歌い手

「ボルーノ!ボルーノ!大変よ!」

「どうされました?アンガムお嬢様」


「私、気になって眠れないことがあるの」

「左様でございますか。でしたらワタクシ、ボルーノの何でもお聞きくださいませ。ワタクシ、地底界の頭脳と呼ばれ…」


「歌い手になるにはどうすればいいの?」

「……歌い手、ですか?」


「sado様みたいにかっこいい歌い手になりたいの! 久々に『あっちぃわ』を聴いて、その歌唱力に圧倒されたわ。それに、sado様は見た目で売っているわけじゃないのよ! 歌唱力だけで頂点に立った、まさに真の歌い手だわ!」

「お嬢様、sado様は既に立派な歌手。歌"い"は不要かと。」


「………続けるわ」

「sado様みたいなかっこいいがなり声って、どうやったら出せるの?」


「ワタクシにお任せください。まずは咳払いをしてくださいませ。」

「ん゙ン゙ッ!」


「その状態のまま、口を開けて大声を出してください。」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

―――ボゥッ


「……火炎が出てしまいましたね」

「私の湧き出る情熱というわけね!」


「言い得て妙です。ただし、我々火竜は炎を抑えるところから練習いたしましょう」

「でも、歌唱力には自信があるわ!」


「では、歌ってみてくださいませ。」

『あっちぃ〜♪ あっちぃ〜♪ あっちぃわ~♪』


「……何と言いましょう、その……つまり……—————平凡」

「80点といいなさい」


「80点は高得点です。この場合は……50点でしょう。」

「赤点ではないわ。」


「決して下手ではないのですが、sado様のように通った声ではございません。ちょっと……細いですね。」

「ひどい言われようね。」


「声を太くするには、腹から声を出す必要があります。しかし、誰でも自然と喉から声を出してしまうもの。そこで、腹式発声の練習をお教えいたしましょう。」

「ありがたいわね。」


「まず、口を膨らませて『んー』と声を出してください。その際、頬がしぼむなら、まだ喉で声を出しています。お腹に力を入れて、頬がしぼまない感覚を掴みましょう。」

「そんな恥ずかしい姿、嫌だわ。私は地底界を統べるアンガム姫よ。声の大きさはミックスで何とかするわ」


「ミックスといえど、かなりの技術が必要とされます。音量バランスや滑らかな音程移行など、素人が簡単にできるものではございません」

「……あなた、やけに詳しいけど、何か嗜んでるの?」


「よくぞ聞いてくださいました! ワタクシ、音楽が大好きでして、楽器ならキーボードからパッドまで、ジャンルならEDMからフューチャーベースまで嗜んでおります!」

「電子ばかりね」


「ですので、音楽の知識はお任せくださいませ!……おっと!? 申し訳ありません、これからダブステップの練習がございますので、本日はこれで失礼いたします。」

「イカついわね」


「それでは、お嬢様が立派な歌声を手にするまで、何十年、何百年でもお待ちしております〜♪」


…………………………

…………………………………………

……………………………………………………。





「うっせぇわ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る