第15話まずは掘るのだ

 女はキャパティと名乗った。


「ふーん。僕、アウグ」

 ミクル姉にみさおを捧げる(予定)の僕はキャパティの子供体型には興味を示さないのだ。


 なお、強欲ババアが誘惑してきたら乗り換えもやむなしの操であるが、これは男の子だから仕方がない、仕方がないったら仕方がない。


 周りの状況を改めて観察する。

 谷の底はかなり広いようで、結界のように松明で安全地帯を作っても、僕が降りてきた崖側以外は暗い闇が広がっている。


 そこで僕はある気配をキュピーンと感じてツルハシを取り出し、崖のすぐ側面側にある壁をカンカンと掘り進める。

 すぐに鉄鉱石らしきカケラがすぐに発見できた。


 ある! きっとある〜!

 僕が求めてやまないアレが!


 僕は欲望にまみれて宝を求める本能を爆発させてツルハシを振るい続けた。


「あの〜、せめてこちらを向いて話をしていただきたいでござるが……、なにしてます?」


 その様子をキャパティは松明の中心地から離れず座り込んだまま、僕があげたダンジョン牛の干し肉をモヒモヒと食べながら僕に訴えかける。


 キャパティも顔は可愛らしいが、僕と3つ、4つぐらいしか年は変わるまい。15歳の成人したてというところで、まだまだ小娘で子供だ。子供は庇護する存在なのだ。

 僕が大人の女性が好みというのは関係がない、ないったらない!


 なお、干し肉をあげる代わりに部下になるようにという条件付きで、晴れてキャパティは僕の部下1号だ。


 なぜ、そんな条件かって?

 なんとなく?


 それはともかく、キャパティの質問に僕は堂々と答える。

「見ての通り、穴掘ってるんだよ」


 かつて偉人が言った。

 なぜ穴を掘るのか、そこに山(壁)があるからだ、と。なお、その偉人は次の山で遭難して亡くなったけどねぇー。

 偉大なる行動は常に危険と表裏一体なのである。


 僕のは挑戦の結果ではなくて、欲望の落とし穴の結果だけどねぇー。


 それはともかく。


 気配がするのだ。

 僕が求めてやまないお金……もといダイヤモンドの匂いが。


「ハァ……」

 事態がよくわかっていない様子のキャパティ。

 ぬるい! ぬるいぞ、キャパティ!! お腹が膨れて眠くなっている場合ではないぞ!?


 この暗い深い穴で疲労しきって、食料も付き、手持ちの松明も切れかけて、そんな完全詰みの状態から生き残って気が緩んでいる場合ではないぞ!!


 ダイヤモンドが見つからなかったら、僕らはこのまま野垂れ死になんだよ?

 こら、頭がゆらゆら揺れてるぞ。お腹が膨れたからって眠くなってるんじゃない!


 でもまあ、絶望から救いあげておいて叩き落とすのは可哀想だから、僕らの追い詰められた現実ってヤツは教えてないけど。

 うん、なんとかなるなる。


 そもそも彼女がなぜここで行き倒れしていたかといえば、ダンジョンに潜っていたそうな。

 そう、あのダンジョンである。


 ダンジョン。

 その言葉を聞いてピンッとこない人はいない……とも限らないが、大体の人は聞いたことがあることだろう。


 そこには様々なダンジョンが存在し、その奥地にはいくつもの財宝……お宝が眠っている。


 中にはもちろんハズレも存在するし、天然洞窟にモンスターが入り込んだだけのダンジョンも存在する。


 しかし、それがどのようなものであれ、未知の絶景や天然の鉱石に出逢えるのは間違いない。


 つまり、それは夢とロマンとついでに欲望に満ちた場所なのだ。

 もちろん、死の危険は天井知らずだけどね!


 キャパティも僕が偶然通りがからなければ(?)、松明の明かりも切れて真っ暗闇でモンスターに襲われておしまいだったことだろう。

 うむうむ、ゆえに食料と引き換えに我が部下になってしまうのも致し方ないことだろう。


「あ、僕は奴隷だから部下である君も一緒に奴隷になるからね!」

「だ・ま・さ・れ・た!」


 眠そうになっていた目をカッと見開き、バンバンとその場で床を叩き不満を訴えるキャパティ。


 うむうむ、契約はよく考えて結ぼう。


 そう言っても彼女はここで僕に助けてもらわなければ、そのままお陀仏だぶつだったわけだから選択肢なんてなかったわけだけど。


 ここは無事に地上に出たら、そんな話は知らないと反故ほごにするのが妥当なところだろう。

 魔法で契約を結ぶとか、奴隷の首輪とか物語だけの話だ。

 ……物語だけだよね?


 だけど、キャパティは会話の間も壁を掘るのをやめない僕を見て、深くため息を吐き言った。


「はぁ……、まあしょうがないです。坊ちゃんに助けられて部下になる約束をしたんです。奴隷の奴隷になるのもやむなしです。どうせ、このままだと人生終わってたんですから、人生のボーナスゲームと思って諦めます」


 ボーナスゲームなのに諦めるとはこれいかに。

 ところで、ござる口調はどこいった?


「あれは国元の方言です。一応、坊ちゃんは私の新しい主人あるじですからね、口調ぐらいは整えておきます」

「うむ、良きにはからえ」


 キャパティは元々、東のエンガルドという小国の生まれで、その国では主従は絶対で仕える主人に生涯の忠誠を誓う修羅の国だそうだ。


 修羅の国は文字通り。

 周辺国で戦争ばかりしていて滅びたり、新しい国が興ったり、色々なのだそうだ。


 彼女は仕えていた国が主人も家族も丸ごと滅びて、およそ12歳の頃にこの国にまで流れて来た。


 この世界の12歳はなかなか過酷な生き方を求められるらしい。

 僕も12歳で穴掘ってるし。


 そこでとある貴族のご令嬢に拾われて、終生の主人と忠誠を誓ったのだが、暴虐なる王とその側近たちの手によりその貴族家は没落、必ず守ると誓った令嬢も行方不明になってしまったそうだ。


 あー、気立ても性格も良い貴族のご令嬢なんて高く売れるからねぇ〜。


 ねえ、もしかしてお嬢様も12歳だったりしない? あ、そうなんだ。

 12歳って大変なんだね……。

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