第2話 私、ミャアっていうにゃ。猫獣人にゃ

翌朝、宿のスープを飲んで通りに出た。


今日は街中を探索しよう。


武器屋以外にも道具屋や食料品店、防具屋、宝飾店など様々な業種がある。


どこに売れば転売効率がいいかを見極めたい。


「しかし、あからさまに大量の剣や防具を売りに来たら怪しまれるよな。ちょっとずつ売った方がいいか?」


そんなことを考えつつ路地裏の方へ足を向けると、雰囲気がガラリと変わった。


建物がボロボロで人通りも少なく、ゴミや残飯が散乱している。


まさにスラムの匂いがするエリアだ。


こういう場所で闇商人などがいる可能性はあるが、危険も大きそうだ。


歩き回っていると、薄暗い路地の隅で小さな影がうずくまっているのを見つけた。


近づくとそれは耳と尻尾が猫そのものの少女。


ボロ切れの服をまとい、ガリガリに痩せている。肌も汚れていて、今にも倒れそうな雰囲気だ。


「……大丈夫か?」


思わず声をかけると、彼女はびくっと身を震わせ、か細い声で言う。


「お腹空いたにゃ……」


にゃ?と目を丸くしつつ、放っておけないと思った俺はポケットから干し肉を取り出した。


通販スキルで仕入れていた食料だ。


「これ、食うか?そんなに高級なもんじゃないけど」


「……いいのかにゃ?ありがとにゃ……」


彼女は恐る恐る手を伸ばし、干し肉を口にするとまるで野生の猫のようにがっつく。


血走った目で一気に食べ尽くし、硬いパンもぺろりと平らげた。


よほど飢えていたのだろう。


「落ち着いたか?」


「う、うん。助かったにゃ……私、ミャアっていうにゃ。猫獣人にゃ……」


彼女――ミャアと名乗る少女――は尻尾を弱々しく動かしつつ答える。


どうやらこのスラムで暮らしているが、金も仕事もなく、飢え死に寸前だったようだ。


「そっか。俺は大地。こっちに来たばかりでよく分からないが……とにかく飯には困らんから、もしよかったら一緒に来るか?」


「えっ……いいのかにゃ?私、役立たずだし……」


「そんなことない。猫獣人ってことは身軽なのか?一緒にいた方が何かと助け合えるかもしれない」


そう思うのは俺がこっちで孤立しているからというのもある。


仲間がいた方が何かと安心だ。


スラムで放置していくのは胸が痛いし、俺の稼ぎ方なら1人や2人増えても何とかなるだろう。


「にゃ……恩返しできるなら、頑張るにゃ。ありがとうにゃ、大地……」


こうしてミャアは俺の相棒というか、保護猫獣人的なポジションになった。


とりあえず宿に連れて行き、おばさんに「もう一人分の部屋を頼みたい」と相談すると不審がられたが、追加で5テム払うことで許してもらえる。


「宿なんて……初めてにゃ。私、いつも路地裏で寝てたにゃ……」


「そうか、じゃあ今日はゆっくり休め。風呂というかシャワーもあるみたいだから体を洗ってきなよ。服は……通販スキルで買ってやる」


通販で「獣人用軽装セット:10テム」なるものを発見し、購入ボタンを押すとバサリと床に現れる。


一瞬、ミャアが「にゃっ!?」と飛びのいて驚くが、これが俺の能力だと説明すると納得したような、まだ半信半疑のような顔。


「すごいにゃ……何でも出てくるにゃ?」


「まあ支払いは後になりそうだけどな。細かいことは気にするな。とにかくこれを着てみるといい」


「にゃ……ありがとにゃ……大地は不思議な人にゃ。こんな私を助けてくれるなんて」


こうして、俺とミャアの同居生活が始まった。


ひとまずはこの宿を拠点に、俺の転売ビジネスや冒険者稼業を進め、ミャアにも安全に暮らしてもらおう。


翌朝から具体的に動こうと思い、俺はベッドに寝転んで「猫獣人か……」と考えを巡らす。


「彼女はどんな能力を秘めているんだろう。猫のような動きができるなら、戦闘にも役立つかもしれない。俺が通販スキルで武器を用意して、ミャアに持たせれば結構強いかも……」


そんな妄想をしながら、俺はいつの間にか眠りについていた。


***


翌朝、ミャアのために朝食を多めに頼んでスープやパンを食べさせる。


彼女は「にゃあ……うまいにゃ……」と尻尾を振って喜ぶ。


見るからに元気になってきた様子だ。


「さて、今日は一気にテムを稼ぐぞ。俺のスキルで大量に武器を仕入れ、それを売ればすぐ金持ちになれるはず」


「そ、そんなこと本当にできるにゃ?」


「やってみせるさ。まずは少量を試して、怪しまれないように気をつけたい」


そう言って俺は宿の部屋でスマホを操作。


例えば【鋼の剣:10テム】を5本、合計50テム分を購入すると、ボフッと音を立てて床に剣が並ぶ。


この世界の相場なら1本20〜30テムで売れるだろう。


「うわ、すごい量にゃ……大地は本当に何でも出すにゃ?」


「ま、限度はあるかもしれないが、当面は大丈夫。よし、これを武器屋に売りに行こう」


しかし、昨日の小さな武器屋だけでは5本も買い取る力がないかもしれない。


そこで街の商業地区を回り、まとめ買いをしてくれそうな店を探す。


そうするうちに噂で「軍や貴族向けに大口の武器を流している商会がある」と聞きつけた。


「にゃるほど、そこに売れば一気に稼げるにゃ?」


「そうだろうな。怪しまれないよう、最初は少なめに持ち込みたい」


ミャアを連れて商会を訪ね、番頭に「武器を少量持ってきた」と伝えると、「どれ、見せてみろ」と言うので、倉庫の隅で通販から出した5本の剣を並べてみせる。


番頭は刃をじっと見つめ、コンコンと叩きながら「こりゃなかなかいい仕上がりだ」と感心している。


「いくらで売る気だ?」


「1本25テムならどうです?」


「ふむ……一度に5本仕入れるし、もう少し負けてくれないか?」


少し値引き交渉をされたが、最終的に1本22テムで合意。


5本だから110テムの売り上げだ。


俺は内心「仕入れ値の倍以上じゃねえか……」と笑いが止まらないが、表情には出さない。


「にゃ……すごいにゃあ、大地。こんなにすぐお金になるのかにゃ」


ミャアが目を丸くしている。


1テム=100円換算なら11,000円程度にも見えるが、実際この世界では大きな価値かもしれない。


最低宿泊費が5テムと考えると、22倍の稼ぎになるわけだ。


「これでしばらく宿代も食費も安泰だな」


「にゃふふ、私、こんなに安心したの初めてにゃ」


こうして俺は転売で手応えを得る。


さらに何本か売ってもいいが、一度に大量に持ち込むと怪しまれるから程々にする。


翌日以降、数日かけて少しずつ剣や防具、道具を持ってきては売り、軽く1000テム以上を稼ぐことに成功した。


「すごいにゃ、大地……もう私、スラムには戻らなくていいにゃ……?」


「もちろんだ。ミャアは俺と一緒にいれば飢えることはないさ」


彼女は尻尾をふりふりしながら、「にゃんて幸せにゃ……」とつぶやいている。


そんな彼女を見ると、保護欲がくすぐられるし、俺も悪い気はしない。

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