第4話 破壊、始まり 1

 中学生によく見られる演奏の課題は、主に次の4点である。

・雰囲気で吹いてしまい、楽譜通りに演奏できていない。

・木管パートの連符が崩れている。

・金管パートの高音が「出たらラッキー」な運任せ。

・低音楽器の演奏が不安定。


 コンクールは審査の場であり、楽譜に忠実であることが前提だ。しかし、耳から情報を得ることの多い中学生にとって、それは意識されにくい。

 木管パートの個人練習やパート練習からメロディばかりが聞こえてくるときは要注意である。できない部分を避けている証拠だからだ。木管を希望する生徒は、真面目な子が多い。だからこそ、できない自分と向き合うことに苦しむ。


 金管パートは肺活量の点で、中学生にはなかなか厳しい。中1の男の子などは、まだ成長前で音も細く頼りないが、中3になると体つきも変わり、しっかりした音が出せるようになる。運動部ではないが、吹奏楽にも「体づくり」が必要なのだ。

 時折、トランペットに「スター生徒」が現れる。伸びやかな高音を自在に響かせる生徒だ。そんな存在がいるだけで、バンド全体の音楽の可能性が大きく広がる。


 低音楽器を担当する生徒には、一人での練習が難しい子が多い。チューバやユーフォニアムといった楽器は、吹奏楽部に入って初めて知った、という場合も多い。

「チューバを吹きたくて入部しました!」という生徒は、珍しい。希望楽器に届かず、流れ着くようにして低音パートを担当することが多い。できているかどうかも自分ではわからないという子もいる。だから、こちらから積極的に支援をする必要がある。


 要するに、どのパートにも丁寧な支援が必要なのだ。合奏中に「できてないからやっといて」と丸投げするのは意味がない。「ちゃんと吹け」と怒鳴っても何も変わらない。一人ひとりの現状に即したサポートが不可欠なのだ。

 だから、私は思う。私一人では無理だ。だからこそ、子どもたち同士の「学び合い」が重要なのだ。


 私の目指すバンドと、中川先生のバンドは、対極にあるように思う。中川先生は、圧倒的なリーダーシップで音楽をつくる。その姿は、ある意味「宗教的」とも言える。


 いつものように合奏が始まる。集合時間になってやっと動き出す。集合時間の5分後、挨拶をして練習が始まった。


 テンポを落として細かい部分をさらっていく。自由曲も課題曲も、全体としては形になっている。しかし、細部に目を向ければ、ほころびは多い。個人の力でカバーできる子はいい。しかし、そうでない生徒には、それが難しい。


 私は、合奏の中でこそ力を引き出したい。効率は悪くても、実践の中で学ばせたいのだ。


 そして今日、練習は転機を迎える。

 中川バンドを壊し、新たなバンドが生まれる。


 「今日こそ!」と狙っていたわけではない。ただ、思いがあふれ出し、止まらなかっただけだ。

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