第32話
フィルディンの言葉をもとにジーク達はサロメの町に向かった。
コンラッドはやっと得た手がかりにこれでイライアが見つかればと思っていた。が、連れ去った賊の事がある。たぶん、賊と戦う事になるだろう。自分やジュリアナ、フィルディンは良い。が、ケビンとクォーツ、ジークとローズはどうだろうか。まあ、ケビンとジークは剣術の腕はあるようだ。心配なのはクォーツとローズだった。クォーツは魔術の腕はある。がローズは……。
コンラッドはふうと息をつく。空を見上げたが。どこまでも澄み渡っている。自分の気持ちとはあまりにも違う。恨めしい気持ちでいたのだった。
1日経ってサロメの町に着いた。フェルディンが案内して賊のアジトの近くまで来たらしい。ローズは不安でジークを見た。自分が付いていってもいいのかどうか。それを感じ取ったのか、ジュリアナが言った。ちなみにローズは彼女の馬に乗せてもらっていた。
「……ローズさん。危なくなったらすぐに逃げろ。馬からは降りるからな」
「わかりました」
頷くとジュリアナはさっと馬から降りた。ローズも倣って降りる。コンラッド達、男性陣も降りた。
「……皆。武器は持っているな?」
「ああ。いつでもいいぜ」
ケビンが頷くとコンラッドはすらりと剣を鞘から抜いた。フィルディン、ケビン、ジュリアナが続いた。ジークも雷光剣を抜く。クォーツとローズは魔法用の杖を構えた。
「では。私とフィルディン様、ケビン、ジュリアナはこのまま行く。ローズさんとクォーツは物陰で待機してくれ」
「……俺はどうしたらいい?」
「ジークも行ってくれ。君の魔法剣は最後の手段に取っておく」
「わかった」
「では。皆、健闘を願う。一旦、散ってくれ」
皆が頷く。コンラッドはフィルディンとアジトの近くに行った。ローズは杖を握りしめるとクォーツと共に物陰に行ったのだった。
その後、アジトに賊達が戻ってきた。コンラッドとフィルディンは外から窓を覗いていた。賊達は酒びんを呷り、大きな声でしゃべっている。
「おう。あの巫女様はおとなしくしているか?」
「……ああ。地下牢で鎖に繋がれてらあ。おとなしくどころか。もうあの世に行ってるかもなあ」
「へえ。なかなかのべっぴんだったのに。残念だな」
あの世と聞いてフィルディンの纏う空気が変わる。殺気と言って良いピリとしたものが辺りに広がった。コンラッドはまずいと思った。このままでは賊が皆殺しだ。
「……けどよう。巫女様は歳をとらないと聞くぜ。あの巫女様もけっこういい年らしいな」
「え。そうなのかよ。若い娘だとばかり思ってたぜ」
そう言って2人とも酒びんをまた呷った。コンラッドは仕方ないと腹を括る。フィルディンに目線で合図を送った。彼も真顔で頷く。音を立てないようにしながら扉の近くに行った。フィルディンが先に行き、足でいきなり扉を蹴破る。物凄い音が鳴った。どおんと木の扉は粉砕され、アジトに使われている建物が揺れた。
「……てめえら。月の巫女はどこだ。もう殺したのか?」
低い地を這うような声でフィルディンが問う。賊達は恐怖を張り付けた表情でこちらを見ていた。
「……な、何だ。お前ら、何もんだ?!」
「名を名乗る程のもんでもねえよ。おい、月の巫女を閉じ込めた地下牢はこの下か?」
「……ひい。そ、そうです」
「案内しろ」
「……わ、わかった。付いて来いよ」
フィルディンの殺気に押された賊の1人が案内すると言い出す。コンラッドはふうと息をつきながらもう1人の賊に近づいた。
「おい。お前らだけか?」
「……いきなりなんだよ。地下牢に見張りの奴がいるくれえだ」
ヤケになったらしいもう1人が答えた。フィルディンは地下牢に続くという入り口を賊に探させている。すぐに賊はアジトの奥にあった本棚を押す。ごおと音が鳴り木の床の一部が開いた。
「……これが地下牢への入り口だ」
「あんがとよ」
フィルディンはそう言うと剣の柄で賊の鳩尾を勢いよく殴りつけた。賊はすぐに昏倒する。コンラッドももう1人の頭を殴った。どさっと男は倒れた。
「コンラッド。ここが地下牢への入り口だ。行くぞ」
「わかりました。行きましょう」
頷くとコンラッドとフィルディンは2人で床の開いた部分から地下に降りていったのだった。
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