12 監視者[3]

 ――【固有魔法グランドスペル・黒:破滅の舞踏】。


 その効果が、シャルロット所蔵の知識により、即座に脳裏に浮かぶ。


 それすなわち『肉体の超強化』である。


 具体的には、魔法少女の体の特定の部位を、超大質量かつ超高密度の材質に置き換える。

 置き換えの対象となるのは、骨格、筋肉、腱、といった体組織、――運動に関わる大部分だ。


 その結果、肉体の運動性能がする。



 おそらく、転移ジャンプしたのだろうか?

 一言だけ言い置いて、瞬時に跡形も無く消えたアイリさん(だよね……?)に面食めんくらいつつ。僕は再び本体から距離を取って【汎用魔法ゼネラルスペル・黒:障壁】を浮かべた上に立ち、一帯を俯瞰ふかんする。


 暗黒あんこくを背景に、遠方で輝きを放つ黄金の球。

 アイリさんの攻撃? により、敵はいま、単騎となった。


 僕は高速で思案する。


 目下もっか、彼女がどのような意図でこの場に現れ、助太刀してくれたかは不明だが……。ともかくも状況は好転し、確かに【破滅の舞踏】による勝ち筋が生まている。


 というのも、【破滅の舞踏】という魔法。

 自分の体に強化をほどこすという意味では、ゲーム的な言い方をすれば、強化効果バフとでも言えそうな魔法なのだが……。その効能が凄まじく、破格はかくなのである。


 まずもって、この魔法により置き換わった部位は、魔力により駆動するようになる。なおかつ、その材質は、現実にはあり得ない力学的特性を示す材質であり、肉体の運動機能に、文字通りもたらす。


 その程度はというと、――10~100倍程度、……重さや密度も変わるので、単純な表現が難しいが……。ともあれ、いま魔法少女化によって身体能力が上がっている、その比ではない。


 それはランクAの【ひずみ】にさえ――。


「――勝てるくらい。と思って良いかな?」


『はいニャ!』二つ返事のシャルロット。よし、認識は同じだ。


 ただしこの魔法、デメリットもある。


 まず、置換していない通常の部位が、徐々に破壊されていく。これは、材質の強度差や、自重、超性能となった運動の反動、などによるものだ。


 加えて、体組織を置換した部位は、魔力が切れ次第、消失する。これは、微量ではあるものの、その材質の維持のため、常に魔力供給を必要とする事による。


 要するに、まともに駆動すれば体が耐えられず死ぬし、魔力が切れても死ぬ。


 いわばこの魔法は、時間制限付きの超強化であり、――かつ、緩やかな自殺なのである(僕がいま脳に施しているものと同じ事だ)。


 そのうえ――。


「シャルロット、懸念は?」


『はい、――諸々もろもろありますが、さいたるは、えにし様の腕前うでまえに左右される事、ですニャ』


「オーケー」


 要するに、敵の攻撃をかわしきって接近し、攻撃を叩き込む必要があるのだが、――この点、成否せいひが僕の腕前うでまえに依存してしまう。


 先ほどの要領で狙撃しようにも、容易たやすく撃墜されるだろうから、命をしてでも接近するのが必須なのだ。


 正直、やれるか自信はない。


 しかし、――魔法少女になりたてにもかかわらず、ここまでなぜだか生き延びる事が出来ている。賭けるなら幾分いくぶんマシな選択肢にはなってきたと思う。


 そして僕は、最後の逡巡しゅんじゅんをする。


【破滅の舞踏】の使用には、ほとんどの魔力を費やすこととなる。


 よって、それはおのず、【重力崩壊グラビティ・インプロージョン】を始め、代案の実現性を潰すことを意味している。


 使用した時点で、道はひとつに定まる。

 すなわち、もう戻れない。

 失敗すれば、僕は死ぬ


 チラと視界端しかいはしを見れば、残り時間は30秒。


 僕は即断する。


 やるしかない。

 もう、これ以外に道はない。


 僕は両手を空けるため、シャルロットを肩に載せる。


「シャルロット、つかまっててね」


『承知ですニャ!』


 応えと共に、その扁平へんぺいな手が僕の首に回され(ちょうど、おんぶするような恰好だ)、それを確認しつつ、僕は敵方に向き直る。


 すでに、【破滅の舞踏】の使い方は、脳裏にイメージできていた。


 全身を襲う痛みと、――加えて、死への恐れによるものか? にわかに立ち起こる震えを押し留めながら。

 僕は足場の上にたたずみ、眼前にフランベロジュを構える。



 ――ゴウ。


 と音がするほどに、大量の闇が、刀身からあふれ出した。


 闇は、辺りの風景をなお暗い闇色に呑み込んだかと思うと、次の瞬間、僕の眼前の一点に凝集する。


 それは、レンズのように向こう側の景色をゆがませ、静かに浮遊する。


 僕は、おもむろに左手を持ち上げ、それをつかみ、――【固有魔法グランドスペル・黒:破滅の舞踏】の発動をイメージ。


 瞬間、全身の質量と密度が、桁違いに増した。


「――ッフゥゥゥ――……」


 激痛に食いしばる歯の隙間から、思わず漏れる吐息。


 全身に、破壊的な力がみなぎっていき、――それと同時、徐々に体組織が崩れていく感覚。


 そして、更にあふれた魔力が、再び闇となって漏れ出し、――次には、手足を包みながら凝固していく。


 見れば、それらは、袖を手甲ガントレット、ブーツを脚甲グリーヴの形に包んでいた。


 複雑な刻印・紋様が刻まれた、艶消しの漆黒の防具。


 それら手甲ガントレット脚甲グリーヴで四肢を固めた風体ふうていは、もともとの黒のロリータ服と合わせ、はたから見れば、さながら『姫騎士』といった印象だろう。


 やがていくばくもなく、強化が収まりきると、僕の重さに耐えかね、障壁がミシリと音を立てる。

汎用魔法ゼネラルスペル・黒:障壁】により生成した、黒く、分厚いこの障壁とて、大質量・超硬度の材質から成るハズなのだが、――僕は更に障壁を展開して重ね、足場を補強する。


 さて、いかな身体強化されているとはいえ、思考速度や判断力が増しているワケではない。

 つまり、強化した体による運動性能を把握し、それを前提とした予測の上、先んじたアクションが必要となる。


 その点を心しながら、チラと横目で残り時間を確認。


 ――あと20秒。


 それを認めつつ、僕は足場を前傾。そこにグッと屈み込み。


「――いくよッ!」


 そうえつつ、跳躍する。

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