マグ漫

マジンミ・ブウ

天国

「ボルーノ!ボルーノ!大変よ!」

「どうされましたか?アンガムお嬢様?」


「私、気になって眠れないことがあるの」

「左様でございますか。でしたらワタクシ、ボルーノの何でもお聞きくださいませ。ワタクシ、地底界の知恵者と呼ばれ…」


「天国ってどこにあるの?」

「……天国、ですか?」


「地上の人間は、自分より遥か上にある天の国を天国と呼ぶらしいの。それに対して、私たちが住むこの地底界のことを"地の国"、つまり"地国(じごく)"と呼ぶとか」

「お嬢様、生憎、"地獄"の"獄"は"国"ではないようですが……」


「…………続けるわ」

「私たちにとって"天の国"は地上のことだから、地上が天国と呼べるわ。でも、地上の人間が言う"天国"のことを、私たちは何と呼べばいいのかしら?」


「……スーパー天国でしょうか?」

「健康ランドみたいね」


「しかし、お嬢様。なぜ突然、天国のことをお聞きになられたのでしょうか?」

「天国は、亡くなった者の魂が救済される場所らしいの。我々地底人も、地上の人類との交戦で多くの仲間を亡くしたわ。彼らの亡骸は溶岩で溶かし、肉体をサターン様に還すけれど……魂はまだ彷徨っているのかしら?」


「なるほど、そういうことですか。では、このボルーノがお答えしましょう」

「我々地底人は、サターン様によって肉体を授かり、魂を宿しました。その肉体が滅びれば、溶岩に流され、魂は地の底の底の底……さらに深くにいらっしゃるサターン様のもとへ還るのです」


「つまり、地上の人間が言う"天国"は、地底界においては、今いるこの場所よりさらに深いところにあるわけです」

「……この地よりもさらに下に?」


「そのとおりです」

「でも、そうしたら"天国"じゃなくなってしまうわ。なんて呼べばいいのかしら?」


「……超地底界?」

「た行がいっぱいね」


「ですので、お嬢様、ご安心くださいませ。我々地底人の魂は、"超地底界"へ向かうのです」

「私もそこへ行けるかしら……」


「不安になることはございません。お嬢様は地底界の民から大いに尊敬されております。何か後悔されていることがあれば、打ち明けてみると気分も晴れるでしょう。この場合、罪が軽ければ"超地底界"行き。罪が重ければ、地上と同じく"地獄"行きと裁きましょう」


「ゲームみたいね」

「では、懺悔時間開始!」


「先日お昼なのに『こんばんは』って言ってしまったわ」

「超地底界!」


「ゲームを一時間以上しちゃったわ」

「超地底界!」


「友達と通話を日が変わるまでしちゃったわ」

「超地底界!」


「クリア前なのに、友達からもらったレベル100のポカモンでクリアしちゃったわ」

「超地底界!」


「確かにスッキリするわね。今までの悩みが吹き飛んだわ」

「まだまだございましたら、どんどんお話しくださいませ」


「……疲れたから、お化粧を落とさずに寝てしまったわ」

「超地底界!」


「着替えるのが面倒だから、パンツ一丁で休日を過ごしたわ」

「超地底界!」


「ボルーノが楽しみに取っておいた極上ロース岩を、黙って食べたわ」

「ちょ…………」


「ボルーノのポエムを、勝手に読んだわ」

「……」


「ボルーノの検索履歴を覗i」


「……地獄行きでしょうね。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る