36話 アリス

研究者達は、別の世界のafter that 46年の意思を受け継ぎ、自分達を納得させる事から作業は始まった

別の世界の自分達もやってきた事だ

だから世界は変えられる

世界は救われると信じる事にした


しかし269回目のafter that 46年は少し違った

ピュロスが提示した不変な過去


2000年7月20日に死ぬ、甲塚陽介を生かす


そこに向かう人材は、研究者の中から選ばれたのでは無かった

選ばれたのは、ロバートの娘、アリス・ディアスだった

ロバートはafter thatでは珍しい日本人との間に子供をもうけていた

容姿は日本人に近く、色白で美しい少女だ

ピュロスはその子を、過去に向かわせて、甲塚陽介命を守れと言うのだ


しかし

しかしだ

アリスはまだ子供、確かに既に大学を卒業している


死ぬ男の子を助ける為に過去へ向かわせる

それは失敗すれば、何度も男の子の死体を見る事になるだろう


アリスには、心の闇があった


過去の戦争のせいで人口は激減していて、人々は密集して暮らし、街を作っていた

その人口密度は、どの街も現在の名古屋市ほどで、大きな川に面する事が多い


after that 30年

アリスの住んでいた街は、竜巻により多大な被害を受けた

10歳のアリスは竜巻に巻き込まれるも、運良く大きく頑丈な建物同士の間に居た為、竜巻の暴風に巻き込まれなかった

しかし一緒に居た友人達は、断末魔とも呼べる叫び声をあげ、黒い風に連れ拐われる

そして建物の間から這い出たアリスが見た物は、想像を絶する光景だった


全てが破壊された世界


アリスも戦後の子供だ

語られ、読んで、見て知っていた

それはやはり想像でしかなく、写真で死体を見ていても、現実として受け止めていても、目の前広がる光景、想像とは違っていたとしか言えなかった

至る所で建物、家畜、人が破壊されていた

ある者は飛んで来た瓦礫潰され、ある者は風に舞い上げられ何十メートルも上空から地面に叩きつけられ、ある者は泣きながら死体のそばから離れられないでいた


自分は運が良かった

いや自分は生かされたんだ

友達や他の人には無かった未来を与えられた


アリスはそう思い、子供っぽさを失い、心を閉じ込め、学業やスポーツに打ち込んだ


死んだ友達は、努力も出来ない

何も成す事が出来ない

生きている私が、弱音をはくわけにはいかない

強く、前を向いて生きなければ…と


ロバートとって嬉しい半面、寂しくもあった

一見優秀な我が子は、自分の感情を殺してまで生きている


もし死ぬ運命にある少年助ける為に過去へ行ってくれと言えば、応じるだろう


しかし変えられない運命だったら

アリスの心は、もっと深い闇に落ちてしまうのではないか


「アリス……そういう事なんだ………パパの仕事に……アリスが選ばれたんだ」

最初は、理解し難いのか、アリスは目を閉じて、少しの間をあけた

「名誉な事だね。私が頑張れば、世界は救われるかもしれないって事なんでしょ」

「そうだが……もうここへは戻ってこれない。変えられない運命をさ迷い過去で生きていく事になるんだ」

「……パパ……パパが心配してくれてる事わかるわ。でもね、私はこの為に生きてたんだ……生かされていたんだって思うの」

「……アリス」

「今、ここにいても私は死んでいるのと同じ、これからもずっと……なら過去に行って精一杯生きたい」


アリスの言葉は強く真っ直ぐだった

もちろん、アリスは自分がいなくなった後のこの世界がどうなってしまうかも考えなかったわけじゃない

過去にいけば、その時点で未来は否定される

この世界は消滅してしまうのか?

ただその心配もしなくてもいいんだと、心に決めた

過去で戦争を止める事が出来れば、今の世界が否定されても、新しい未来で、皆は幸せに暮らせるはずだと、信じた



過去へ向かうタイムマシン、この場合「タイムシステム」と言うべきだが、アリスの居る時代は、コンタクトレンズの様にPC端末を目に装着させている

これにより視界にディスプレイされ、眼球の動きで操作出来る物になっている

そのPCにもピュロスは搭載されていて、タイムシステムのソフトウェアは、ピュロスに選ばれた個人の端末にダウンロードされる

もともとネット上でタイムシステムを管理しているピュロスは、ダウンロードと同時にタイムシステムを消去させる

個人が過去にタイムスリップした段階で、ピュロスは過去のネット上に、ピュロスとタイムシステムをアップロードさせ、次の未来に繋げていた。もちろんピュロスのタイムシステムのプロテクトは破られる心配は無いほど頑丈なものだ



歴史や日本語をマスターし、アリスは2000年7月20日を目指して、過去へ向かうのだった


アリスに耐える事が出来るだろうか


ロバートは、悩みに悩みアリスに任務を伝える

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