13 監視者[4]

 全身を襲う衝撃破。

 そして、猛烈な加速度。


 恐ろしい負荷を身に受けつつ、僕は黄金色の輝きを目掛け、高速でちゅうける。


 キシキシと悲鳴を上げる関節。

 体が崩れていく感覚。

 そして、――全身の痛み。


 それらを全て無視して、進行方向に障壁を展開。

 即、それを左手で横殴よこなぐり――。


 ――グシャ、と腕が悲鳴を上げるのを自覚しつつ、反動で軌道を補正。

 進行方向へようにして放たれていた極太の光条こうじょうを、ギリギリでかわす。


 軌道変更による激しい慣性によって投げ出される身体からだ

 きりもみに、不連続に切り替わる視界。


 その端で、【監視者ゲイザー】から嵐のごとく放たれる光条こうじょうたち。

 軌道補正しつつ、高速で空中をけながらも、左右、上下、あらゆる方向に障壁を展開。それを蹴り、あるいは押し、あるいは殴って、軌道を調整し、的確に僕を狙う光条それらを、回避、回避、回避――。


 ――ジュウッ。


 と、回避しきれなかった一条いちじょうが肉を焼き焦がし、脇腹を削り取る。

 ごぼり、と食道に熱い液体がせり上がり、――しかし、それも無視。


 大きく迂回うかいの軌道を描きつつ、徐々に本体へ近づくにつれ、なお殺人的な密度となって全方位から襲う光線たち。


 かわして、かわして、――ばすっ、ばすっ、とかわしきれないいくらかが体を突き抜けていく感触。散る血飛沫ちしぶき


 しかしそれらとて、もはや超大質量となった僕の接近を防ぐものとなり得ない。


 既に、眼前に迫る黄金色の巨体。


 球の下辺をかすめる軌道に乗り、狙うは、球の下腹。

 僕は、持てる全ての力を乗せ、大上段にフランベロジュを振りかぶり――。


「――ぬぁぁァァァアアッッ!!」


 咆哮ほうこうと共に、前方へ振り下ろす。

 同時【監視者ゲイザー】が円形・黄金色の分厚い障壁を展開するも、――粉砕。

 そのまま球の表面へ斬り込み――。


 ガシャアアッ――!!


 波打つ刀身が、魔法陣それを不可逆にえぐり取る感触。――両手にそれを受けながら、慣性に任せ、その巨体を背面まで切り裂ききり、剣を全力で振り抜く。


 ビシャアッ!! と頭上に、血飛沫ちしぶきごとく吹き散る欠片かけらたち。


 斬撃は、球を大きくえぐり。

 まばゆく弾ける閃光。

 苦悶くもんに激しくうごめく魔法陣。


 それらを後目しりめに、前方へ障壁を複数枚、重ねて展開。


 身をひるがえして反転、【監視者ゲイザー】へ向き直り、ドッ、と障壁を幾枚いくまいか砕きながら着地。


 全身を潰さんとする、恐ろしいまでの慣性を無理やり殺し、そのままグッとかがみ、――再び跳躍。


 衝撃波、猛加速。

 そして再び、フランベロジュ横手よこでに、二撃目――。


「――ッらぁぁああああああッッッ!!!」


 雄叫おたけびと共に、――ガシャアアッ、と魔法陣ソレを引き裂き、――フルスイングの要領で振り抜く。


 閃光、おびただしく飛び散る欠片かけら


 体を反転、着地。


 跳躍、そして三撃目――。


 振り抜く。閃光。


 砕け散る欠片かけら


 緻密ちみつに織り成された紋様・文字たちを、もはや修復不可能なまでに破壊していく手応てごたえ。

 それを手のひらに受けながら――。


 四撃目、振り抜く。


 五撃目、振り抜く。


 無我夢中で、縦横無尽に宙をけながら、僕は斬撃を叩き込み続ける――。



 ――もう、どれだけ攻撃を重ねたか?


 いつしか魔法陣ソレは、ズタズタに引き裂かれ、沈黙していた。


「ハァ、ハァ――」


 慣性で宙に体が投げ出されたまま、浅く呼吸を繰り返す。


 その呼吸音のほかに、いま周囲を満たすのは、静寂のみとなった。


 視界に漂う、残り1秒で止まった残時間タイマー


 そして、細かく剪断せんだんされた魔法陣のコマ切れたち。


 水平にはしる、赤銅色の円環リングが鮮烈に放つ光を受け、欠片それらはキラキラとまたたき、星々のようにきらめめきながら散っていき、――。


 やがてくうに溶け、消えた。



 赤銅の光が優しく照らす中――。


 いまや痛みさえ遠く、――すでに、全身が脈打つように、鈍くうずいているのみ。


 ――勝った、のか……。


 そう悟りつつ、――もはや、思考する余力さえ、全くない。


 疲れた。


 ただ、ひどく、疲れた。


 ボロボロとなった体。穴だらけとなり、傷口から滔々とうとうと温もりが、――命がこぼれ落ちていく感覚。

 もう、この体も長くない。


 朦朧もうろうとする意識。

 不思議と風のない、いだ静寂の中。

 重力に任せ、僕は力なく暗黒あんこくの底を目掛めがけてどこまでも落下していく――。



 ふいに、フォン、と効果音が耳に届く。

 視界に表示される画面。



 ――クエストの目標を達成しました。



 見る間に、続けていくつかの画面が開く。


 ――レベルが、1から35に上昇しました。


 ――報奨金を受領しました。


 ――複数の【魔術具マジック・アイテム】を獲得しました。


 ――獲得した【魔術具マジック・アイテム】は次の通りです。


 ――【管理番号シリーズナンバー0081:修復器リメディエーター】、等級レアリティ:【秘奥エソテリカ】。

 ――【管理番号シリーズナンバー0058:復元器イベント・リインステーター】、等級レアリティ:【秘奥エソテリカ】。

 ――【管理番号シリーズナンバー0524:簡易転送器レッサー・ジャンパー】、等級レアリティ:【遺物レリクス】。

 ――【管理番号シリーズナンバー0131:夜霧よぎり指環ゆびわ】、等級レアリティ:【遺物レリクス】。

 ――【管理番号シリーズナンバー1332:凍結筐メモリキューブ推進紋スラスト・サークル】、等級レアリティ:【希少エピック】。

 ――【管理番号シリーズナンバー2774:凍結筐メモリキューブ再生紋リジェネレーション・サークル】、等級レアリティ:【希少エピック】。

 ――………。


 ――他、全31件。

 ――詳細は、クエスト履歴を別途ご確認ください。


 それらの画面を、放心したまま眺めていると――。


『……えにし様、お疲れ様でしたニャ』


 背中から届く、シャルロットの声。


勇壮ゆうそうな戦いぶりでしたニャ』


 心なしか、穏やかな声音。

 なんだか、ちょっと、ぐっと来てしまうものがある。


「あ、りがとう……」


『ええ。それから――』


 ――ふと眼前に現れる、小さな立方体。


『こちら、ただいま入手した、【凍結筐メモリキューブ再生紋リジェネレーション・サークル】ですニャ。……使用すれば、わずかですが、全身の損傷が修復されますニャ』


 サイコロ大、無色で透き通るそれの表面には、金糸のごとく、微細びさいな装飾が施されている。

 そして、その中に封じられている、ごく小さな極彩色ごくさいしきの球体。


 ゆるゆるとうごめくその球はどこか、今しがた倒した【ひずみ】、――【監視者ゲイザー】の体躯たいく想起そうきさせる。


『使用』を意識すると、立方体が消え去り、内部の球体がにわかにくうに溶け。

 続いて、全身の組織がわずかに治癒ちゆする感覚と共に、痛みが随分ずいぶんやわらいだ。


「ありがとう、シャルロット……」


『ええ。……さて。それでは、これより、――基軸きじく位相へ帰還しますニャ』


 ――そうだ、帰還。


 脳内で反芻はんすうし、僕は力なく頷きつつ、思い至る。

 まだ、やることが残っている。


『――現在、クエスト目標達成後、変身状態維持の猶予ゆうよ時間内ですニャ。時間は残り3分。帰還後、変身解除のため、変身実行地点へ離脱することとなりますニャ』


「り、了解、……ちなみに、は――?」


『既に調ですニャ。――その後は、手筈てはず通りに』


「よろし、く……」


『――ええ、それでは、転移ジャンプしますニャ』


 その言葉と共に、いくつも開いていた画面が相次あいついで閉じていき。


 最後に残るのは、静寂と赤銅色の光、そして頭上に黒々と口を広げる、底知れぬ深淵しんえんのみ。


 刹那せつなあいだ、僕はぼうっとその景色を見つめ――。


 そして、程なく三度みたび目の転移ジャンプが起こる。

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