高校1年の夏~夏合宿(1)
エビス会長の実家である大阪のお寺での夏合宿初日を迎えた。
大阪にあるキックボクシングの名門、闘魂ジムとの合同練習となる。『打撃王GP』に出場を決めた龍賀、鶴羽、黒木の姿もある。気温は38度とまさに灼熱の中、私たちは練習着で広々とした外庭に集合した。
「早速だがウォーミングアップとして5キロランからスタートだ」
2泊3日の夏合宿の初日1、いきなりの5キロラン。最終日のスパーリング大会まで私の体力は持つだろうか。そんな私の心配をよそにエビス会長を先頭にみなで走り出した。
「エレナ、一緒に走りきろうね」
そんな私の心配を察してかレイナから言葉をかけられた。いきなり遅れをとるなんて、そんなダサいことはできなき。レイナの足を引っ張りたくもないし、頑張らきゃ。
「おい。熱中症気を付けてろよ。ランのあともきつい走り込みあるから頑張って付いてきてな。スパーリングも楽しみにしてるで」
黒木に背中をどつかれた。そのまま黒木は龍賀、鶴羽と共に男子よりも速度を上げていった。3人とも偉そうな女で腹立つ。スパーリングではせいぜい私のローキック食らわせてやる。この5キロランだって問題なくクリアしてみせる。
「レイナはあの3人と試合したことはある?」
「試合したことはないけど去年の夏合宿で龍賀と黒木とはスパーリングしたよ。2人ともアグレッシブで、とくに黒木はバチバチ殴り合うのが好きだから前蹴りで突き放しても近い距離でパンチを強引に入れてきたな。龍賀はリーチがめっちゃ長いから、中間距離から強打をバンバン出してくる。けどたまに熱くなって近距離で攻めてくるけど。鶴羽に関しては試合をみたことあるけど、キックがめちゃくちゃ強いよ。本場のタイでムエタイを学んでるし、脛がめっちゃ固いらしくて、レガーズ越しでも強烈な蹴りを放つとか」
「鶴少なくとも龍賀と黒木はガード固めてローで削る慎重な私とはタイプが違うね」
「エレナはそこから意表を突いたハイキックでしょ? あのデビュー戦には痺れたよ~ この合宿でもっと強くなろうね」
*
そして遅れることなく、なんとか5キロを走りきった。これまでまったく運動してこなかった割には頑張ったかな。さすがの黒木もまぁまぁしんどそうにしてるが、龍賀と鶴羽はまだ余裕がありそうだ。
「水分補給はちゃんととってな。このあとは場所を移動して坂道ダッシュ10本行くぞ!」
え? まじ?
*
真夏日に5キロラン、坂道ダッシュ10本とまさに地獄。私の足はかなり限界に近いが、なんだろう、達成感がある。運動未経験であるだけでなく、そもそも部活にも入ってなかった私にとって、こうして同学年の子達と一緒に汗を流せることが嬉しい。
けど全員がライバル。GP優勝するにも、龍賀の持つ王座を奪うにも、立ちはだかる相手は皆が倒すべきライバルだ。
「では涼しくはないが巨大扇風機が置いてある所でミット打ち行くぞ」
私たちはお寺の近くにあるミニ体育館みたいなところに移動した。巨大扇風機が稼働しているがじめじめと暑いし熱気もこもっている。
「シャドーを3分やったあとは、ペアを組んで2分ミットを3ラウンドや。インターバルは20分秒! ミット受ける方は返しも取り入れてブロックへの意識も持たせてあげよう。ミットを持つことで距離感や打撃を視る力も養われる。それじゃいくぞー!」
シャドーを終え、ミットはレイナと組んだ。レイナはフォームがとにかく綺麗。体幹もあってミドルやハイキックの打ち終わりもぶれなく着地する。打撃はミットの真ん中を鋭く打ち抜いてくる。過去の試合でもそうだった、無駄な動きはなく、確実な一手で相手を倒す。わずか2分でも、いや、ジャブ1つでレイナの強さが分かる。
「次は私が持つ番ね。エレナ得意のローはあえて組み込まずに、キックはミドル中心でいくよ」
単発のミドルキックからコンビネーションからミドルキックとレイナの持つミットへ打ち込んでいく。ミドルカットしてミドル、前蹴り裁いてミドル、と受け返しも取り入れてくれた。
「エレナのキックはパワーがある。けどミドルの時はもっと腰を入れて。腰を回すイメージね、そうするともっと威力増して相手に効かすことができるよ」
時間としては僅か2分だがミットを1ラウンド回しただけで身体中から汗が吹き出している。
けど実際の試合では疲れてる余裕はない。少しでも隙があれば、やられる。まさにやるか、やられるかの世界。ミット練習でスタイル不足を感じてるようじゃダメだ。
残りのラウンドもびしばしとミットに己の打撃を打ち込んだし、レイナの打撃もしっかりと受け止めた。
「そしたら今度は相手を変えて左右のミドルキック50練発でしめるぞ」
え、まじ? 左右で100回ってこと??
「連続で途切れることなく、だが、途中でリズムが崩れてもすぐさま蹴り続けるように。きついが最後までやりきることが大事だ」
「雷道さん。よかったら私と組みませんか?」
鶴羽さんに声をかけられた。
「じゃあ、エレナまた後でね」
レイナは別の相手と組むために離れた。
「私、先でもいいかな?」
「いいよ」
鶴羽と言えば脛が固くてキックが強いんだっけ。私は恐る恐るミットを構えた。
「始め!」
掛け声と共に鶴羽の強烈なキックが私に襲いかかった。とにかく強烈でミット越しでも前腕は痛いし、体が吹き飛びそうなのを必死にこらえた。
重さでいうならレイナより重いキック。男子選手のミットも持ったことあるが、男子選手よりもパワーがある。軸は一切ぶれず、全体重が脛に集約されたキックだ。何とか私は左右のキックを持ちこたえた。
「雷道さん、ミット持つの黒木より上手だよ」
なんか誉められた。基本的に鶴羽はクールだ。
「ありがと。あ、エレナで大丈夫だよ」
「じゃ私のことはミウって呼んで。エレナちゃんも全力で蹴ってきてね」
私も持てる力を出しきってキックを打ち込んだ。
「蹴りはパワーはあるけど軸足が安定してないのが勿体ないかな。蹴りのあと、すぐ体勢を戻せるようにしたいね。蹴り終わりにバランス悪いと次の攻撃を続けられないし、相手から反撃をもらうかもしれないから。じゃまたあとで」
「おし! みんなよくやったな。初日はこれにてお開きとしよう。明日は午前からまた5キロランと坂での走り込み10本! んで午後練は4割程度で行うライトスパーを行う予定だ。怒涛のノンストップで3分10ラウンドコース!! 防具もフル装備で臨むこと!」
*
「エレナちゃん」
レイナと部屋へ向かう途中、エビス会長に呼び止められた。
「突然だが9月に打撃王のBクラストーナメントに出てみないかい? ここで結果を出せたらAクラスに大きく前進できる」
「Cクラスじゃなくて、いきなりBクラスのトーナメントですか? 相手、強い子ばっかりですよね?」
「まあな。けどなこないだのCクラスの試合をみた運営が、エレナちゃんに是非Bクラスの試合に出てほしいと言われてね。あの絶妙なタイミングで放ったハイキックのKO勝利が思ったより反響を呼んでるようだ。」
……私、注目されてるってこと??
「すごいじゃん! エレナ、来年には打撃王GP参戦してるんじゃない? 頑張ろう!」
レイナはまたしても可愛い八重歯を見せながらはにかんだ。
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