ひと掘り行こうぜ

パタパタ

奴隷編

第1話我が名はアウグスティン・セリオンティン(嘘)

 僕があえて言うならば。


 疲れた心に穴掘りはいかがでしょう?

 無心になって穴を掘りましょう。

 穴を掘り、地底世界を満喫する。


 この物語は疲れた人の心に無心で穴を掘る、そんな物語……かもしれない。







 奴隷の朝は過酷だ。


 夜明けと共に目覚め、皆で粗末な食事をして、おさな子であっても仕事をする。

 食事は日に2回。仕事を終え夜になると、次の日のための用事を済ませ、あとは早々に眠りにつく。

 簡潔な1日のルーティンだ。


 無論、休日など存在しない。

 求む、週休2日制と3度の飯。


 我輩は奴隷である。

 名前はまだない。


 前世の名はアウグスティン・セリオンティンだ。

 ごめん、嘘だ。

 適当にそう名乗っていたら、いつのまにか皆からアウグと呼ばれるようになった。


 育ての親である美女な強欲ババアもアウグと呼び出したものだから、今ではもう僕の本名は不明だ。


 アウグスティン・セリオンティンは魂の名前だから、それでいいんだろう。ソウルネームとか言った方が格好いいかなぁ?


 中2病と呼ばれる時期に、心から湧き上がるのがソウルネームなのだそうだ。


 いつの頃からか、僕はどこで覚えたのかわからない知識をいつのまにか持ってた。

 生まれたての子供が前世とか生まれる前のことを覚えているという現象だろう。

 多分、そのうち忘れる。


 過去がどうのといったところで、明日がどうなっているかすら分からないのだ。

 もしかすると明日には暗く深い真っ暗闇の穴の底にいるかもしれない。それが人生だ。


 それでも精一杯生き抜いて笑ってやる。

 それが全てだ。


 いきなりだが、生きるのには金がいる。なぜなら僕は奴隷で、奴隷商である美女の強欲ババアに貢がねばならんのだ。


 繰り返すが、幼な子でも仕事をしなければならない。。

 なので僕の奴隷生活の5歳の頃には、エネメル川という浅くも幅の広い川に入って、ヒスイ探しをすでにしていた。


 なんとその川ではヒスイが取れるのだ。

 滅多に取れないから高価なんだけどね。


 当時から僕は見目麗しい男の子だったわけだが、そんなふうに仕事ばかりで遊んでいられたわけではない。


 まったく、5歳の子供に川でエメラルド取りの仕事をさせるとはなんと酷い話であろう。それでも5ミリ程度の大きさのエメラルドでも見つければ、その日は腹一杯飯が食えるのだ。


 5歳が腹一杯になる程度だから大した量じゃないが、その僅かな食事さえ事欠くのだから困ったもんだ。


 子供ができる仕事が他にないんだから仕方ないといえば仕方ない。それでもお稚児ちご(性◯奴隷)として売られるのはご勘弁なのでマシだといえよう。


 でも綺麗なお姉様が買ってくれるなら無料でいい、むしろついていく。そんな熱き志を胸に秘め、日々エメラルド拾いの毎日を送ったものだ。


 ある日、黒パン一個も飯がないときに他の奴隷たちがパンを奪い合う事態が発生した。

 年長者がパンを分け合おうとする慈愛を見せたが、食料の総量自体が元より足りなかった。


 ゆえに僕は年長者を含め、その場にいる者たちに向け告げた。


「人を助ける者はまず自らを助けてこそ人を助けられるのだ!」

 うん、自分でもなに言ってるのかよくわからない。


 きっと、間違いなく、僕はお腹が減り過ぎていたんだ。

 そこで空腹でヤケになった僕は川で魚を取って皆で泣きながら食べた。


 奇跡的に網で沢山魚が取れて良かった。

 そんな野生味あふれる5歳児だった。


 それもすでに7年も前の過去のこと。

 僕は12歳になった。


 あれから色々と不便は多いが、皆の働きもあって食事はその当時より少しはマシになった。


 それでも食事の栄養供給の問題で、僕は平均値よりもチビっこくて可愛く(僕比較)なってしまった。


 川では稼ぎが少ないので、現在は木で作ったツルハシでカンカンサクサクと土の中を掘っている。


 ひたすらにこの暗き闇を薄暗い手製のランタンを使いながら照らし掘り進む。

 ああ、無常。


 良質な土も手に入るが、そんなものより鉄をくれ、せめて銅。浅い層だと当然、大したものは産出せず土ばかりだ。

 それでも時々、石炭なども取れるのがありがたい。


 たま〜に岩塩などもあるが、それはレア素材だ。俺はまだ一塊しか見つけたことがない。


 そんなアタリがあれば夢が膨らむし、深く掘れれば貴金属が産出する可能性も出てくる。しかしながら、木のツルハシだと時間も体力も果てしなくかかってしまう。


 それでも他に使える素材がないのだ。

 いまあるモノで勝負をする。

 それは人生を過ごすうえで、基本にして大事なことなのだ。


 木のツルハシはすぐにダメになるので効率は悪い。なので何本も背中に担いでひたすら掘り続ける毎日である。


 背中に木のツルハシを担いだ僕の見た目はさながら木亀である。そんな亀いないけど。

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