タイムトラベラー終末冒険記
夢迷新人
第1話 未来から
2500年代。
この頃の世界では巨大火山が噴火し、北アメリカは消滅。
火山灰が空を覆い氷河期が半世紀ほど続いていた。
その間に飢餓で人は数億人亡くなり、昔のような国は存在していなかった。
そして世界は6つの国に集約されていた。
そんな世界の端くれの島、元日本には一人の男とたくさんの機械人形、通称“ヒュードロイド”が地下で研究をしている。
そこでタイムトラベルについて研究していたのが私、
コードネームカプチーノ。
2042年。
私は所謂ギフテッドとして生を受けた。
アメリカ人の父と日本人の母の元に生まれた私は2歳の頃には物理学に関する論文を読み始め、9歳の頃には高校数学までマスター。
15歳でブラックホールとホワイトホールと宇宙の関係性について仮説を立て論文を提出。一躍有名人となった。
それをきっかけに大学へ飛び級で合格。
さらにさまざまな理論を学ぶために大学院に飛び級で入り順調に勉学に励んでいた。
この頃は戦争が激化し、各国で核の緊張感が高まっている時期だった。
とある日の朝。
私は母親と少し揉め事をしてしまった。
友達と遊びに行くのに門限を決められて、それが気に食わなくて反発して言い合い。
なんてことない些細なことだった。
「萌花!ちゃんと時間までに帰って来なさいよ!」
見送りのついでに玄関先でまた釘を刺される。
反抗期というものだろうか、私はかっとなって声を張り上げてしまった。
「何回もうるさい!!もうお母さんなんて知らない!もう帰ってこないから!」
怒りに任せて外に飛び出す。
後ろで母が何か言っているが私は聞く耳なんて持とうともしていなかった。
それが怒りからか、それとも空を通り過ぎていく飛行物体が放つ轟音からなのかは今はもう覚えていない。
だが視線を向けた大空にはとても理解し難いものが地上に向けて落下してきていた。
核爆弾。
それもとびきり大きな。
私は物陰に隠れる暇もなくただその場にしゃがみ込んだ。
次の瞬間、目を開けると私は手術台のようなところで目を覚ました。
そんな私を見て、脇に立っていた二人の男が大いに喜ぶ。
それがこの研究所のボス、コードネームゼウスとその右腕である脳科学のスペシャリスト、コードネームアテナだった。
私は二人から受け入れ難い事実を告げられる。
まず一つ、私の体はヒューロイドという機械人形になったということ。
このヒューロイドとは脳オルガノイドという人工脳をアンドロイドの体に移植した人間の次のステージとも受け取れる存在だった。
皮膚は人間と同様のものを使用していて機械的な繋ぎ目なども見えない。しかも怪我で皮膚がなくなっても人間と同じように回復するという。
エネルギー源には小型の核融合発電機を搭載しており、食事は必要ない。
だが、舌や生殖器など人間にあった方がいい部位はしっかりとついていて感覚を受けとることができるという便利な体だった。
その他にも様々な特殊機能がついている。
そして二つ目。
私の世界は存在しないということ。
ゼウスが言うには私のいた世界は前提条件を記憶に刷り込み、ある一定の時期の5分前から生成。
するとそのシュミレーションした世界で各分野の最も天才がシュミレーターによってソートされ、一覧になって出てくるらしい。
ソートされてゼウスに選ばれた人間は生まれてから召喚されるまでの記憶を補完されるみたいだ。
そして選んだ人間の情報と記憶を電脳記憶として保存。
あとはそれを脳オルガノイドにコピーしてヒューロイドの体に移植し、欲しい人間を召喚している、そうだ。
自分が生きてきた世界が存在しなかったというのは全く受け入れられないがそんなことはどうでもよかった。
「私の世界と両親は!あの爆弾が落ちて無事なの?!」
必死に問いかけるがゼウスには響いているような感じはない。
頭を悩ませるように前屈みになると不敵な笑みを浮かべながら私に顔を近づけてきた。
「それはタイムマシンを完成させて俺の世界が救われたら教えてあげるよ」
その顔に強い苛立ちを覚えた。
でも私ならどうにかできる。そう思ったからそれ以上は喰らい付かなかった。
「約束破ったら許さない」
それだけ言って手術台から降りた。
そこから私は研究に没頭した。
次々に召喚されてくる天才達と共にILCを改造してブラックホールの生成を成功させ、反物質の生成、タイムマシンの作成まで順調に上手くいった。
ただ、そこからが上手くいかなかった。
まずこのタイムマシンには人間は乗ることができない。
理由は単純で光速まで一気に加速するのでそのGに耐えられない。あと普通に何光年と移動をするため人間の寿命だとタイムワープ中に死んでしまう。
ゼウスはその現実は知っていたかのように受け止め、自分が信頼するヒューロイド達を過去に送り込むことにする。
だが、結果は芳しいものではなかった。
タイムワープ自体は成功しているが未来が変わらないのだ。
考えられる理由は親殺しのパラドクスなど色々あったがそんなものよりもゼウスは世界が変わらないという事実しか興味がなかった。
憤慨したゼウスは椅子に座り、頭を抱えて私たちに聞こえるように呟いた。
「過去から未来が変えられないなら、この世界の人間を皆殺しにして誰も苦しまない平等な世界を作るしかない……」
ぞっとした。
みんな反対だろうと周りを見たがみんな目を輝かせてゼウスを見ている。
そして拍手が次々と伝染していった。
狂ってる……。
私はそう感じた。
ここにいるヒューロイド達はこの男によって自分の世界と記憶を踏み躙られ、道具のように使われて研究を行わされていたのに、なぜみんなこの男の味方なのだろう。
そんな怒りとこのままでは絶対に両親と世界についてなんて教えてもらえるわけがないという絶望感から私はその空気の中で一人叫んだ。
「勝手なこと言うな!!!」
場が凍りつく。
みんなの視線は完全に私に集まっている。
見なくてもわかる。みんな冷ややかな目をしていると。
「そんなことをするなら私が先にお前をぶっ殺してやる!」
私は自身の特別機能の一つである形状変化金属を使って剣を生成する。
そして、ゼウスの首に突き立てた。
「なんだ?殺せないのか?」
嫌味ったらしく笑う。
わかっていた。周りの奴らが邪魔してくることぐらい。
私は背後からアテナに拘束され、頭に拳銃を突きつけられていた。
そしてゼウスは私の剣を手の甲で弾き飛ばす。
「残念だよ。お前はここでスクラップだ」
力の抜けたように手首を前に振ると一斉にヒューロイド達が迫ってくる。
私はアテナの拘束を振り払うと急いで剣を拾い、とある部屋を目指して走り出す。
研究室の狭い通路を抜け、すれ違うことができないぐらいの狭い階段を通り、後ろがつっかえている隙にいち早くその部屋にたどり着く。
この研究所の最も地下にあるタイムトラベル室。
私は急いでブラックホールのスリープを解除する。
そしてタイムマシンに乗り込み、扉を閉めると加速器を始動した。
飛ぶ年代はブラックホールの管理側からじゃないと決めれないのでどこに飛ぶかは完全に運だ。
発進数秒前、ヒューロイド達が部屋に入ってくる。
「待て!!!」
一人のヒューロイドがタイムマシンに掴まる。
でも残念。加速器はもう十分にあったまっていた。
ブラックホールが起動したのと同時に加速器の出力を一気に光速へ。
「いっけぇぇええ!」
瞬く間にブラックホールを抜け、どこかの時代の宇宙を彷徨っていた。
捕まっていたヒューロイドはおそらく原子に戻っただろう。
あとはこの時代の地球に行ってどうにかゼウスを殺す手段を見つければいいのだ。
未来ならより強い技術。過去なら豊富な資源で新たな開発。私は少しだけ胸を躍らせていた。
だが致命的な事に今更ながら気づいた。
「どうやってこれ減速するんだっけ……?」
自分で開発したにも関わらず使い方をあまりよく覚えていないのだ。
そもそも運転とか結構苦手だし。やった事ないし。
それでも光速で移動していて自動案内なためどんどん地球は近づいてくる。
そして気づいた時にはもう火星ほどまで近づいていた。
そろそろ減速しないとやばい。
私は勘だけでどうにかする事にした。
加速スイッチの横には明らかに減速できそうな反エネルギー生成ボタンがあった。
「頼む!!!!」
私は反エネルギーボタンを一回押してみる。
すると一瞬だけ逆に引っ張られる。
若干速度も落ちる。
これならいける!!
私は何回もぽちぽちとボタンを押して速度を調整した。
そして地球に突入し、大気圏を抜けて地面が視界に入った時、無事にスピードが落ち切って手頃な川に着水できた。
それでも衝撃は凄く、船体の外に投げ出されると同時に溺れてしまった。
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