ヒルンド

ヒルンド【父1】

「家の末っ子が、どうもおかしい」

 移民宇宙船ボォスィミのグベルナトル族の当代の首長である俺アナスには、娘が一人に息子が五人いる。今まで末っ子のヒルンドは、日がな一日引き篭もって記憶結晶を見ていた。

 正直、

「こいつは、もう駄目かもしれん」

と思っていた。


 それが最近、

「目的地の恒星系の特徴ってなんだっけ?」

とか

「目的地の相対方向って、惑星系に入るまで無視できるんだよな」

とか

「ランデブー減速に最低必要な距離っていくらだっけ?」

とか妙な質問をするようになった。

 どれもこれも、まだ十数世代も先にならんと必要のない知識だ。本当に何なんだ?


 グベルナトルの一族は、移民宇宙船の中でコールドスリープに入らずに、メンテナンスのために起きたまま人生を過ごす。一通りの操船技術を学ぶが、おおよそ使う機会は無い。

 惑星系脱出と惑星ランデブーのための仕事がある世代以外は、はっきり言ってしまえば、やるべきことが無い人生だ。これに耐えられ無い者も結構多い。一族に多産が推奨されているのは、つまりそう言うことだ。ヒルンドも限界なのかと俺は思っていたのだが、どうも違うようだ。


 一通り疑問に答えてやると、

「やっぱりね。知ってた」

と言いやがった。ぶっ飛ばすぞこのガキ。


 ヒルンドは最近さらにおかしな行動をとるようになった。なんと工作室の使用を申請してきやがった。もう百年ぐらい使用者がいなかった設備だぞ、何考えてやがる。許可を出して、気になったので監視カメラの記録を見てみた。


「んー、なんで健太のとこより精度が低いんだ? こっちの方が高度な工作機械だろうが」

と首を捻ってやがった。健太って誰? イマジナリーフレンドとか言う奴か? 大丈夫なんだよな? 俺は増々不安になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る