第2‐2話 突然


 目標の一つに決めた「食料の確保」の為、二人はコンビニへ向かっていた。


「ホントに人探さなくていいのか?」

「俺達が死んじゃったら元も子もないからね」

「特にお前が死んだらやばいだろ。お前みたいに俺とまともに会話してくれっかなんてわかんねぇし」


 空中で一回転しハンモックにもたれかかるような格好で言う。


 小さな動物は、平時を保っているだが、少し思い出していた。自分のその一言で、おぼろげながら浮かんでくるその光景。

 声もあった。しかし、自分の物ではない。その声は、酷く衰弱していて。



 触れただけで、二度と会えなくなってしまいそうな――



「――っ!」

 スゥッと息を吸い込む。今の表情と冷や汗を隣の彼は見逃した。


「否定はしないけど君に死なれても困るよ……」


 プクッと口をふくらませる。


「そ、そう簡単に死にゃしねぇよ。体の丈夫さには自信があるんだ」


 取り繕うように、若干声を張り上げる。


「んー、だったらいいけどさ!」


 屈託のない笑顔。

 小さくため息を付き、朔良の肩に戻る。



 ふと、朔良が相棒の方を向く。

「……相棒。俺さ、君みたいな動物?を一回も見たこと無いんだ――」

「んぁ? どうした急に。何が聞きたいんだ?」


 少しずつ表情が重くなる。


「――無理して答えてほしいわけでもないんだけどさ……君は、何者なの? ああ別に悪い奴だって疑ってるわけじゃなくて、君が俺にとって味方であることもうわかってる。けど――」


 必死で手を上下させ、声色や動きで「疑っているわけではない」と、言っている。

 しかし、「人類が動かなくなった」せいで霞んでいたが、自身の隣にいる生き物も十分に異変の類で、朔良が疑うのも無理はない。


 セミの鳴き声が、段々と大きくなっていく。何かをひた隠すかのように。


「君は、人間が止まった後に現れた。ひょっとしたら、君に心当たりがあるんじゃないかって――」

「……」


 相棒はその場に停止し黙り込んでしまった。


「あ、ご、ごめん気に障ったよね。悪かっ――」

「黙れ」


 そう短く言い切ると朔良を引っ張り物陰に隠れた。


「ッ……どうしたのいきなり! いくら何でもここまですることないだろ! 大体――」

「あの建物に何かいる」


 相棒が指をさした先にはコンビニがあった。


「え? ああ、あそこがコンビニだよ。この時間なら人が……止まった人がいるはず。あっ……山から下りてきた動物の可能性も……」

「いや、どっちも違う。俺が見たやつは、二足歩行、あたりを見回す動作……それと」

「じゃあそれってなんじゃないの!? それなら隠れる必要なんてなかったじゃん! 早く行こう!」


 朔良はコンビニに向かって走り出した。


「ッ待て! まだ話は終わってない! そいつは!」

「え?」


 その場で立ち止まり、振り返る。


「そいつは! !!」


 瞬間、それが目にしたのは日の光に当てられ、もはや美しく見えるほどに輝いた鮮血と、腕がナイフのような化け物に腹を貫かれ、あまりの苦痛に耐えがたい表情を見せる先刻決心を共にした彼の姿だった。


 雲ひとつない青空、真夏とは思えない涼しい風が吹く日。其れは、物思いに耽る。


(もし、出会い方が違ったら、あのテレビってやつを見たり、此処について教えてもらったり……)


(そんなの御伽話だ……でもまだ……離れたくねぇよ――まだ、まだ早い……!)

「おい!てめぇ!こっちを見――」


 そう、相棒が言い切る前に目にもとまらぬ速さで化け物が朔良の足を切り裂いた。

 もはや動けぬ生き物にさらなる苦痛を与えるそれはニッと不気味な笑顔を浮かべ、耳元でハエが飛び回るような鬱陶しい声で笑う。


「ッ!! ……野郎ぉぉぉ!!!」


 相棒の大声に気が付き、標的を切り替える。


「――クソッ……!」


 恐ろしい速度でこちらに向かってくる化け物。もはや回避の手立ては、無い。


「う゛ぅ!!!」

 

 一つの石が、宙を舞う。


 コツッと骨同士が接触したような音がなった。

 その瞬間、ゆっくりと化け物が朔良の方へ方向転換。その息は、離れていてもわかるほどに荒ぶっている。


「逃げろ――相棒」


 ボトッ。

 腕が、離れていく。あるべき所から。


「朔良ぁッ!!」

「にげ……ろぉ――」


 血を吐きながら、もはや涙も出ぬそんな状態で、自身が今一番逃げたいであろうそんな状態で出たのが、その一言。


「あ……あぁ……!」


 これで、お別れ。


 これで、終わり。


 これが、最後。


「嫌だ!!!」


 全速力で、朔良の方へ向かう。


 キリキリと笑いながら両手を相棒の方へ向ける。

 殺す、その合図だろう。だが相棒の視界に、それは映らなかった。


「フーッ……!」


 大きく息を吐き、速度を上げる。


(これでお別れなんて、絶対!! 認めねぇ!!)


 走るその右手には、光り輝く、玉。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



どうも、しぇがみんです。

別れはいつだって唐突ですね。

次回をご期待くださいませ。

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