第24話
夕方になる前に、
そして、昼すぎには、びっくりするほどの量の贈り物と文を届けに来たそうだ。
その中でも、野菜や魚など、すぐに傷んでしまうものは、みんな
これからしばらく世話になる相手へ、つけとどけの流用だ。
もちろん、三条邸には出所は秘密だが。
「それにしても、
やはり父帝の徳でしょうか。
ご縁があって、嬉しいですわねえ」
例のごとく、脳天気に
しかし
そうはいっても、人の家にいつまでも世話になるのもね……。
他人の邸で厄介になるという状態も、気を遣うものだ。
特にこの場合、
これからのことを
「姉宮さま。
好奇心旺盛なのだろうか。
他人の文なんて見ても楽しくなんかない……とは言い切れないと、
他人あてのお文だって、立派な娯楽だ。
送るほうだって、よほどの忍ぶ恋ではないかぎり、回し読みされることを覚悟の上で送ってくる。
しかし、話のタネにされる立場の
後朝の文を気取られたらちょっとやだなあ。
一夜を共にしたような態度に出られたら、どうしたらいいのだろう。
渋い表情になる
「もしも着取ったお文なら、笑って差しあげればいいですよ。
わたくしに来たお文をつけて、返信してしまったらいかが?」
とりすました姫君らしいところと、どうにも攻撃的なところが、
これはこれで、厄介な性格かもしれない。
「まあ、とりあえず見てみないと」
そういえば、送られてきた文を回し読みするなんて、
なにせ
家の人間は
文を回し読みするもなにもない。
伊勢のほうは周りに女房たちがいたものの、さすがに
女房宛のものだって数は少なく、都を離れた
こういうの、楽しいのかな?
よくわかんないや……。
迷いつつも、
ご料紙にたきしめられたのは、かぐわしい白檀。
あの男がつけていた香りだ。
すかしの模様が入っている、高級な和紙だ。
添えられているのは、かたくつぼみを閉ざした夏の花だった。
わざわざ、先端につぼみが二つついているものを選んだらしい。
寄り添うような花のつぼみだった。
「……ええっと……。
開く前の花のつぼみを無理にこじあけるのは不本意です。
ゆっくり愛でていきたい。
……真の愛情は増えるものです。
愛する女の人数分、一人への愛情も増えていくものです……って、なにこれ!」
かあっと、頰に熱が上る。
思わず、
こんな恥ずかしいものを音読する羽目になるとは、思わなかった。
「……姉宮さまが三条邸に来たことを知つて、開き直ったのでしょう。
わたくしのところに文が届いている話も、姉宮さまの耳に入ったことが前提のお文ですね」
一本とられたと言わんばかりに。
「さすかですね、
下手な言い訳をするなら、大笑いしてやろうと思っていましたのに」
そういえば、
彼女は歌才にも恵まれていると聞く。
もしかしたら、
「たしかに、向こうのほうが上手ね。
あなた一人に求愛しているわけではありませんが、要するにわたしも
こう来るとは思わなかった。
どう詰ってやればいいのか困るわ」
「どうしようかな、返事」
「受けて立ちましょう、姉宮さま!」
「あの男を、やりこめてみせます!」
「……
この文は、わたしに来た文なのよ……?」
「だからこそです。
「そう?」
異母妹に再会したときの、楚々とした美少女という印象は、見事に吹き飛んでしまつた。
やたら好戦的な表情が、輝くように美しい。
ある意味、わたしと似てるっていうか……。
血の気が多いのは血筋なの?
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