新入生加入!虚弱系美少女?←アーカイブで顔にモザイク掛けられてしまう…


>【魔法少女】新入生は担当カラー黒、識別名「えにし」で確定っぽいな【えにし】


>【約1年ぶり】新入生がデビュー!担当カラー(おそらく)黒【初原色?】


>【ルベライト】初手迷采配で新入生ツモったのかぁ【れーな】


>れーなちゃん配信中に新カラーの魔法少女が目撃される?【魔法少女/切り抜き/新入生/れーな/ミラ/しずく】


>1年ぶりに新入生加入? 桃の魔法少女れーなさんの配信中に新しい魔法少女が映り込む


>【魔法少女】ドローンちこう寄れw【えにし】


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 大量の記事に、ニュース。

 そのうえ、どうやら既に、画像や動画も出回っているようであり……。


 ――って、おいおい……。


 出回っている画像なのだが、……黒髪美少女こと僕が、鼻血まみれの顔で映っている。改めて見ても、だいぶ痛々しいたたずまいだ。顔色もかなり悪い。


「なんでこんな場面が、……あ」


 そうか、れーなさんの配信から切り出したのだ。僕は悟る。

 ほぼ枠外わくがいに見切れてはいるが、【桃】の魔法少女、れーなさんっぽい服がかろうじて見えるのである。

 そして、その後方に佇む僕。それを無理やり拡大した画像なのだ(そのせいで解像度が低く、かなりガビガビである)。で、思い返せば、確かにあの場で、れーなさんが配信用? のドローンに手を振っていた。


「うーん、肖像権……」


 と、ちょっとモヤりつつ。

 歩きながら、僕は手早く、いくつかの記事に目を通していく。


「えーと、……『新入生』?」


 新入生、――頻出ひんしゅつするその言葉は、『新しく魔法少女として覚醒した者の通称』らしい。

 で、どの記事も、趣旨しゅしおおむね、次の通りだ。


 ――担当カラー【黒】と思しき魔法少女が、【桃】の魔法少女、れーなの配信に映り込んだ。

 ――これまで未確認のカラーである事から、1年ぶりの『新入生』と思われる。


 コメント欄に目をれば、そこにも既におびただしい量の書き込み。


『新入生』の登場を喜ぶもの、鼻血に言及するもの、容姿に言及するもの。――容姿については『可愛い』などと肯定的なものが大半だが、中には『配信に映っていないサボり』『ハイエナ』と否定的なものも見られ、軽い論争になっている。


 ――なんか、知らぬ間に色々、凄いことになっちゃってるな……。


 かなりゲンナリ、複雑な気分でスマホを仕舞しまい、僕は空を振り仰ぐのだった。



「――えにしちゃん! 可愛いよねぇ~!」


「――うおっ!?」


 野太い男性の声による、聞き覚えのあるフレーズ。

 思わずビクリとしつつ、顔を上げると――。


「篠崎くん! もう見た?? 新しい魔法少女の子、えにしちゃん!」


 とはしゃぐ声の主は、魔法少女オタクの先輩社員。

 新藤さんだ。


 昼休み。

 休憩スペースの4人掛け席で、コンビニ弁当を黙々もくもく頬張ほおばっていたところ。昼食片手に現れた新藤さんは、僕の斜向はすむかいに着席する。


「お疲れ様です、見てないですね……」


 すっとぼけて答える僕に、新藤さんは「え、マジで!?」と口にしつつ、たずさえた包み、――愛妻弁当を広げる。


 新藤さん。――40代半ば、既婚男性、子持ち、戸建て住まい。


 これら属性だけ見れば、さながら『勝ち組』と評したくなるところだが。……しかし僕は、彼を見るたび、うらやましさよりも心配がまさってしまうのだった。


 というのも、――新藤さんは、ぐいっとエナドリ缶をあおり、変なテンションのまま続ける。


「久々の『新入生』だよ! 嫁さんもウチのちっちゃいのもり上がっちゃって」


「そ、そうなんですね……」


 ちっちゃいの、とは娘さんのことである(確か先日、小学校に上がったのだ)。……それはいいとして、自明ではあるのだが、僕は一応の声掛けをする。


「というか新藤さん、寝てますか……?」


「え? あぁ……まあ……」


 一転、歯切れの悪い反応。


 僕と同じくいんっぽくありつつ、僕と違って人の好さそうな顔立ちの新藤さん。しかしいま、彼の顔は、ひどくくたびれた感じでかげりりをびている。


 黒髪短髪にチラホラ見える寝癖ねぐせと、少なくない白髪。

 その一方、目だけがエナドリのおかげか、バキバキになっており――。


 あー、マジで大丈夫かな、この人……?


 僕とて、ひどい寝不足で今日はしんどいが、彼はちょっと段違いである。


「睡眠、2時間とかですか?」たぶんもっと短いだろうな、と思いつつ、一応たずねるも……。


「いや、もっと寝たハズ! ……たぶん」


 と、視線を彷徨さまよわせ、――結局何もとらえずに閉じられる彼のまぶた。フーン、と息をいて椅子にもたれ、そのまま寝入ねいってしまいそうである。しかしそれも致し方ないのだった。


 連日の残業。

 加えて彼は(僕と違って)なまじ有能であるからして、多方面から引っ張りだことなり。……かねてより、残業が凄い事になっている。そのうえ、先日さずかったという第二子だいにし


 常に限界な人ではあるが、このごろ仕事と育児と寝不足とカフェインとがキマり、いつにも増してテンションがおかしくなっているっぽい。


 そんな新藤さんは、疲労に目を閉じつつ、しみじみ呟く。


「えにしちゃん、可愛かったな~」


「うえっ」


 思わず背筋がゾワっとして、再び変な声を上げてしまう。やばっ、と咄嗟とっさに平静を装いつつ。


「ちょっと、マジやめてくださいよ……」冗談めかして伝えると。


「んん……?? ……あ、そっか」


 と、彼もすぐに思い至ったようだ。目を開けて頭を掻きながら、申し訳なさそうにする。


「そういえば篠崎くん、名前が同じだったね……」


「そうなんですよ! ちょっと朝から色々……」と、溜め息をついて見せる。


「へえ~、それはなんというか……災難だね……」


 なんとか、同情の視線をもらう事に成功。以降、急にファーストネームが呼ばれる事はなくなった。……さすがは、気遣きづかいの男たる新藤さん。いんっぽくありつつも、人当たりとか考えられる人だ。


 ……まぁ、それがわざわいして、仕事が色々降ってきているようでもある。


 そうして疲れ果てての帰宅後、――魔法少女配信を見るのが心の安らぎなのだとか。


 ――この歳になると、自分の娘くらいの年頃の子が頑張っているのは、涙を誘う。

 ――お小遣いとかあげたくなっちゃう。


 とは、過去の新藤さんの言である。


 ちなみに、奥さん差し置いて大丈夫なのか? と心配し、以前訊いてみたところ、奥さんも魔法少女オタクらしい。

 で、なんなら娘さんも、両親からの遺伝の片鱗へんりんがあるのだとか……。


 はぁ、うらやましいというか、なんというか。

 そんな感じだよ。



 それから、黙々もくもくと昼食をる成人男性ふたり。

 昼休憩って、なんかRTAリアルタイムアタックっぽいよね。……と、それはさておき。


 弁当をかたしつつ、新藤さんは再び話し出す。


「――でもさ。その新人の子、可愛いんだよね。あとさ、【黒】ってカラーもイイし、ビジュアルもかなり格好イイよ!! 特にあの防具……」


「は、はあ……」


 たぶん、【固有魔法グランドスペル・黒:破滅の舞踏】での装いの事だろうね……。


「うちの嫁さんも、配信してほしいって言ってたな~。篠崎くんも、名前が同じよしみで応援してあげなよ!」


「え、えーと。そうデスネ……」


「…………あれ? なんか棒読みだね」


 思わず、かなり棒読みになってしまう僕。斜向はすむかいから注がれる、不思議そうな新藤さんの視線。

 僕はススッと目を逸らしつつ否定する。


「……そ、そんなことないですヨ」


「………」


「………」


 気まずい沈黙。

 新藤さんの、じっとこちらを見る視線。ちょっと怖いぞ。


 ……と思っていたら、彼はこくりと船をいだ。


 ――かと思えば、再び顔を上げ、「あっ!」と声を出す新藤さん(挙動がかなり怖いよ)。


「………もしかして、篠崎くんが【黒】の魔法少女、――えにしちゃんだったりしてね! まぁ、そんなことないか」


「……いやあ、ハハ……」


「………」


「………」


 謎の鋭さで、無邪気に真実を言い当てる新藤さん。

 僕は内心震えながら、引きった笑顔で返すのみである。

 そして降りる、再びの気まずい沈黙。


 ………。


 ……やがて、新藤さんは腕時計をチラと、立ち上がる。


「じゃ、僕、先に戻るね……」


「あ、ハイ。――お疲れ様です。その、ご無理なさらず……難しいとは思いますけど……」


「ハハ……」


 と空笑からわらいを置いて、体をユラユラ、手をヒラヒラさせつつ、戻っていく先輩。


 内心ほっとしつつ、なんだか哀愁あいしゅう漂うその背中に、僕は複雑な気持ちを覚えるのだった。



「――配信、かぁ……」


 夕刻、トイレで手を洗いつつ、僕はひとちる。


『配信』、――すなわち、魔法少女による、【ひずみ】の討伐の様子をライブ配信するコンテンツ。


 れーなさんをはじめとして、覚醒した魔法少女たちは大概、ライブ配信の配信者になるらしい。というのも、単に魔法少女としてクエスト参加するのとは別の、けっこう良い収入源になるっぽいのである。


「……というか、娘さんも見てるんだよな」


 それってなんというか、英才教育って感じだぞ……。


 昨日、クエストを経験した身からすれば、【ひずみ】の討伐って、正直かなり過酷だった。普通にケガとか重傷を負う場面も全然ありそうだけども。……流石に配信では、そういうシーンはカットされるのかもしれないけどさ。


 とはいえまぁ、『魔法少女』なんて響きからすれば、もとより女の子が憧れそうなワードでもある。アニメとかもやっているみたいだし、新藤さんのお子さんも例に漏れず、ってトコだろうね……。


 で、僕も配信に挑戦してみるかどうか? については、うーん。


 ちょっと、これも保留かな。


 そう結論付け、洗面台から視線を上げたとき――。


「――ん、なんだこれ?」


 鏡に映る自分を見て、僕はふと気が付く。

 右耳たぶに、何かが留まっている。

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