第23話
「よりにもよって
なんてことでしょう。
姉宮さま、おいたわしい……っ」
閑静な三条邸に、悲鳴が轟く。
三条邸というのは
「おかわいそう、姉宮さま、おかわいそう……!」
派手に嘆いてみせているのは、
快く
「い、痛いんだけど……
力任せにぎゅうぎゅう抱きしめられると息苦しいし、骨が音を鳴らしているんじゃないかと思うくらい痛い。
深窓の姫君とは思えない馬鹿力は、この華奢な体のどこから出てくるんだろうか。
「あ、ごめんなさい。
姉宮さま」
「わたくしってば、つい興奮してしまって」
「それにしても、 おかわいそうな姉宮さま。
まるで物語の中の
「まあね」
「とりあえず、逃れられたからよかったけど……。
ごめんなさい、
そんなわけで、しばらく世話になってもいいかしら?」
「もちろんです!」
「母宮さまにも
ご安心くださいませ。
この三条邸には、
「邸から逃げるほどいやがられると知られたら、遊び人の名がすたるでしょう。
とにかく
そして、
もちろん、
現代の貴族の朝は日が昇るより早い。
だが、
そして、
今ごろ
その後、
さすがに他の家人は連れてこられないが、腹心の女房である
それは、三条邸側も心得てくれているようだ。
しかも今は普通の体ではない。
秘密を守るためにも、どうしても
この秘密がばれたら、嫁に行くどころじやないものね……。
夜になったら男になってしまうなんて、尼寺に入ることもできない。
さもなければ、自分がどうやって生計を立てられるのか、想像もつかない。
それにしても、
しとやかそうに見えるのに、
なんとなく、血のつながりを感じてしまった。
すでに夜は明けているおかげで、
かもじをつけてしまえば、いつもどおり。
しかし、三条邸に逃げこめたとはいえ、喜んでばかりはいられない。
この世の外を徘徊するものたちの気配を、そこかしこに感じた。
邸の中ですら。
宮中だけじゃなくて、都の状況もやっぱり異常だわ。
しかし、
「それにしても、
噂どおりの遊び人ということなのでしょうけど、それにしてもひどいお方」
「わたくしのところにも、文が来ていましたよ。
ぜひ、後妻に迎えたいと」
「えっ」
「そ、それはつまり、姉妹一緒に娶るってこと?」
呆然としてしまう。
物語の中の、好き者の悪役だって、そこまではしない。
「最低だわ。
本当に、元
「本当に最低の殿方です」
「姉宮さま。
徹底抗戦しかありません」
「本当ね。
いったい、どうしてくれよう……」
呻いている
「昨夜のことで浮かれたお文を送ってきたら、笑ってやればいいのです。
なにも知らないと思っているのか、と」
「お文もいらない。
緑切りたい」
というよりも、力を吸い取られるような心地になる。
あれが当代一の権勢家の勢いというものだろうか。
心の底から、お近づきになりたくはない。
「縁切り寺にでも、参りましょうか。
気分転換になりますし」
邸に引きこもっている貴族女性の生活は、変化に乏しい。
彼女が楽しそうにしている理由も、
「姉宮さま。
姉宮さまは少しの間だけでいいとおっしゃいますが、もしよろしければ、これから先もずっと、三条邸にいらっしゃいませんか」
「え……」
思いがけない申し出に、
「そんな……。
さすがに、「ずっと」は遠慮したい。
「……お二人は、わたくしの望みならなんでも叶えてくださいます。
心配しないで、姉宮さま」
「そ、そう、なの……?」
「はい」
大丈夫かな……。
美しい異母妹を、しげしげと
輝くばかりの美少女、
しかし彼女は実は、とんでもなくイイ性格なんじゃないだろうか……?
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