第2話 どうにも不自然な借金という災厄

「借金の返済猶予が過ぎましたので、強制返済用ダンジョンへ強制配属となります」

「え」


 それはあまりにもあっさりとした言葉だったから、うっかり聞き逃しそうになった。というか、ほぼ聞き逃したし、聞き返した。


「なんて?」

「借金の返済猶予期間が過ぎましたので、借金の強制返済用ダンジョンへ配属となります。拒否権はありません」

「私借金なんてしたことないよ?」


 借金、は分かる。お金を借りる事だ。返済猶予期間、も分かる。借りたお金を返す期限だ。借金の強制返済用ダンジョンは……一応話を聞いた事がある。魔石を手に入れたら自動的に回収されて、借金を返し終わるまで出られない、そういう制限の付いたダンジョンだ。

 ただ私は、攻略者……ダンジョンに行って、敵を倒して魔石を回収する仕事をするようになって3年が経つけど、借金はしたことが無い。全部、にこにこ現金払いで、貯金もちゃんとしてた。攻略者としては、ずっと黒字だ。

 だから、訳が分からない。した覚えのない借金の猶予期間なんて知る訳がない。しかも、返済用ダンジョンへ放り込まれるのは、相当に金額が大きい時だけだったはずだし。それこそ、普通にしてたら絶対に返済できない、って判断されるぐらいの。


「実際ここに借金の証文があります。これはあなたの筆跡でしょう」

「…………私、自分がサインした書類は全部写真にとってるけど、これは知らない」


 本当の事だ。だって私は、家族が全員、最初にダンジョンが出てきた時に、その近くにいた。つまり、行方不明者になってる。……まぁ、ほとんど死んだのと同じなんだけど。

 ついでに言えば、学校だってその範疇に入っていたし、普段の生活で移動する範囲は、丸ごとその中に入っていた。だから、実質、私は家無し親無し、故郷無しって事になる。一応、無事だった理由が、クラス単位の修学旅行に行ってたから、だから、先生を始めとした大人の保護は受けられたけど。

 それでも、何とか自力で生活する為に、攻略者をやってる。学校に行かせてもらうような余裕は、お金的にも、時間的にも無い。……受け入れてくれる学校が無かった。っていうのも、まぁ、あるにはある。


「しらばっくれても無駄です。それに、もう転移準備は終わっています」

「は?」


 だからしらばっくれてる訳でも無いんだけど、この、細くて色の濃い眼鏡をかけた女の人は、こっちの話を聞くつもりが無いらしい。あんまり知らない人だなと思ったから、最近この支部に来た人なんだろうか。

 ちなみに、転移って言うのは魔石っていうエネルギーの塊を使って出来上がった技術で、こう、魔石のものすごいエネルギーを使って、空間をぐにゃっと力業で曲げるものらしい。そして魔石はかなり良い値段で売れる。つまり、お高い。

 借金した人間を運ぶには贅沢すぎる方法で、むしろそれこそものすごく高い荷物とかを送る事にしか使われてない筈で、まさかこの転移のお金も借金に加えられるとかじゃないよねなんて思ったりして。

 そんな事を考えている間に、見えているものが全部ぐにゃっと歪んで。


「……うっそぉ……」


 それが元に戻ったら、こう、石で出来たというか、コンクリート打ちっぱなし、っていう感じの、暗い部屋……正直見慣れた感じもある、ダンジョンの中のどこかの部屋に、私は立っていた。

 ……これ、もしかして、正規の手続きじゃないのかな。だって普通は、転移なら、ダンジョンの入口近くになるって聞いた覚えがあるし……。なんて、思いながら。

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