第2話 転校生の




「ユカリって、お前んちのお隣なんだって」


「……は?」


次の週。コイツ、噂の転校生から声をかけられたのはすぐの事だった。




「日曜にさFKモールで声かけられた。1個上の女子」


「あー、はは……」



うちの地域の唯一の大型ショッピングセンターか。

ユカリの行動力というか、肉食動物的なところにあきれて苦笑いしか出てこない。




「今度遊びおいでとか言われたんだけど。お前んちに」


「は、俺んち?」


「付き合ってんの?」


「いや」


「じゃ、僕が狙っていい?ユカリ結構可愛かったしさ」


「……」


自信満々に目元を細めて口角をあげる。

てゆうか、もうすでに呼び捨てかよ。軽いな。ユカリ簡単にヤラレちゃうんじゃないだろうか。




***




ーーなんて心配はいらなかったようで。




「僕、ユカリに振られちゃった……」


「は?」


「絶対いけると思ったのにさー」



数日後の放課後の教室で、瀬戸響がユカリに相手にされなかった事を口にする。




「あんな騒いでくっついてきたのに、"ごめんなさい私年下は駄目なの!"ってひどくね?」



あぁ、確かにユカリはただのミーハーでそういう奴だった。




「…ぶ、はっ!!!」



それに、コイツのユカリの真似が全然似てなくて、逆にそれがウケて吹き出してしまった。




「なんだよ、笑うなよ!!」


「いや、だって、早すぎだろ。振られるの」


「普通、イケると思うだろ?」


「思わねーよ」


「あ!お前、ユカリとヤった事あんだろ?」


「ねーよ」


「えー、嘘だろ?」


「嘘じゃねーよ。……嘘じゃねーけど、」


「けど?」


「一緒にお風呂は入った頃ある」


「どーせ、幼稚園の頃とかの話だろ?」


「……」


「あーぁ、お前、本当はさ。ユカリの事好きなんだろ?」


「は?好きじゃねーよ」


「どーだか!こっそり狙ってんだろ?やーらーしぃー!!」


「だから、違うって…」



コイツの言葉に飽きれ半分で溜め息を吐けば、何かが振動する音があたりに響いた。







振動音の正体はコイツのスマホだった。




「ふーん、まぁいいけどさ」



誰からか連絡がきたようで、瀬戸響がスマホ画面をタップし始める。


そして、俺に視線を向けてからにっこりと口許を緩めるから、その向けられるユカリ曰く中性的であろう瞳から目を離せなくなった。




「……な、なんだよ?」


「なんかー、お前の事気に入った」


「は?」


「僕さ、割のいいアルバイトしてんだけど。時間ある?」


「……?」






校舎の外に出ると容赦なく陽射しが照りつけて、歪むように暑さを増す空気に肌がさらされる。




「こっちこっち」



言われるがままに、瀬戸響に連れられたのは、木造でできた旧校舎裏側だった。


崩れた石段を登り、今は使われていない抗火石で作られたごみ焼却炉までくると瀬戸響はピタリと足を止めた。



転校してきたばかりなのに、こんな場所よく知ってるな。

眉を潜めれば、コイツに頭を下にグイッと無理矢理押されて焼却炉の端にしゃがみ込む形となった。


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