第1話 異世界人と棺桶①
僕、ウィード・ブラックロックはつまるところ『その他大勢』に分類されるような人間だ。
御伽話に出てくるような超常的な力を持っているわけでもなく、なんだかすごい強い剣技を一子相伝で受け継いでいたりとか、実は死んだ両親が王族で、僕はその王子だった。みたいな事は断じて無い。
そもそも両親は健在だし、実家は代々受け継がれた農家だから剣技というよりは鍬技が一子相伝ではあるとは思う。
まぁ確かに、この世界において僕ら人間族は特殊な能力を得ることが出来る『恩恵』を唯一持っている種族だ。
雷のように早く走る事ができたり、凄い遠くを見る事が出来る視力を持ってたり。
そういう意味では人間族は特別かもしれない。
でもまぁ言ってしまえば殆どが身体能力の延長線上の力みたいな認識のものだから、そんなに特別感は無い。
隣に住むウォールさんは理解し難いほどの肺活量をもってるだけだし、父さんは分厚い鉄で折り紙ができるくらいの腕力。母さんに至っては兵器に近い声量を出すことが出来る。
もう何それって感じだよね。怒った母さんに何度鼓膜を破壊されたか。十から先は数えてない。
そんな僕の恩恵は傷がすぐ治る。それだけ。母さんに鼓膜を破壊され、耳から血が出てようとも、すぐに治る。
一回だけ父さんを本気で怒らせてしまった時は崖から槍投げの要領で投げ落とされた時があったけど、全身の骨という骨が粉砕し、いっそのこと殺してほしいくらいの痛みが少しの間だけ襲い、すぐ治った。
そんな恩恵を持つ僕は、今日も今日とて鍬を振るい、農作業に精を出すわけだ。
幸い筋肉痛の痛みも一瞬だし、農家としての能力はだいぶ高い水準を出している事だろう。
だけど。
農作業をするのは世界が許さなかった。
いつものように納屋に道具を取りに行く最中。僕は落ちた。
落ちた。というが地面が急に陥没したとか、そういう話じゃない。一瞬身体が浮いたような、それこそ崖から投げられた時を思い出させる浮遊感が襲い、そのまま永遠と勘違いさせるくらい長い間の浮遊感に耐えきれず、僕は気を失った。
そして目が覚めたら、知らない世界にいた。
僕が知っている木造ではない材質で出来た荒廃している建築物が辺り一面に広がる。
地面は土でもなく石でもない、これまた知らない材質のものが至る所にヒビが入っている。
多分鉄で作られてるであろう、白い柵。よくわからない円が横並びで三つ付いている柱。
「こりゃあ一体なんなんですか、ね?」
僕の問いに誰も答えない。
誰か教えてください。
ここはどこですか。
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