第24話 昔話
「──ってことがあったんだよなー。」
だんだんと暑くなってくる日常の鬱憤と共に先日あったことを奏太に話す。
「お、おう。やっぱお前の姉ちゃんちょっとブラコン拗らせてんな。」
「やっぱそう思うよな。」
「多分誰に聞いてもそう思われると思うぞ。」
ぱたぱたと学校指定のポロシャツの襟を揺らす。
涼しい~~。
「はあ…来週どうやって乗り切ろう…」
「あー…あの人来るんだってな、おつかれ。」
ため息をつくおれに気の毒そうな目で見てくる奏太。
「その話興味あるかも、聞かせてくれるかい?」
突然、左の耳に囁かれる。
「うお!?遥斗か!?」
「遥斗だよ。」
こいつはおれを驚かせないと会話できない呪いでもかかってんのか。
「なんかゾクゾクするからそれやめてくんね?」
「え~どうしよっかな~。」
ニヤニヤと口角を上げて何かをたくらむような顔をする遥斗。
「じゃ、じゃあ俺はここら辺で…二人の邪魔したらあれだし…」
「いや、だからおれそんな趣味ないって。」
「ええ…じゃあどんな趣味なんだよ…」
呆れた顔でおれを見てくる。
「で、あの人ってのは誰なんだい?」
遥斗が顔を近付けながらそう聞いてくる。
甘い匂いがする。どんな香水使ってるんだ。
「うーん、思い出話になるけどいいか?」
「構わないよ。」
「あ、俺も聞きてえわ。まともに話してもらったことねえし。」
「そうだな…あれはおれが小学生の時だった。」
♤♠♤
「調子のってんじゃねえぞボケェェェ!」
午前九時。優雅な朝の時間に似つかわしくない怒号。
「黙れやハゲェェェ!」
「ハゲじゃねえしィィィ!」
バシ、バシとボールが飛び交う。
おれ達は今ドッヂボールをしている。
「勇也ァ!受け取れェェ!」
初外野にいるおれに投げられる味方のボール。
それをキャッチし、背中を向けている敵に投げつける。
「ハイ一人ィ!」
そんな感じでドッヂボールをエンジョイしていた時。
「もしもし。」
トントンと肩を叩かれる。
「え?」
後ろを振り向くとそこにはスレンダーな女性がいた。
「だ…れ?」
「あれ?私のことお母さんから聞いてない?」
「君のことを迎えに来たんだけれど…」
母親の知り合い…?いやこんな美人は見たことがない…
そこから導き出された答えは一つ。
─不審者?
「っ!みんな逃げろ!不審者いる!誘拐犯!」
「「「「わあああああああああ!!??」」」」
蜘蛛の子を散らすようにして一目散に逃げだした。
「え!?ちょっと!?蓮枯クン!」
不審者は困惑したようにおれの肩を掴もうとしたが、振り切って全力で駆け抜ける。
「…っ!美夕貴さん…聞いてた話と違います…!」
膝から崩れ落ちてブツブツつぶやく姿は哀れに思えた。
「ただいまぁ。」
昼ごろに家に戻った。
玄関には見覚えのない靴があった。お客さんだろうか。
「まいっか。」
手を洗い、リビングに行く。
「……は?」
リビングの椅子に座っていたのは──不審者だった。
「さっきはよくも逃げてくれたよね?蓮枯勇也クン?」
「えーっと…どちら様でしょうか…?」
知らんふりをするが意味はなさそうだ。
「あれ、勇也と知り合いだったの?」
母さんがおれ達を見てそんなことを言う。
「ああ、美夕貴さん。先ほど私、勇也クンに声をかけたんですが…不審者と叫ばれて逃げられてしまいまして…」
よよよと涙を流して母に訴えかける不審者女。
「こら勇也。いきなり不審者なんて言っちゃダメでしょうが!」
「いやだって…」
「だってじゃありません!」
十分ほど母に説教された後、不審者女と話すことになった。
「さて、勇也クン。自己紹介からしようか。私は
「…蓮枯勇也。よろしくお願いします。」
薄いベージュのブラウスを着た曽禰カ崎さんは手を差し出してきた。
「はい、握手だよ。握手。」
「…はあ。」
しぶしぶ手を取るとニコニコした表情でおれの顔を凝視する。
「…なんすか?」
「いやー、かわいい顔だなあって。」
「かわっ!?」
褒められ慣れていなかったため、柄にもなく動揺してしまう。
その瞬間に手を引かれ、抱き寄せられた。
柔らかい感触と、仄かにたばこの匂いがした。
「よしよし。可愛い子だな。」
頭を軽く撫でられる。
「……。」
「あれ?照れてるのかな?勇也クン?」
「て、照れてないです。」
「え~?顔真っ赤だよ~?」
からかうようにして喋りかけてくる曽禰カ崎さん。
「う!うっさい!ハゲ!」
おれは曽禰カ崎さんを突き飛ばし、ダンダンとわざとらしく足音をたてて
部屋に閉じこもった。
「はああああああ………」
部屋に戻って早々ため息が出た。
これまで関わることのなかった大人のお姉さん。魅力的すぎる…!
鼻腔をくすぐる甘い匂い。それがずっと離れなかった。
おれは少しでも気を落ち着かせるために深呼吸をした。
コンコンコンとノックの音がする。
「入っていいかな?」
ガチャリと戸が開き、曽禰カ崎さんが入ってきた。
「…さっきはすまなかったね。私も少しテンションが上がってしまっていたよ。」
申し訳なさそうに謝ってくる曽禰カ崎さんを見るとどうにもやるせない気持ちになった。
「こっちこそ突き飛ばしちゃってすみません…」
「あ~…それなら気負う必要はないさ。私はこれでも探索者だ。」
探索者か。最近はメディアへの露出が多くなってきたこともあってかよく名前を聞く。
兄貴もこの前資格を取ったって言ってたし、親父も昔は探索者だったらしい。そこまでマイナーな資格ではないのかもしれない。
「探索者…かあ」
「あ、気になるのかい?そうだよね、男の子はやっぱり憧れるよね。私もそうだったからその気持ちは良く分かるよ。」
コクコクと頷きながら俺の呟きにそう返す。
「…そうだね。この二週間何もしないというのも面白くはないだろうし。お姉さんが探索者のことについて教えてあげるよ。」
ウィンクをしながらそう言ってくる曽禰カ崎さん。その姿はやはり妙に格好がついており、美しかった。
「…なら。お願いします。」
断るのも忍びないと思い、さして興味のない探索者のことを教えてもらうことになった。
これが師匠とおれのファーストコンタクトだ。
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