第2話

「ねえ、私はここで10年間も働いているのよ。どう、凄いでしょ。勿論、親や友達に会いたいし、話す時には電話するしかないのよね……。ここって良いところなのか、それとも悪いことなのか、今になっても解らない……不思議よね……」


 しばらくして、私はぼんやりとした頭で一つだけ聞いてみた。

 何故か気になったのだ。


「私は死んだんですか?」


 仁志田さんは急に笑った。


「私も解らないわ。ここがあの世かどうかなんて誰も解らないと思うの」


 二人で色々と話した。

 会社でのつまらない出来事や徹底的に理詰めをする上司の悪口。


会社が終わると、唯一二人だけで落ち着ける場所は、行き着けのラーメン屋だけだった。そのラーメン屋での話になると。


「できたぞー」


 奥の調理場からしわがれた声が聞こえた。


「ハイッ! 今行きます! ねえ、あの人はこの店の店主だけれど、あの人も知らないのよね」


 仁志田さんは急に元気よく言うと、奥の調理場から注文した物を順々に運んで来た。

 私はカウンターに並んだそれぞれの料理を前にしてゆっくりと箸を掴んだ。

 堪能し胃に落とす緩やかな楽しい時が流れた。

 あの二人で食べていたラーメン屋を思い出したのだ。

 極上の美味だった。

 まさに生き返ったと言えるほどの味だった。

 皆、個性的な味を極限まで引き出し。

 感動することやぶさかではなかった。

 仁志田さんがここでずっと働いている意味が解った気がした。

 そうだ。あの二人で行ったラーメン屋の味だったのだ。


「ねえ、あなたもここで働かない?」


 私はその言葉を聞き流して黙々と料理を食べ続けていた。


「ねえ、もう一度聞くけどあなたもここで……」




 気が付くと、私は遊歩道で倒れていた。

 ひどい眩暈を極力抑えこんで立ち上がると、会社へ戻ることにした。

 今ならできる。

 私はそう確信していた。

 どうしてもリストラより辞表を受け取ってもらわなければならないと思った。


 10年間働いた記憶が走馬灯のように過る。

 上司の心配そうな顔を見ては気を引き締め。

 同僚の心配そうな眼差しを受けては手に汗を握った。


 彼女は帰らぬ人だった。


 仁志田さんはまだ新入社員だった頃の私をよく面倒を見てくれていた。

 しかし、仁志田さんは私の会社の親会社による大規模な人員削減の対象になり、知らない住宅街で大きな放火をして間もなく焼死体で発見された。

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