第4話 お揃い
勤勉な方だが、それでも学校に通うのは面倒だ。だが最近は少しだけ楽しい。
なぜなら……。
「おはよう、雨宮さん! 今日も可愛いね!」
雨宮さんに会えるからだ。元々は彼女が真人間になるためにアプローチをかけ始めたのだが、なんやかんやで俺も楽しんでいる。
「……お、おはよう。鳩山くんは朝から……もう……恥ずかしい……」
クラスメイトの視線から逃れようと、カバンで顔を隠す。この仕草も小動物みたいで可愛いけど、この程度で怯えてちゃ将来不安だな。
「そんなに苦手なのかい? 見られるのが」
「……だから前髪伸ばしてたのに……」
あー、そういう理由があったんだ。わからんなぁ……。
そりゃ俺だって、何か恥ずかしい失敗をした時は視線が怖くなるよ? でも常日頃から視線に怯えるのは、よくわからないな。生きていけないじゃん。社会人になったら人前でプレゼンとかあるだろうし、そもそも大学で研究の発表とかあるだろ?
「確かに前髪切ったら見られるよね。可愛いし」
「可愛くないって……」
この期に及んでまだ言うか。なんで認めないんだ? 俺が頭のおかしいノンデリ野郎だったら、クラス皆にアンケート取ってるぞ? 俺は良識があるからしないけど。
「他の女子に聞いてみたらどうだい? 俺なんかの言葉より信用できるだろ?」
「……鳩山君は……自分がイケメンかどうか聞けるの?」
「え? いや、それはさすがにキモいかなぁ……」
「でしょ……?」
中々やるじゃないか。見事に論破されちまった。
「でもそれは俺が普通の顔だからであって、イケメンだったら聞けるよ? キミも可愛いんだから、堂々と聞けるはずさ」
「それは……鳩山君が物好きなだけで……」
堂々巡りの予感がするけど、俺は諦めないよ。雨宮さんが自分に自信を持つまで、俺は食い下がり続けるよ。席替えしたらさすがに諦めるけど。
「待ってくれよ。俺は他の男子と似たような感性だぞ?」
「……根拠はあるの? 普通の男子は私なんか眼中にないけど……」
「世間一般で人気の女優とか俺も好きだし、逆もしかりだし」
最近はコンプライアンスの兼ね合いで少ないと思うけど、昔の女芸人さんってブサイクを武器にしてたじゃん? ああいうの見たら俺も失礼ながら、『この女性、顔面偏差値低いなぁ』って思うよ。ってことはまともな感性だろ?
「そんなに嫌かい? 俺なんかに褒められるのは」
「え……別に……嫌じゃないんだけど……皮肉かなって……」
「皮肉じゃないって。あっ……」
「……?」
あれ? 雨宮さんの手……。
「おー!? すげぇ!」
「きゃっ!?」
なにコレっ!? 爪が……テッカテカじゃん!
「光ってるじゃん! 爪が光沢を帯びてるじゃん!」
すんげぇ! ツヤツヤしてる! 何があった!? 栄養のあるもの食べたの?
「く、くすぐったい……」
「あっ……ごめっ……」
や、やっちまったぁ! ピカピカの爪に興奮して、ガッツリと手を掴んじまった!
「……」
ま、まずい。怒ってる……よな? セクハラで訴えられるのか? それともビンタされる? 泣き叫ばれる……?
「え、えっと……」
「……」
うつむいてプルプルしてるけど、絶対怒ってるよな? 子供が泣き叫ぶ寸前のような雰囲気があるぞ。まずい……傷つけちまったか? そして俺の経歴も傷がついちまう。いや、俺のほうはどうでもいいんだけど……。
「やっぱり可愛い手だね。柔らかいし、スベスベしてるよ」
とりあえず褒め殺す方向でいこう。毒を喰らわば皿までって言うだろ? どうせセクハラになるなら、とことん褒めよう。ほら、どうせ遅刻になるならとことん遅刻する的な……さ。
「うー……」
こ、この表情は……何? 怒ってると言われればそう見えてくるし、泣きそうと言われればそう見えてくる。でも実際は違う気がする……。恥辱……というほどでもないけど、羞恥心寄りの怒り……?
「これ……マニキュア……かい?」
絶対違うと思うけど、とりあえず話を逸らせればそれでいい。雨宮さんのこの表情を見続けてたら、変な気分になりそうだし。
「え、あ、うん……? そうだけど……? え……?」
俺の狙い通り困惑した表情に変わったが、ちょっと待ってくれ。
え、これマニキュア……? マニキュアなのにテカテカするの?
「は、鳩山君が勧めてくれたんだよ? マニキュアが似合うって……」
……あの、その……違うんですよ。俺さ、マニキュアって口紅の爪版だと思ってたのよ。だから赤色とかピンク色の爪になるのかなって。こんなテカテカになるなんて思いもよらなかったというか……。
「とても似合ってるよ。おしとやかな大和撫子だからこそ似合うというか……」
とりあえず知ったかぶりしておこう。俺の予想していたマニキュアと全然違うが、ここはすっとぼけるべきだ。
「ちょ……調子に乗ってる感じしない……? キモくない?」
「なんで? より一層、美少女になったというのに……何がキモいの?」
「……美少女じゃないけど、ありがとう……」
なんかわからんけど、突然手を握ったことがうやむやになりそうだ。手を離すタイミングを完全に見失ってるけど、この際だから触り続けるか。
なんだろう……安心感というか、多幸感? 自分でもよくわからないが、プラスの感情が湧いてくる。不思議な感覚だ。
「マニキュアなんて初めてだし、相談できる人もいなかったから……変じゃないかって不安だったよ」
うーん、変といえば変なんだよなぁ。俺の知ってるマニキュアじゃないもん。俺が無知すぎるだけなんだろうけど。
「変じゃないよ。キレイだし、なんていうかカッコイイよ」
「カッコイイ……? そう……?」
「うん。カッコイイし可愛い。カッコ可愛いよ」
「あはは、何それっ」
まただ。完全に予想外のタイミングだけど、また例の笑顔を見ることができた。
手を触ることができたし、笑顔も見ることができた。ただのお節介で始めたことなのに、役得じゃん。
「俺にも塗ってくれない? マニキュア」
俺もカッコよくなりたい。善吉マークツーになりたい。
「え……? は、鳩山君に……?」
「うん。男がマニキュアしたっていいでしょ? 一緒に校則違反しようよ」
我ながら図々しいと思いながらも、握ってない方の手を差し出す。どうでもいいけど、雨宮さんのキレイな手を堪能した後だと、自分の手がなんだか醜い物に見えてくるな。うっすらと指毛生えてるし、爪の手入れもしていない。血管も浮き出てるよ。
「あっ、勿論お金は出すよ? マニキュアって高いだろうし」
「えっと、お金は別にいいけど……。じゃ、じゃあ昼休みに……」
「やった! ありがとっ!」
ダメ元だったけど、承諾してもらえたよ。なんかさ、なんかさ、こういうのって、友達っぽくないか? 青春っぽくないか?
「楽しみだなぁ、マニキュア」
「そんなに……? 本当に変な人だね」
変な人という不名誉な二つ名を冠しているが、悪意は一切感じない。むしろ、好意的な何かを感じるね。少なくとも嫌われてはいないはずだ。
「だってさ、お揃いのマニキュアなんて友達っぽいじゃん?」
「……!? お、お揃い……?」
なんか急に顔が赤くなったぞ? なんでいっつも赤面するんだろうな。女の子って本当に難しい。
「や、やっぱりダメ」
「なんで!? お互いにノリ気だったじゃん!?」
心変わり早くない!? これが秋の空ってヤツか!?
「えっと……? 時間かかるし……それにベースコート持って来るの忘れたし」
「あー……中途半端にやると良くない感じなんだね? それはなんとなくわかるよ」
ベースコートはよくわからないけど、おそらく下地的なもんだろ? マニキュアがコンディショナーなら、ベースコートはシャンプー的な感じ?
「……おそろいかぁ」
何か呟いたっぽいけど、独り言だろうから言及しないでおこう。
それより、本当にダメなのか? 俺もマニキュア塗ってみたいんだけど、自分で塗らなきゃダメなのか?
「じゃあ放課後とかどう? 休日でもいいんだけど」
「きゅ、休日……!? 休日におそろいのマニキュアを……!? きゃっ!?」
えらく取り乱してるな。筆箱の中身を下にぶちまけちゃってるし、ああもう、案外世話が焼けるなぁ。
「……っ!?」
「あっ、ゴメンね」
拾うのを手伝う際、髪と髪が触れ合ってしまった。古典的なラブコメだったら手と手が触れ合うんだろうけど、その理由がよくわかったよ。髪の毛が触れあうのは本当に気まずい。女子側からしたら、絶対不快だもの。ほら、触れた部分を必死にさすってるよ。よっぽど嫌だったんだな……。
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