凶器なまでの美貌の獣人に出会ったので! この宇宙で1番のアイドルにする為に私のオタク知識を 使って全力でプロデュースしてみた件!

七海福寅

第1話 運命の出会い

「はあ?」


「だからさっきから言っているでしょう。

イケメンに生まれたという時点でもはやそれは

人生勝ち組なのよ!」


俺の鼻先に人差し指を突き出しながら鼻息荒く

まくしたててくるなんて……。


「……………」


頭大丈夫か?この女……。


しかもこの薄汚れた俺を見て言うセリフか?それ?


呆れ顔な上に半笑いの俺を見ているだろうに

その女の熱は冷めず更に俺に詰め寄りながら

鼻息荒くこう言った。


「いい?よく聞いて!

私を信じてついてきてくれたら……

あなたをこの国のいや……

この宇宙で1番のアイドルにしてみせるよ!

どう?人生賭けてみる?」


その女はそう言って悪戯っ子のような笑顔を浮かべたんだ。


が、そんな大胆発言をしたくせに急に恥ずかしくなったのか。


辛うじてドヤ顔を保っているが……

その裏で密かに耳が真っ赤に染まっているのをみた瞬間

俺の方が耳の先端から尻尾の先まで電流が走ったからな。


その顔が心底可愛いと思ったんだ。


こんな気持ちは生まれて初めて感じた。


そう、あれはきっと……

柄にもなく俺は全身全霊で歓喜していたんだと思う。


今思えば、それが一目惚れだったのかもしれねぇ。

運命の相手というやつだな。


いいぜ、その賭けのった。


その代わり俺の全てをお前にやるから……

お前の全てを俺にくれよ。


人生をかけるんだ、それくらい貰わなきゃ割にあわねぇよ。




その日俺は、朝からついていなかった。


いや、考えてみれば……

俺の人生は初めからつまらないものだった。


この惑星に生まれ落ちた瞬間から負けが決定したような

ものだったからな。


親や種族、性別は選べない……。


きっと人生で最初の賭けに俺は負けたのだろう。



「大人をなめるなよ、このガキが!

俺のいう事が聞けないのならば明日から来なくていいからな」


年中酔っぱらっているマスターは酒瓶を振り上げて

口角から唾を飛ばしながらそうのたまった。


「うるせぇ、おまえこそくたばれ!

このアル中腐れライオンが!!」


この世に存在するであろう……

あらゆる罵詈雑言を吐いて俺は乱暴に店の扉を閉めた。



ちくしょう……。


俺は怒りを抑えきれずに……

薄汚れた路地を大股で歩きながら更に奥へ奥へと歩を進めた。


通りはいつもと変わらずゴミで溢れかえり異臭を放っているし

そこら中に酔っ払いどもも横たわっている。


そんな光景に交じって、幼い子供が物乞いをしている姿も

チラホラ見かけるのが辛い。


そうかと思えば、暗い裏路地で女が客を誘っている姿も見える。


ゲッ、目があった。


気持ちの悪い視線を投げんな、反吐が出る。


俺はそそくさとその通りを足早に走り去った。


ここはあらゆる汚いものが集まる縮図のような場所だ……。


そんな場所が俺の故郷だ。


「やってらんねぇな……」


苛立たし気に髪を乱暴にかき混ぜながらもそのまま歩き続けた。


行く当てなんかねぇ……。


でも1秒足りともこの場所にいたくなかったんだ。


そうは言っても逃れられるわけもねぇんだがな。



ようやく人気がなくなる城下町の外れの更に外れの門まで来ると

俺はわざと口笛を吹きながらその門をくぐった。


門番?


そんなもんいねぇよ。


いたとしても腑抜けなハイエナどもだろう。


きっと今頃酒でも飲みながら娼館にしけこんでいるだろうよ。


深いため息をついてからふと上を見上げると

煌びやかな王城の塔の先端が見えた。


「あの装飾だけで何日分の飯が買えるのかねぇ」


無駄に豪華なその物体を見つめながらひとりごちた。



この国は心底腐っているからな。


誰も彼も目が死んでいやがる。


その代表的なものがあそこで今日も優雅に舞踏会っていったか?


よくわからねぇ……

どんちゃん騒ぎをしている“王族”達だ。


あいつらにはこの眼下の光景は見えないらしい。


このまま1人どこか遠くにいってしまいたい。

そんな衝動にも駆られたが……。


冷たい石畳の感触が俺を少し冷静に戻してくれた。


行く当てなどはないが……

がむしゃらに歩いたせいで町はずれ……。


いや、森の一歩手前まで来てしまったようだ。


夜の気配が濃くなり空気も冷たい。


流石に夜の森はこの俺でも分が悪い。


先方の件で頭には来ているがまだ死にたくはない。


かと言って、家に帰る気にもならない。


「はあ…………だりい」


しかたがないので気分が落ち着くまでその辺りに点在している

朽ちた城石に背中を預けて座った。


「…………」


夜風が頬にあたり火照った身体を癒してくれるが

やはり気分は完全には晴れない。


が、しかし冷静になるにつれてはたと気がついた。


思わず頭に血が上ってしまい店を飛び出してきちまったが

明日からの食い扶持はどうしたらいいんだ。


やっちまったか俺……。


不意に幼い兄弟たちの顔が浮かんだ。


確かにあいつらを食わせる為には金がいる。


でも俺にもどうしても譲れないものがある。


今思い出しても腹が立つ!!


よりによってあのクソ親父……

俺に客を取れって言ったんだぜ!!


冗談じゃない!!


俺は男だ!!


自分で言うのもなんだが……

俺は容姿には恵まれていると思う。


そのお陰で幼いころから何度もそういう危ない目に

あってきたのも事実だ。


しかし何故か俺は感が人より優れていたし

運もよかったので、すべて回避してきてここまできた。


今では身体も大きくなり……

育った環境のお陰か喧嘩も強くなった。


あの酒場の辺りじゃ負けなしと言っても過言じゃない。


そんな俺にあんなセリフを吐くなんて。


あの親父とうとう本当にいかれちまったか?


どうせ博打ですって首が回らなくなったんだろう。


だからと言ってその尻拭いを俺で払おうとするんじゃねぇよ。


バカ貴族に俺を売ろうとしやがって!


あ~くそ~!!


こんな時には歌を歌うに限る。


何を隠そう、俺はあのしけたBARの看板歌手だ。


毎晩あの場末のBARで客相手に歌を歌って

日銭を稼いでいる。


これでもなかなかの人気歌手なんだぜ。


俺の歌を目当てで通ってくる上客もいるくらいだ。


自分で言うのも何だが……

俺は、このグルガルドで1番の歌い手なんだ……。


柄にもなく顔を膝にうずめたまま

しばらくの間冷たい夜風にあたり続けた。



どれくらいそうしていただろう。


ふと顔をあげて空を見上げると……

満月がぽっかり浮かんでいた。


俺はこの柔らかい月の光が好きだ。

そっと優しく包んでくれる気がするからだ。


そんな月を見つめていたら自然と歌が口から零れた。


俺自身でさえなんの曲かわからないが……

ただメロディーが次々と心から溢れてきたんだ。


やっぱり歌はいい。


歌っている時だけすべて嫌な事を忘れられる。


「……♪……ン、ンンンフン……♪」


「誰のものにもならない……♪

誰も支配できない……♪

この小さな心の世界だけは……

唯一俺だけのものだから……♪」


俺はとめどなく溢れてくる旋律を心の叫びを

力の限り歌にこめて歌った。


観客は漆黒の闇に瞬いている星たちと満月しかいねぇけどな。


なんて思いながら気分よく歌っていたら……

目の前の木々の間からガザリと音がした。


まさか魔獣かと一瞬構えたが……

特に攻撃をしかけてくる様子はないようだ。


が、しかし確実に木々の奥には何かがいる。


息を殺しながら確実に俺を見つめているのを感じる。


俺は目を細めながらその方向を見据えると

相手の正体を感じ取る為に鼻をひくつかせた。


「………………」


微かに匂いがする。

が、今まであまり嗅いだことのない匂いだ。


魔獣ではないな……。


しかし確実に何かがいることは確かだ。


「誰だ?」


更に威嚇するように少し低めの声で問いかけた。


すると何か黒い影が微かに動くのが木々の間から見えた。


「誰だ?」


もう一度、先ほどより大きな声で問いかけると

観念したのかその物体はそっと姿を現した。


月影しか明かりがない為に表情はわからないが

聞こえるかわからないくらいのか細い声でそいつはこういった。


「こんばんは……」


「……………」


はっ?


俺に挨拶をしてきたのか?

こいつ?


「………………」


おずおずと目の前に出て来たのは想像もしていなかった

何とも小さい生物だった。


魔族……!?


いや……人族か?


初めてみたぜ……。

伝説級に珍しい種族だからな。


それしても小せぇな。


まだ幼体か?


見たことのねぇ服を着ているしな

どこか遠い国の人族か?


「あ…………っ」


何故かそいつは俺と目が合うと

恥ずかしそうに目を伏せていた。


本気で小さいな……

小人族か?


うちの下から2番目の弟くらい小さいぜ。


しかもこいつ……

何度も俺の事をキラキラした瞳で見つめてきやがる。


この感じ……女か?


「…………」


穴が開くほど見つめられなんとも気まずい……。


俺はわざとらしく咳を1つしながらも

さりげなく目の前の人物を観察することにした。


しかし本当に小さいな……。


なんでこんな所に幼子が1人いるんだ?


親はどうした?


まさか森で!?


いやな想像が浮かびハッとして森の奥に神経を集中させる。


「…………」


いや、血の匂いは感じねぇ。


いずれにしてもやっかいな状況だという事だけはわかる。


だって、異常だろう?


こんな夜中に幼子1人森の中から現れるなんて

どう考えても普通じゃねぇ。


貴重種の人族だしな……。


しかもこの世の者とは思えないぐらい神々しいのは

気のせいじゃねぇ。


俺は何かに化かされているのか?


この庇護欲をそそる姿は魔族の擬態か?


まあ、それで喰われて生涯を終わるのならば

それはそれでいい。


こんな綺麗な生き物の一部になれるのなら

俺も少しは奇麗なままあちらの世界にいけんだろう。


ハッ、そんな事を考えてしまうなんて

本当に柄じゃねぇな。


この人型……

顔かたちが悪くねぇのはもちろんだが。


それ以上に……

そのなんと言っていいのかわからねぇが……。


そう、魂が奇麗なんだ。


見てくれの美しさという次元じゃねぇ。


こんな掃きだめのような世界に存在しているのに

本当に波動が澄んでいるんだ。


そう言えば……

遠い昔誰かが言っていたな……。


どんな汚い汚れた場所でも美しい花を咲かせる事ができる

女神の花があると……。


確か名前を“ロータス”とか言ったっけな。


そう、まさにこの人型の女はそれだ。


でもまあ、この際……

女神でも魔族でもどちらでもかわまねぇ。


どうせ俺の人生は既につんでいるからな。


これまであらゆる種族の女が俺に蕩けた視線や欲望を

ぶつけた目をしてきた。


最初は本当に鬱陶しくかつ恐ろしく思い……

とても嫌だった記憶がある。


俺も男だから見目麗しい女は嫌いじゃねぇ。


だが、あのギラついた欲望丸出しの視線だけは

どうもいただけねぇ。


しかしなぜかこの人型の女からの視線は嫌じゃない。


見られれば見られる程……

目が離せなくなっている俺がいるのも事実だ。


はあ……

こんな幼子を目の前にして俺は何をいっているんだ。


ついに俺もイカレちまったか?


本気で今日は厄日だ。


「…………」


俺は俺を見上げて呆けている人型の女を無言で

抱きかかえるとそのまま家路へと急いだ。


“ひゃあ~”とか

“いやぁ~尊すぎてむりぃ~?

キュン死するぅ~”


など言って俺の肩でキャンキャン喚いているが 

意味が全くわからねぇ……。


“イケメンすぎるやろぉ~

女神様どうもありがとぉおおおおお“


「………………」


人の顔を見て急に咽び泣くなよ。

怖ぇーよ。


挙句の果てに俺の顔を見て拝むな!


本当に訳がわからねぇな、全く。


でも、不思議と嫌じゃねぇ。


ま、いくら騒いだって知るもんか。


俺が最初にお前を見つけたんだ。


お前はもう俺の物だ。

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