追放騎士はあきらめない 〜不要の烙印を押された俺は、ゼロからやり直して這い上がる〜

黒鋼

第一章 剣を執りて証とせよ

第1話 敗戦の後で

「ロック、君は解雇クビだ」

 銀髪の魔導士メイジの突然の宣告に、周囲の空気が凍りついた。


「……なんだって?」

 理解が追いつかず、思考が塗りつぶされる。

 俺が絞り出せたのは、その一言だけ。


「聞こえなかったのか? 今日限りでパーティから抜けてもらう」

 魔導士──アイスは淡々とそう告げる。

 捨てるものを選別するような、冷徹れいてつな目つきで。


「……冗談だろ?」

 わかっていながらも、聞き返さないではいられない。

 しかし、アイスの表情は一切ゆるがなかった──


「仕方ないだろう? これでもう三連敗だ」

 アイスは静かに首を振った。

彼は学院所属の魔導術式と戦術のエキスパート。

学院──魔導技術マギアテックの研究機関は、俺たちの後ろ盾の一つだ。


「俺たちは強くなるために組んだはずだ」

 今日は越境者ボーダー同士の力を競い合う階級ランク戦が開かれた。

 階級戦とは、越境者ボーダー同士が公式に実力を競い合い、深淵アビスへの挑戦権を争う戦いだ。

 

 そう、今日も俺たちは敗北した。


 死と隣り合わせの深淵アビス

 深淵アビスは、魔素が渦巻く異界の一部であり、古代文明の遺産や危険な魔物が眠る場所。

その未知の先に挑む者――越境者ボーダーは、強くなければ生き残れない。


 ただの越境者ボーダーであれば、魔導宝珠オーブと適合しさえすば良い。

 だが、深層へ挑むためには実力の証明──階級ランク戦での勝利がいる。


「リーダー、約束しただろう? 守ってもらうぞ」

 アイスの蒼氷そうひの瞳は、鋭さを増す。

 その視線は、俺ではなく――隣に立つブレイズへと向けられた。


(……約束? 何の話だ?)


「アイス……考え直してはくれないのか?」

 ブレイズの声には迷いがあった。

 彼はチームの創設者にして、リーダー。

 俺と共に最前線を駆け抜けた騎士きしだ。

 

 アイスたちは学院から出向してるように、俺たちは騎士団からの出向組。

 クラン結成時から一緒に戦ってきた。


「我々がこれ以上、上位の階級を目指すなら、このままでは限界がある。

 今回の戦いで、それは明白になったはずだ、ブレイズ」

 普段から遠慮のない言動をする彼だが、これほど強い口調で語るのは珍しかった。


「……ロックは十分にチームを守る役割を果たしているよ。ロックがいるからここまでこれた」

 投げかけられた言葉に、眉間にしわを寄せるブレイズ。

 

「わからないのか。状況は既に変化している。先に進まなければ、俺たちは勝てない」

 アイスのその一言に、喉の奥が焼けるような感覚がした。


「…………俺の戦い方が、もう通じないのか?」

 最前線に立ち続け、仲間を守る盾となる。

 騎士きしとして役目を果たすことが俺の全てだった。


 ――それが、もういらないというのだろうか?


「事実だ。努力で補える限界は、とうに越えている」

 短く、鋭い一言。

 蒼氷色の瞳は、一片の情もない。

 ただ最適解のみを見極め、それを求める目。

 これまでの努力を、全てを切り捨てられた気がした。

 

 ふざけるな、と言ってやりたかった。

 誰かが前に出ないと、誰かが死ぬ。

 それが嫌で――だから、俺が前に立ったんだ。

 みんなを守るって、それだけのために――


 その末にたどり着いたのが、今に戦法だった。

 

「これまで乗り越えてきたなら、これからだって」

「それでなんとかなるなら、わざわざこんなことは進言しないさ」

 俺が口を挟むとアイスはため息をついた。

 

「新型が出た今、我々に必要なのは機動力と攻撃力だ。強化された魔導障壁を貫けなければ勝機はない。それができないチームは、例外なく敗退している」

 アイスはさらに追い打ちをかけるように続けた。

 魔導術式を使うのは、戦術魔導宝珠、コアとシェルが必要だ。

 新型──外殻シェルは基礎となる魔導式プログラムが組みこまれてるが、今回ごっそり改良されてるって話だ。

 

 こっちはまだ手に入れられてない。

 けど、これまでの戦績を見れば誰でもわかる。

 

「それに改善点、お前に思いつくのか? この三連敗を、お前の"工夫"でどうにかできるとでも?」

 その口調には、かすかな嘲りすら混じっていた。

 

「ぐっ」

 アイスに痛いところをつかれて、俺は思わずうなってしまう。

 従来の戦い方は、もう通じないのだろうか。

 その不安は俺にもある。

 

 もともと俺の魔導術式の素質はそこまで高くない。

 特に事象改変能力――魔導術式が効果を及ぼす範囲は最低値だ。

 

 けど、剣技と身体強化には自信がある。

 そして、唯一鍛え上げた防御術式で相手の攻撃を受け止める。

 まさに盾役という役割が俺のたどり着いた答えなんだが……。


「聞け、ブレイズ、ロック」

 アイスの声には、いつもの冷たさに加えて、何か切迫したものが混じっていた。


「我々が望みをかなえるなら、力を示すしかない」

 遺跡の探索許可が出るのは、階級ランク戦を勝ち抜いた一定の上位のチームだけだ。


「我々は全員深淵アビスの深層に行くことが目的の攻略組だ。このままの状況で、階級ランクが落ちるようであれば、おまえたちも困るのではないか…?」

 アイスがチームメンバーを見回す。

 ブレイズは下を向き、拳を握りしめている。x


 俺たちは騎士団、アイスたちは学院。

 混成チームはただの実験台おためしだ。

 結果を出せなきゃ、さっさと解散させられる。

 わかりきってる話だ。

 

「今のままでは、近いうちに上位のクラスから転落する。そうなれば、私はクランの移籍も考えている」

「アイス!」

 

 焦ったように大声を上げるブレイズ。

 やばいな……。これはマジで詰んでるかもしれない。

 もしアイスが抜ければ、チームの未来はない。


 うちみたいな小規模クランは、学院から条件付きで装備を融通してもらってるに過ぎない。

 学院からの支援が途絶えたら、新型なんか夢のまた夢だ。

 いや、今持っている装備すらまともに維持できなくなる。


 そうなれば旧型のまま深層に行くどころじゃない。

 今の階級ランクすら維持できなくなるだろう。


 それだけは、絶対に避けなきゃならないのに――


「おまえたちは古い付き合いだ。情があるのは理解するが、それで勝てるわけじゃない」

 アイスは見透かすような目で俺を見てくる。


「だからロック、違うというなら今ここでお前の力を証明して見せろ」

「俺に何を証明しろって言うんだ?」


 アイスは無言のまま、自らの魔導核コアを外し、新型の外殻フレームにはめ込んだ。

 

 カチリ。金具が噛む。

 蒼白の脈動が外殻シェルを走り、周囲の温度が一気に下がる。


「これが新型の外殻シェルで強化された、戦術魔導宝珠タクティカル・オーブレスだ」

 その指が机の上を軽く叩く。俺を試すかのように、ゆっくりと。

 

「これを使った自分に攻撃を当ててみろ。もちろん、全力でだ」

「……本気か?」

「でなければ納得できまい。それでも、まだ戦えるというなら――証明してみせろ」

 アイスは深く息を吐き、迷いのない目で見てくる。


「私は無意味な押し問答に時間を費やすほど暇ではない」

 俺はアイスの冷たい瞳を睨みつける。

 ここで引けば本当にすべてを失う。


 ……引けるはずがない。

 ここで諦めたら、俺が積み上げてきたものが無駄になってしまう。


「……いいさ。確かめてやる」

 アイスの挑発に、俺は乗ることにした。

 そこまで言うならやってやろうじゃないか

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