怪力乱神
27話 巫女と御先稲荷
自分のやりたい事、これからの未来
みんなは、きっと自分の手で切り開くものだと思い、日々を過ごしていると思う
自覚はなくても、学校の勉強もそう、部活もそう、遊びだって、テレビゲームだって、誰かを好きになる事だって、失恋する事だって、結局は自分の意思で選択しての行動
例えどんな事だって、運命ではない
自分が選んだ結果の未来
その意思とは関係なく訪れる出来事
それが運命
不幸な事だけど、先天的の病気や事故や震災で亡くなる事は運命なのかもしれない
選択してそうなったわけじゃないのだから
例えば豊臣秀吉、天下を獲った戦国武将として有名
農民の生まれで、武士になり、天下人になる事で有名な秀吉
生まれは運命なのかもしれない
生まれた後の事は、自分の努力だ
あまり知られていない事だけど、秀吉は先天的の多指症で、右手の指が6本あったと言われている
先天的な多指症をもバネにしていたとしたら、本当に運命を克服したとも言えるんじゃないか
タバコ吸って、癌になって苦しんでも、それは自分が選んだ結果の未来なのだから、運命だとか、病気を悲観してるのは、私には意味がわからない
と、昨日の夜に見たドキュメンタリーを思い出しながら、私は朝から燃え盛っている太陽の元で神社の清掃をしている
この神社は双弓神社、私の家だ
運命とは、自分の意思とは関係なくやってくる
逃れたくても、絶対に逃れる事は出来ない
私はその事を知っている
「葉子!!葉子ってば!!!!」
運命とは自分の意思とは関係なく
「葉子ってば!!!」
運命とは
「葉子!!!!!」
「朝からうるさい!!!!!!」
誰もいない境内で、たまらず叫ぶ
スズメや鳩がビックリして飛んでいってしまうけど、私の名前を何度も呼ぶ声の主は悲しそうな目で私を見ている
「そんなに怒らなくっても」
境内には誰もいない
居るのは、このキツネだけだ
「怒ってない、静かにして欲しかっただけ」
「本当?」
「本当」
人の言葉を話すこのキツネは、大きな尾2本小さな尾が2本の合わせて4本の尾を持ついわゆる妖狐だ
「で、何?」
「……何か思い悩んでいるみたいだったから、今日の儀式の事かなって」
「まぁ儀式の事で悩んでいるわけじゃないけどさ、やっぱりなんで私なんだろって思いはあるよ」
このキツネの前で嘘は通じない、とんでもない神通力を持ってて、神格化、つまり神様として崇められている存在
そうこの神社の神様なんだ
元々は稲荷明神を祀っていたこの神社は、いつの頃からか、このキツネを神様として祀っている
「あの弓は、普通の人が使えばただの弓。でも僕が力を与えた人間が使えば、唯一あの妖魔を封印出来る弓になるんだよ」
「その説明は何回も聞いた…だからなんで、それが私なんだろうって話よ」
「……運命かな」
「はぁ、それが嫌だって言ってるのよテンコ」
運命とは自分の意思とは関係なく訪れる出来事
私は、この神格化した
運命付けられてしまった女子高生 尾崎葉子だ
鳥居の下を掃いていると、向かいにあるお寺からキラキラとした光りが見える
「おぉーまた神々しい頭だねー」
とテンコが眩しそうに見つめる
「千早、また髪を剃ったの?」
彼は五十嵐千早
同じ歳で、私のいとこ
道を挟んで向かいにある「天双寺」の子だ
「おはよ、葉子」
笑顔で挨拶する千早
それを見て私は大きくため息をつく
「あのさ、千早の家の宗派には修行もないし、頭を剃る必要もないでしょうが」
「そうなんだけどね……あっ駄洒落じゃないよ?。僧侶とそうを」
「いやいい、わかってる」
「スッキリするんだよ、頭を剃ると」
「そうなんだろうけど」
「今の駄洒落?」
「違うわよ………髪に呪いをかけられるって話、まだ信じてるの?」
「どうだろ、最初はそうだったけど、今じゃ楽だし………それに今日は"あの日"でしょ」
はぁ、千早もその話をするのか
仕方がないかもしれないけど、少しズレて覚えてるのよね、千早って
「うちの神社に九尾のキツネが封印された日……って覚えてる?」
「うん」
「アホくさ…そんな都市伝説信じてるの?」
「えー!!信じてないの!?」
「うちに九尾なんていないし」
「でも双弓神社は稲荷が有名じゃない」
隣にいるテンコを見ると、キメ顔で私を見ている
私以外の人には、ほとんど見る事は出来ない
肉体が死んでいるわけじゃないんだけど、神を見る事は、普通の人間には難しいってテンコは言う
「祀られてるキツネが全部、九尾じゃないでしょ」
そうテンコの尾は4本だ
九尾は兜塚公園に封印されている妖魔
「そうなの!?」
「っていうか、まだ今日が何の日か教わってなかったなんて」
「兄ちゃんは知ってるのかな」
「当たり前でしょ。今日の御勤めの事くらい」
「葉子、教えてくれるんだよね」
「……いいよ、どうせ今日にはわかるんだから、どういう風に覚えてるの?」
「えっと…兜塚公園でお経を読む。すると九尾を封印してる力も継続されるっかな」
「はぁ、それだけ??」
「「九尾のキツネ」を封印する儀式だからその時、九尾の呪いを受けないように、15歳以下は立ち入り禁止。九尾に髪を捕まれて首を取られて、塚に封印されないようにって子供の頃に教えてもらったよ」
キラキラ千早の目
天双寺には、兜塚の供養の為の儀式として伝わっているはず
九尾の封印の事は、私の家しか知らない事実のはずだ
「千早、どこからこの話をきいたんだろ」
テンコに心の中で問いかける
テンコのテレパシーというか、心と心で会話が出来る
「たぶん、あの剛志って友達だな、あの子の直感力と都市伝説の知識は侮れないぞ」
ここは訂正して、千早が思っている都市伝説が、噂でしかないといっておく必要がある
「そもそも都市伝説と現実がゴチャゴチャになってるよ。儀式は兜塚の供養が目的なの」
「へーそうなんだ!?」
「供養の時にうちの神社の「陸奥護郎の弓」を出すんだけど、なぜかそっちのお寺に封印、保管されてるの」
「あの弓って実在してるの!!?。変わってるね、土着宗教の神社の物を、仏教のお寺で封印してるなんてさ」
「そーね、お寺に封印してて管理はうちがしてるから、うちが持ち出さないといけないらしいよ。そもそも千早の家の人は触れちゃいけないんだって」
「ややこしいなぁ。でもさ、ただの供養になんで弓が必要なんだろうね?しかもまだ兜塚の供養しなきゃいけないなんてね」
「さぁね、古いしきたりってやつじゃないの?」
こんなもんでしょ
「ありがとう。教えてくれて」
「あんたも今日は家の手伝いしなきゃいけないんだから」
「僕は家で留守番だよ」
「なんで!?」
「僕、早生まれだから、まだ15だもん」
「あっ騙したわね」
「いとこの誕生日を忘れてる方が悪い」
と千早は逃げるように、寺へと消えていく
「封印が弱まっている」
テンコが小声で言う
「なんでそう言えるの」
「江戸時代が始まる前、一度だけ封印の儀式を行うより先に、封印が解けてしまった事があるんだ」
テンコは4本の尾をユラユラと振る
「あの時も、九尾の話を誰からともなく話始めて、何人かが犠牲になったんだ」
「誰からともなくって、どういう意味よ」
「例えば、剛志だよ。あの子は力を持っている。意思を受け取る電波塔みたいな感じだ」
「電波塔?」
「感受性が強すぎて、人の感情や、物の記憶をまるで自分の事のように感じちゃうんだ。サトリって言うんだ。あの子がたまに言う、前世がどうのって言うのがそれさ…力の使い方を知ればいいんだけど」
「じゃあ、剛志が九尾の意思を感じて、不幸な事を起こすの?」
「あるいは誰かが、剛志の無意識に働きかけ、九尾の記憶を受け付けるとか………封印されてもなお、影響力が凄いんだよ明は」
「今日の儀式までに、
それが力を求めて妖怪化したらしい
最初に明が暴れた時に、弓を使って封印したのが双弓神社の巫女、つまり私の先祖だ
弓は当時、弓の名手と言われた成冨陸奥護郎の弓と矢が使われ、成冨自身の名もこの地域では有名だ
私たちの高校にも銅像がある
「葉子、注意した方がいい。今日は何かが違う」
テンコはそういい、眩しそうに朝日を見つめた
日も大分上がり、夏の日差しは強くなる一方
私は学校の弓道場で日課の朝練をしていた
弓備城高校は成冨陸奥護郎が開いた弓道場から発展した学校という事で、高校の敷地内に弓道場がある
今日は全体での部活動は休み、夜には儀式もある、だからいつもよりも念入りにフォームをチェックする
日課にする事で、体調の調整にもなるし、身体の変化にも気づきやすい
私の放った弓は、的の中心からやや右上に突き刺さる。ギリギリ中央の白い円「正鵠」を外れている
「まだまだね」
止まっている円の中心を正確に射ぬけなければ、動いている妖怪を射る事なんて出来ない
「やっぱりだね」
とテンコが口にする
「やっぱりって?」
「気づかない?葉子も無意識に明と戦う事を考えてる」
「朝っぱらからあんな話聞かされれば…ねぇ」
「だといいけど」
そろそろ汗を流して教室に戻らなきゃHRの朝のテストに間に合わないか
着替えを済ませ、濡れた髪をタオルで乾かしながら階段を登っていると「葉子、朝から色っぽいですね」と女子が声をかけてくる
「おはよ、綾女さん」
同じクラスの菖蒲綾女さんだ
綾女さんは、クラスの誰とでも仲が良い
私もそうだけど、千早や千早の友達の男子とも楽しく話しているのをよく見かける
「朝練ですか」
「えぇ」
「毎日大変ですね」
「強制じゃないよ、完全な自主連だし」
「そうなんですか」
「8月に高校総体大会があるからね」
8月に高校総体があるのは本当だけど、別にそれに合わせ練習をしているわけじゃない
九尾を封印する巫女の運命でなければ、弓道だってやっていない
無い物ねだりだけど、普通が一番だと思う
「一年からレギュラーですか?」
「経験者が少ない競技だから、特別上手いわけじゃないよ」
「でも上手いって聞いてますよ。暴れているキツネだって射抜けますよ」
私はその言葉に一瞬心臓を捕まれた感覚に陥る
今、綾女さんは何って言った?
「キツネなんて、狙わないよ。狩りをするんじゃないんだから」
「そうなんですか?」
「えぇ」
教室に着くと、綾女さんは「じゃあ」と言ってそのまま席について本を読んでいる。朝のテストの為に復習しているのかも…いやいや、それよりもだ
「綾女さんまで、キツネって言っていたね」
私もテスト勉強をしながら、テンコに心の中で話しかける
テンコは綾女さんを見ながら、また尾をユラユラと振る
「あの子、何者なんだ」
「今さら?どういう意味よ?」
「生まれとか、家族とか」
「よく知らないけど、他県から受験して、一人暮らしだって」
「あの子……この時代の子とは思えない……」
「何それ」
「まるで戦国時代の子みたいな印象だよ、心が覗けるわけじゃないけど……酷く疲れているみたいだよ」
「それがキツネって言っていたのと、関係が?」
教科書から視界をテンコに移すと、テンコの尾がピンと立ち上がり固まっている
「……まさか」
「何?」
テンコは綾女さんを凝視している
「…あの本……」
「ん?」
綾女さんが読んでいる本は教科書じゃない、とても古くて、まるで古文書の様な本だ
「葉子、注意した方がいいかもしれない」
「何を?」
「九尾が……明が復活するかもしれない」
テンコは唸るようにそう言う
明が復活する!?
「今日の夜には儀式があるのよ」
「状況が似ているんだ。天双寺の坊さんの封印術は完璧?」
「
「千早の兄貴でしょ。古い儀式だって甘く考えてたり」
「千早じゃないんだから、大丈夫よ」
テンコは綾女さんをじっと見ている、綾女さんと言うよりは、あの古い本を見てるのか
「あの本、「首斬り妖狐と梓弓」って言うんだ」
「それって、まさか」
「うん、最初に明が暴れた時に書かれた昔話だよ」
「それをなんで綾女さんが…」
綾女さんは真剣にその本を読んでいる
儀式が失敗する?
本当に九尾の妖狐 明が復活してしまうの?
私が失敗する!?
「不安にならないで、葉子。それこそ明の思うつぼだよ」
テンコの目付きが鋭くなる
「明は、人の恐れ、嫉妬、妬みとか、負と言われる感情を糧にするんだ」
「…負の感情」
「うん、明の復活が近い時は、誰かがそれを受信して、人々に伝染していく。直接、明が暴れるって言うよりは、うつ状態とか、信頼関係が崩れていって、不幸が訪れちゃうんだ。そしてその死肉を明は食べるんだ、特に首が大好き」
「朝から気持ち悪い話しないで」
「でもさ」
「つまり皆が明の、九尾のキツネの話をしなければ、封印は弱くならない。九尾のキツネの話をすれば恐れや妬みを生んで封印が弱まるって事でしょ」
「うん、そう言うこと」
「休み時間に図書館に行くわよ。貸し出し履歴を見れば、あの本を読んだ人は特定出来るし」
「そうだね」
「じゃあ少し黙ってて、復習したいから」
そしてチャイムが鳴ってしばらくすると、テスト用紙を抱えた中尾先生と日直が教室に入ってきて、小テストが始まる
テストは文字通りの小テスト
テンコが色々うるさかったけど、普通に解けた
私はHRと一時限目の少しの時間だけど、気になって裏山、つまり九尾が封印されてる兜塚公園を見る
公園の敷地が見えるけど、封印されている古墳の部分までは見えない
それでも今日は様子が違う事がわかる
溢れだしている……良くない気配
「そう言えば、さっき」
公園を見ている私と違って、教室を見ているテンコが尻尾で触って、私を呼びながら話す
「さっき、千早が剛志に弓の話をしてたよ」
「えっいつ」
「葉子がテスト勉強してる時」
「はぁ」
自習も出来ないのか、私のいとこは
しかも弓の事を話すなんて
「なんだよ、尾崎」
千早の友達、剣崎剛志と緑山崇のそばに寄ると、私の気配をいち早く察知した緑山くんが警戒して私の存在を剣崎くんに教えるように、私の名を呼ぶ
「別に………剣崎君」
「えっ何!?」
緑山くんの呼び掛けで気づいた剣崎くんはオドオドとしている
「うちの家に何があるって?」
剣崎くんは身長が180cmを越えているにも関わらず、どんどん小さくなっていく
「いや、なんの話?ははは」
身体は大きいのに、小型犬みたい
「カワイイって思ってるの?」
とテンコが耳元でチャチャをいれてくる
それを軽く無視をして
「まったく……ほら一時限目始まるよ」
と剣崎くんを精神的に解放して、身体を自分の席の方に反転させる
剣崎くんに弓の話をしたのは、千早だ
まったくおしゃべりなんだから、世話が焼ける
席に戻るふりして千早の席に向かう
「……千早」
千早は机に覆い被さるように寝たふりをしている
「五十嵐……千早………くん?」
観念したのか、千早はゆっくりと顔をあげる
「……はい、なんでしょう……葉子さん」
「なんでしょうじゃない。千早、剛志に朝の事話したでしょ」
「え!?話してないよ………全部は話してない」
全部はって、ちょっとだけ認める所が千早っぽい
「あのねぇ、今日まで千早も教えてもらってない事なのよ。それを他の人に話せると思う?」
「うーーん、ごめん」
机におでこをすり付けながら謝る
「分かればいいけど……今日は大切な日なんだから、私からおじさんに千早も儀式に出るように言うから、これ以上は他言しないこと」
「えっ?いいのかなぁ」
「他の人に言うよりはね」
「なんでさ、葉子は今日の事にそんなに詳しいの?」
「はぁー、私は巫女で儀式の中心なの」
「えーそうなの!?」
「そうなの、だからお願いね」
そう言いながら、裏山を見る
確かに皆が九尾に興味を持ち出した様に思える
「運命」
私はそう独り言を言う
運命とは、自分の意思とは関係なくやってくる
逃れたくても、絶対に逃れる事は出来ない
準備は万全だっただろうか
心から九尾と戦う事になるなんて信じていただろうか
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