在りし日のダンジョン攻略 ~色褪せない思い出~

たっきゅん

在りし日のダンジョン攻略 ~色褪せない思い出~

 月影オンラインMSOというVRMMOにはランダム生成される専用マップの特殊なダンジョンがある。そこに栗毛聖女と呼ばれるラピスを含む6人のプレイヤーが挑んでいた。ラピスたちは階段を何度も降り、薄暗い通路を進む。最期の階層にある入り口の扉の前で白銀の鎧を纏った聖騎士のエミルが止まった。


「ラピス、"移動速度増加"を私に」

「わかった。"移動速度増加"っ! それと"断絶の盾"っ! エミルさん、何かあったらすぐに階段に戻ってきてね」

「……まったくラピスは心配症だね。それを確認するんだよ――それじゃ行ってくる」


 胸元に星が刺繍されたローブを着た栗毛の少女、聖女ヒーラーラピスはそれに応えるように長い杖を構えてスキルを使用する。移動が速くなる支援スキルと、攻撃を3回無効にするスキル、それぞれの効果を持つ白い光と青い光がエミルへと降り注いだ。エミルは心配してくれてる可愛い妹のような存在のラピスの頭を撫でて扉の向こうへと姿を消した。


「やっぱギルマスはかっこいいよな」

「うん。コータも憧れてるもんね。私もエミルさんのようなかっこいい女性になりたいな」

「ラピスは無理だろ……可愛い系だし。まあ、そう思うことはいいんじゃねーの」


 このパーティーはギルド”第六天明王”のメンバーのみで構成されている。そしてギルドマスターであるエミルがこのパーティーのリーダーをしていた。ラピスは軽装の少年剣士、コータに「何言ってんだ」といった目をされながらも、エミルが戻るまで彼女のかっこよさについて語り合いだした。


「いいや! 動物のボスだっての! ここまで動物ばっかだったじゃねーか!」

「ふん、ここまで動物型のモンスターが続いたといってそれは安易な発想だな。土からレンガへの変化、犬、馬、牛、ラクダと出てきたモンスターが人を乗せる移動手段に使われていたのを考えれば、最後にボスとして現れるのはバイクや車といった機械型の可能性もあるはずだ」

 

 ムキになった声が横から聞こえラピスたちがそちらを向くと、そこには声の主であるジャスターとそれを否定するように理論立てて説明するカゲミツの姿あった。

 

「で、あの二人は何をやってんだ?」

「カゲミツさんとジャスターさんはね! またダンジョン妄想で議論してるの! 今日はボスについて!」


 なんとなく察しながらもコータが呟くと、にょきっと巻き込まれないうちに逃げてきたプリアが二人の間に現れた。プリアはどういう経緯でその議論が発生したのかまで説明をする。それ聞いたラピスとコータはやっぱりと思いながら二人を再度見た。和服を着崩したジャスターと道着のカゲミツ、互いに和の装いで狐耳のアバターという共通点があるものの、想像するという行為ではこのように衝突する事態は度々発生していた。

 

「あー……ってことは、プリアちゃんは避難してきたんだ」

「うん! いつものやつだもん! それにしてもマスター遅いね!」

「そっちもいつものやつじゃねーの? 安全は確認して一人で何かないか探してるってやつ」

「正解。待たせて悪かったね。ったく、ギルメンに理解されて嬉しいのやら悲しいのやら」

「げ、今のはなしっ!」

「それはできない相談だ。さあ、私に対して思ってることはここで吐いていきな」

 

 頭を掻きながらいつの間にか戻っていたエミルが嬉しそうにコータを問い詰める。必死に言い訳を重ねるコータをラピスはこちらも嬉しそう見ていた。それはコータ以外の5人はギルド設立時からのメンバーで、コータは最近加入したばかりの新入りだったからだ。


「よかったねラピスちゃん! コータも馴染んでくれて!」


 さらにそのラピスをプリアは嬉しそうに見ていた。というのも、ギルドやパーティー、フレンドといったゲーム内の関係でもみんなが気持ちよく遊べるように、新人のコータにも気にかけていたのをプリアは見てきたからだった。そんななんとも微笑ましい光景を議論していた二人は目にし、言い合うのをやめた。

 

「まあいいさ。好奇心が抑えられなかったのは事実だしね。それよりも内部情報を共有しておく。そこの二人もこっちに来な」


 エミルが全員を集めて見てきた扉の向こうのことを話し出した。

 

 扉の向こうはいきなり大部屋が一つ、暗くて視界は悪いが薄っすらとは見える。1mくらいの距離ならアイテムの視認ができる。松明が部屋全体を囲うように配置されていた。今は内部にモンスターはいない。このことからパーティーメンバー全員が部屋に入ったら戦闘が始まる仕様のボス部屋だと思われる。


 要約するとこのような感じだった。

 

「ありがとうエミルさん。いきなりボス戦というわけじゃないなら支援はボスを見てからでいいかな」

「ま、ラピスがいりゃなんとかなるだろ!」

「こらジャスター、あんまりラピスに負担をかけるんじゃない。自己バフ強化スキルも忘れるんじゃないよ。――それじゃ、いくよ!」

 

 周囲の安全を確かめたというエミルが指示し、全員が次の階層に足を踏み入れる。土を固めたような壁は次第にレンガで出来た立派なモノに変わっていったダンジョンで、最深部にあるボス部屋へと6人はようやく足を踏み入れた。

 

「ついに来たな、アブソーバ遺跡の第10階層っ!」

「ジャスターさん張り切ってるね」

「おう! ここのボスから『転速の腕輪』が出るらしいらしいからな! STR極振りのオレ様なら超加速装備になるってもんよ!」

 

 そして遂にダンジョン最深部である10階層へと辿り着いたと、大斧使いのジャスターが嬉しそうに柄を床に撃ちつけた。情報通り暗くて姿は見えなかったがその乾いた反響音がラピスの耳に届いた。


「ねえ! いかにもボスが待ち構えてるみたい! ラピスちゃん楽しみだねー!」

「うん! カゲミツさん、支援はいつも通りでいいよね?」

「俺に聞くな。そんなものはモンスターの動きで都度変わる。どのタイミングでどのスキルを誰に使うか、それを考えるのがヒーラーであるお前の役割だ」


 姿が見えずとも会話をしながら声の方向でラピスは大まかな全員の位置を把握した。全員でボス部屋に入ったら変化があるかと思われたが何かが起こる気配はない。


「なぁ、なんか聞こえねーか? こう、車のエンジン音みたいな」

「――前の方から何かくるよ! みんな左右に散って!」


 と少し気が緩み始めた時、何か微かな音が聞こえてきた。その音が徐々に近づいてきているのに気付いたラピスは慌てて指示を出した。その少し後、ドーンと何かがぶつかる衝突音が部屋全体に響き渡った。

 

「ちょっとまて! 初見殺しじゃねーか!」

「こわっ! これが上級ダンジョン!?」

「ふん、浮かれているからだ。それにボスはやはり車だったな」

 

 暗闇での不意打ちに理不尽を訴えるジャスターと、少しレベルの足りていないダンジョンで洗礼を受けたコータがあたふたしている、ボスの登場で一気に部屋中の松明が灯り、カゲミツはやれやれといった様子でボスに気を配りながらその様子をみていた。


「ラピスはどう見る?」

「直線的な攻撃に気を付けながらカゲミツさん主体で攻めた方がいいかな――”移動速度増加”」

「ではタゲ取りは引き受けた。――参るっ!」


 ラピスからのスキルを受けてカゲミツが飛び出していく。半球状のボス部屋を走り回ろうとしたコンパクトカーをスピードが乗る前に封殺しようと、手に持った長い黒槍でタイヤに深々と突き刺した。


「感触的に弱点ではあるようだが……どれ、一通り突いてみるとしよう。――”刺展・面貫祭つらぬきさい”ッ!」


 面で突くという言葉の表現が似合うほどの連続した突きは車体にガンガン弾かれる。だがカゲミツは焦ることなく他の弱点も探していく。その緑の髪が揺れる様は風の吹き抜ける草原のようだった。

 

「相変わらずのバーサーカーっぷりだな」

「ジャスターさんがそれ言う?」

「さっきのエミルにもだったが、コータも言うようになったじゃねーか――じゃあついて来いよ!」

「――燃えちゃえ! ”ファイヤーボール火球”!」


 ジャスターに続いてコータも攻撃に参加し始める。後ろにいるラピスのさらに後方からもプリアの放った火の玉が車を直撃し黒煙を上げた。乱戦が始まったように思えたが、車は基本的に前進、後退とリアルのような円を描くような旋回しかできないようで狭いボス部屋の中ではほぼサンドバックと化してHPを減らしていく。


「ねえラピスちゃん! あの『車』ってモンスターはさすがにないよね!」

「うん。これがボス戦とは思えないし、HPが半分を切ったら強くなって名前も変わるんじゃないかな――”多重詠唱・攻撃防御力増加” と”HP回復ヒール”っ!」

「――流聖剣ッ! さすがラピス、ナイスタイミング! 助かった、ありがとう! もうすぐ半分だ、畳みかける!」


 プリアと話しながらも素早さAGIが低めで、受けることに防御のステータスを置いたエミルは避けきれないと判断した。そこで、ラピスが攻撃力増加まで乗せてくると読んだエミルは避けきれないと思った時点でラピスを信じて攻撃に転じ、カウンター気味にHPを一気に削り半分を割った。


「止まった?」

「第二ラウンドだ。気を抜くな」


 コータが油断しないようにカゲミツが槍を構えたまま次の変化を待つ。HPバーの色が橙色に変化した後に一応は攻撃を加えて形態移行中にダメージが入らないのをさらっと確認していたのをラピスは見逃さず、さすがだと思いながら車の変化が起こるのを待っていた。


「何か出てくるよ!」

「……人? ううん、あれは天使? 一気に小さくなったね」

「小さくなる系の敵は戦闘力が上がるんだ。お約束だぜ?」


 人のようで良く見ると違う、陶器のような白くツルツルな体の背中からは羽が生えていた。ちなみにその車を壊されて敵意を剥き出しにした天使には名前があり、『ノリエル』という名前に『車』から変わっていた。

 

「カゲミツ、代わりな。あれは私の方が適任だろ?」

「そうかもな。じゃあギルマス様にあとは任して攻撃に転ずるとしよう」


 エミルとカゲミツがモンスターのターゲットになる役を交代する。エミルは綺麗な白いバスターソードを仕舞い、取り回しの良い片手剣と丸盾を装備した。その会話を聞きながら他のパーティーメンバーは「散々攻撃してたじゃねーか」と心の中でツッコんだ。

 

『ウォオオオオオッ!!!』

「来るぞ! ――”星雲破斬”ッ!」

「いっちゃえー! ――”ブルーフレイムレーザー蒼炎光線”っ!」

 

 ノリエルが無敵状態の間に溜めモーションで威力を高めていたジャスターとプリアは、雄叫びに合わせてスキルを発動する。ジャスターは部屋の天井近くまで飛び上がりによって叩きつけられた大斧は、派手なエフェクトを散らしながらノリエルに攻撃を当てながら地面に激突した。


「こら! 二人とも早い! まだ私がタゲを取れていないだろ!」

「エミルさん! ごめんなさいー!」

「っく! エミル、ラピスわりぃ!」


 大技を2つ同時に喰らったことで目に見えてHPを減らしたノリエルは体を赤く染めあげ、目の前にいたスキル使用の反動で硬直しているジャスターに殴り掛かってきた。

 

「――”聴衆鳴盾”ッ! 弱いものイジメしてないでこっちにきな!」

「大丈夫だから、落ち着いて。――”HP回復ヒール”!  ――”移動速度増加”っ! ジャスターさん一度下がって!」

「間に合わんな。コータ、うまく立ち回れよ。――”刺突・推飛”ッ!」


 エミルが剣で左手に持った盾を打ち鳴らし注意を逸らそうとするが攻撃回数が足りていないのかノリエルはジャスターを殴り続ける。ラピスはなんとかエミルがタゲ取りできるようにジャスターを回復させて支援スキルを使うが、連続攻撃によりスタン気絶状態に陥ってしまった。それを見たカゲミツはノックバック強制後退スキルを使いノリエルの方を無理矢理引き剥がした。


「ちょ待てよ! なんでこっち!?」

「押し出すスキルだから当たり前だろ。オレがそういうスキルを使うことを加味して動け」

「なかなか無茶ぶりいってやがるな……。まあ紙の俺よりはコータの方がだろうが」

「そう思うならコータがいるからと言って調子に乗るな。カッコつけたいのはわかるが筋力STRに極振りのお前にタゲが向けばこうなるのはわかっていただろ」


 助けてもらい、おまけに正論で責められるジャスターは白髪の頭を掻きながら「そうだな。すまねえ、それと助かった」とカゲミツに言い残し、一旦後方へと下がった。一方その頃コータは必死に逃げ回ってエミルに笑われていた。


「コータ! 剣士なら立ち向かえ! ラピスを信じろ!」

「ったく、そんな、こと、言われたって、――動きが速い!」


 このアブソーバ遺跡は特殊生成された簡易インスタントダンジョンだが決して難易度が低いわけではない。おまけに本来は12人で挑むのを想定して作られているのでコータが後手後手に回るのは仕方がないことだった。


「エミルさん、カゲミツさん! だいたいから二人とも攻撃に回って戦線を支えて!」

「さすラピだ。誰かが守りに徹しなくてもラピスなら支えられるってさ! みんな、やるよ!」

「あ、ジャスターさんはヒットアンドウェイで攻撃回数は調整してね!」

「わーってるよ。STR極振りのボス戦は辛いぜ……」


 ラピスからの指示で全員突撃状態へと移行する。彼女ができるというのならできるのだ。守りに専念したエミルとカゲミツは戦闘に安定感を与えるが、二人がため普通に戦っても被弾は少なくなり回復が追いつくと、動きを見てラピスは判断したのだった。


「コータはその調子で出来る限り攻撃は避けてジャスターさんと波状攻撃! プリアちゃんは大技で! もし視界を塞ぐスキルだったらみんなに発動前に離れるように言ってね!」

「わかった! 任せて! ――天に登りし火の柱、数多の命を魅入らせて……」


 このゲームにおける詠唱はただの発動時間までのプレイヤーによる遊びだ。なのでプリアが唱えだした言葉に意味はないが雰囲気は大事と、それなりに長い詠唱スキルはプレイヤーのほぼ全てがオリジナル詠唱を考えていたりした。


「――その羽を持つ者を閉じ込め、イカロスの翼を燃やし尽くせ!」

「あっ、――みんな退避ー!!!」

「最大火力でいっくよー! ”炎円柱壁ファイアサークルピラーッ!」


 声への力の込め方からプリアの詠唱がもうすぐ終わると察したラピスが叫ぶ。だが、そのすぐ後にプリアは詠唱を終え、大規模魔法が炸裂した。


「おいこらプリアーッ! なにも見えねーぞ!」

「うわっ! あぶなっ!」

「ごめんなさーい! 詠唱に夢中で発動するよーって伝えるの忘れてたー!」


 火柱に一緒に囚われた前衛の4人はほぼほぼ勘で戦い続ける。その間も炎により継続ダメージが入ったことで途中でHPが最終段階の赤色に突入したようで、攻撃が止んでいる間に火柱も解除された。


「みんなこっちきて。――広範囲高HP回復ワイドハイヒールっ!」

「こらプリア! やらかしたのか! ラピスからそういうスキルを使う時は私たちに伝えるように念押しされてただろ!」

「落ち着いてエミルさん。プリアちゃん、次からは大丈夫だよね?」

「うん! 大丈夫!」


 ラピスは全員のHPが減っているのを見てMP効率を考え、ノリエルを範囲に入れないようにしてから一気に全員のHPを回復する。全員のHPが回復したのを確認してからエミルのギルドマスターとしてのお説教が始まりそうだったが、いつものことで恐らく時間の無駄と判断し、ボス戦の最中ということもありラピスが助け舟をだしてさきほどの件は終わらせる。


「まあ、この戦闘中なら大丈夫だろ」

「それ、次に遊ぶときには忘れてるってことだよな……」


 プリアの返事にひとまず安心したジャスターと不安しかないコータはそれぞれ違った顔をしながらノリエルの前まで戻ろうとした。しかし、ノリエルは先ほどの場所にはいない。襲ってこないということはまだ形態変化の演出中なのだろうと思い周囲を見渡すと車に泣き縋るノリエルの姿を見つけた。


「なんか可哀そうなことした系?」

「気にするんじゃないよ。そういう演出なだけさ」

「いよいよ赤ゾーンだね。コータは隙ができた時だけ攻撃するようにしてね――”移動速度増加”っ!」


 カゲミツができる限り相手に行動させないような立ち回りをしていたりするのだが……どうやらそれもここからは通じなくなるとラピスは感じた。ノリエルの想いが通じて再び立ち上がり、ひとりでに自走し出した車『フィール』との同時戦闘がそのまま始まったのだ。

 

「なんか命令してるっていうよりは……」

「ノリエルを守る様に自分から動いてるよね」


 一人と一台は連携を取りながら波状攻撃も行ってくるが、それよりもフィールがノリエルの周辺を回る様に走り回るのが動きづらさに拍車を掛けていた。


「詠唱終わったー! もっかい! ――”ブルーフレイムレーザー蒼炎光線”っ!」

「――”刺突・推飛”。ッチ、……通常攻撃を強要させられてるな。スキルを使う時は離れて発動を合わせろ!」


 スキルを使用しようとするとフィールはスピードを上げて突っ込んでくるようで、プリアの攻撃はなんとかノリエルに当たったがカゲミツがなんとかしなければ危なかったと全員がひやひやした。


「みんなごめん! 回復はアイテムでできる時にやってー!」

「あっ! そっか! 回復スキルにも反応されるんだね!」


 後衛で距離が離れていようが高速で反応してくるフィールという車だ。回復スキルを毎回使用したらずっとラピスを狙うのが目に見えていた。地道な削りと要所要所でのスキルの使用でなんとかノリエルのHPを削っていく。真っ白な羽が徐々に黒色に染まっていくのが不気味で、大技に備えながらさらに攻撃を加えていく。


「ねえ、プリアちゃん。この部屋ってこんなに暗かった?」

「ラピスちゃん! あの車の風で松明がだんだん消えていってる!」

「……エミルさん! このボス戦、時間制限あるかも! 松明が消えていってる!」


 もう一押し! そんな感覚があるラピスは一気に畳みかけるかの判断をパーティーリーダーであるエミルに託した。


「よし! みんな、スキル解禁! カゲミツ、プリアとラピスが狙われた時はまた頼んだよ! ――星の輝きを我が剣に集え”聖爛星嵐”っ! さらに”巨聖剣”発動っ!」

「――”刺突・推飛”っ! ふん、言われるまでもない」


 エミルは綺麗な白いバスターソードを再び装備、両手でそれを持ちスキルを重ねていく。当然フィールが反応して突っ込んでくるがそれをカゲミツが弾いた。


「ジャスター! コータ! 私は!」

「りょーかいっ! じゃあコータ、ちーっとばかしふんばろう――ぜっ!」

「……絶対強くなってやるからなっ!」


 エミルの最大火力を叩き込むために時間稼ぎに徹する二人はノリエルの注意を引くのに尽力する。戦力外のような決定力のなさをコータは悔やみ、エミルのようなかっこいいプレイヤーを目指すのを再度心に誓った。


「ラピスっ!」

「準備できてる! ――”攻撃力瞬間上昇クイックパワー”っ!」

「さすラピだ。――”聖夜十字斬ホーリィナイトクロス”ッ!」

 

 当然ラピスへとフィールは向かってくるが「させないよ! フレイムウォール炎の壁ッ!」とプリアがそれを止める。攻撃力上昇を表す赤いエフェクトに包まれながらエミルの最大火力スキルが十字の軌跡を描いてノリエルへとぶつけられた。


『ウギャァアアアアアアアッ!』

「やったか!?」

「ジャスター……、それ言うなっていつも――ラピス、ヒールッ!」


 断末魔をあげながらも動き続けるノリエルの拳による打撃攻撃の嵐に見舞われたが、硬直状態のエミルは避けれない。ならばとラピスに回復を頼むことにした。ミリ残りをしたHPを見ながら口惜しそうに「倒したと思ったんだけどな」とエミルは呟いた。


「ううん、ここで仕留めるよ! コータいって! これはだよっ!」


 ノリエルの車であるフィールがスキル反応時以外はさきほどまでクルクル回っていた。それが反応するスキルがないのにノリエルに向かい出したのに何かあると睨みラピスは先輩風を吹かしながらコータに命令した。


「トドメをくれるっていうんなら喜んでやってやるよ!」

「車が来てもそのまま攻撃を続けて! 私が守るから! ――”断絶の盾”ッ!」


 攻撃完全無効化、このスキルの使い時は今だと感じてラピスはコータに不可視の3重盾を与える。


「――”斬徹剣”ッ! うりゃああああああああっ!!!」


 ドーンという衝突音とパリーンとガラスが砕けるような音が同時に響く。フィールとの衝突で一枚の盾が割れた。

 

『――ッ!? ――っ!!!』

 

 ノリエルのコータの攻撃に反応して連続パンチで応戦しようと構える。多段攻撃に”断絶の盾”は効果が薄くこのままだとコータのHPを削られて気絶による攻撃の強制中断にもっていかれるだろう。


「ねえ天使さん知ってる? VRでの注視を極めると武器もターゲットにできるんだよ。これで終わり! ――”移動速度増加”ッ!」


 振り下ろされたコータの剣は速度を上げてノリエル切り裂き両断した。パリン、パリンと残る二枚の盾も消滅しギリギリ届いたといった様相だった。


「……オレがやったのか?」

「コータ、お疲れ様! かっこよかったよ!」


 実感の薄いコータにラピスが近づいて微笑みかけた。――彼がラピスを意識し始めるキッカケになった出来事だった。


 戦闘が終わり半球の部屋に残された宝箱を開けるとジャスターが求めていた装備アイテム『転速の腕輪』が収められていた。


「うっし、試してみるわ! うぉーーーっ!? ちょっと! あっ! これだめなやつだわ!」


 極振りの弊害でSTR筋力AGI素早さへと全転換した結果、操作不能の人間弾丸が出来上がった。


「もともとAGIも上げすぎると操作性が逆に悪くなると言われていたからな。古今東西、プレイヤーが操作するものは自分の力量を越えてはダメだ。覚えておけよ三人とも」

「いや! 俺ならできるはずだ! うぉおおおお!!!」


 そんなジャスターを反面教師にしてカゲミツがであるラピス、プリア、コータの三人に指導を行っていた。なお、その間もジャスターは壁にぶつかり続けた。彼が満足したら帰還するということにしてジャスターを除く全員が部屋に出現した出口近くでそれを眺めているとラピスの横にエミルが座り込んだ。


「ラピス、。カゲミツも言ってたけど自分の力量以上のモノを扱おうとしたら確かに自滅する。だけどねジャスターのようにと思うことも大事なんだ。まあ、二人は極端すぎるんだけどね」


 口調を変えたエミルは続けて「また勉強で分からないところがあったら気軽に相談しなさい」と教師らしく添えて立ち上がりいつもの聖騎士エミルへと戻った。



 ラピスは父であるジョンに心配をかけたくなくて高校受験をしようと思っていたが自分なんかが本当に受かるのか、受かったところでずっと引き篭もっていた自分は通うことができるのか不安だった。けれど、このエミルの言葉とジャスターの行為をその度に思い出し、ダメならしかたがない。けれど……できるかもしれないのに行動を起こさずに後悔したくない。そんな気持ちが芽生え、コータに対して先輩面して命令した手前もあり――。


 数年後、高校に通うようになるのだった。

 この在りし日となった思い出を色褪せずに抱いて。

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