第1章 弟よ

1 妹、弟になる

第1話

「玲!ちょっといいか?」


「ダメだよ」


自室のドアの向こうから聞こえた兄の優介の声に、彼女は返事をした。



「今。勉強中だから後にして……え?キャーーー??」



そこにいた無表情の顔の彼の手には針金のようなものが見えた。



「……お前な。お兄《にい》が困っているのに、勉強している場合じゃないだろう。全く……」



玲にとって唯一無二の兄の鳴瀬優介はそうブツブツ言うと妹のベッドに腰を掛けた。



ヘッポコバンドの練習帰りの彼は、お気に入りの革の黒パンツを履いていた。



「もう。鍵をこじ開けたら壊れるでしょう?何なのよ?」


「絶体絶命のピンチが起きたんだよ!」


「あのね……」


勉強していた玲はくるりと椅子を回し金髪ヘアの兄に向いた。



「絶体絶命もピンチも同じ意味だよ」


すると彼は妹の長い髪を自分の元へぐっと引き、自身のおデコとコンとくっつけた。



「ちょっと!なにするの?」


「……お前さ?彼氏ができない理由そろそろ気付けよ?」


「余計なお世話です!で、用件は何?」


超近距離で見つめる兄に、呆れて目を伏せる妹に兄はフンッと言って彼女を突き離した。



「俺の高校、今度、学校祭をやる話しをしたよな?」

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