第11話 スサノオその4
黄泉の国——そこは生者の立ち入ることを許されぬ場所。スサノオは過去の争いにより、この地に足を踏み入れることを禁じられていた。しかし、彼はその禁を破らざるを得なかった。
異変はすでに始まっていた。地上では、命を落とす者が増えていた。通常、死者の魂は然るべき時に黄泉の国へ導かれる。だが、最近は本来の寿命を迎えていない者たちが、次々と命を落としていた。
「死神どもが仕事を間違えてやがる…」
最初は単なる偶然かと思っていた。しかし、次第にその数が増え、スサノオのもとにも異変の報告が届くようになった。
「これは誰かが意図的にやっているに違いねぇ…もしそうなら、絶対に放っておけねぇ!」
天照に報告すべきかとも考えたが、彼女と話しても信じては貰えず、また厄介なことになりそうだった。スサノオは独断で動くことを決めた。
黄泉比良坂——それは生と死の境界にある忌まわしき門。スサノオはそこで立ち止まり、一度深く息を吸った。黄泉の国に足を踏み入れたが最後、戻れなくなるかもしれない。だが、迷っている暇はなかった。
「行くしかねぇ…!」
彼が足を踏み入れた瞬間、突如として黒い霧が渦巻き、異臭が鼻を突いた。
「スサノオよ、貴様はこの地に入る資格を持たぬ」
低く響く声とともに、黄泉の国の守護者・黄泉津大神が姿を現した。かつてスサノオが乱暴を働いた過去があり、彼に対する警戒心は強い。
「俺は好きでここに来たんじゃねぇ。お前たちの管理が狂ってるから、確かめに来たんだ!」
「…何のことだ?」
「地上じゃ、本来死ぬはずのねぇ奴らが次々に死んでるんだよ! お前らの仕業だろう?」
黄泉津大神は一瞬表情を曇らせた。しかし、次の瞬間には静かに首を振る。
「我らがそのようなことをするはずがない。だが、確かに近頃、通常よりも多くの魂が集まっているのは事実だ」
「だったら、俺が確かめる。通せ」
「禁を破るのであれば、それなりの覚悟を持てよ」
黄泉津大神は一歩下がると、スサノオの進行を止めなかった。スサノオは剣を握りしめ、闇の奥へと足を進めた。
黄泉の国の奥深く、スサノオは剣を構えていた。彼の前には、漆黒の霧の中から無数の死神たちが現れていた。
「出やがったな」
「おい!お前たちは魂を奪うことしか考えてねぇのか?」
スサノオの問いに、死神の一体がカラカラと笑った。
「それが我らの務め。死すべき者は死に、魂は然るべき場所へ導かれる……定めに従い、我らは仕事を果たしているだけよ」
「嘘をつけ!」
スサノオは地面を蹴り、一瞬で死神の懐に飛び込んだ。剣を横薙ぎに振るうと、黒い霧のような体が裂けた。だが、その切り口はすぐに元通りになる。
「効かねぇのか」
「無駄なことを。我らは形あるものにあらず。ただの影よ」
背後からの殺気に気づき、スサノオは即座に跳躍した。直後、彼のいた場所を無数の黒い鎌が切り裂いた。
「くそっ、数が多すぎる!」
スサノオは剣に雷をまとわせ、空中で大きく振るった。雷光が弾け、黄泉の国の空を裂いた。その衝撃波が死神たちを吹き飛ばす。しかし、彼らはすぐに霧となり、再び形を成す。
(…このままじゃキリがねぇな)
そのとき、スサノオは背後に広がる無数の魂の塊を目にした。
「あいつら…必要以上に魂を集めすぎていやがる。これじゃ人間界とのバランスが崩れるわけだ!」
黄泉の国は魂を正しく管理する場であるはずだ。だが、死神たちはまるでノルマを果たすかのように無差別に魂を狩り集めていた。
「お前たち、自分が何をしてるかわかってんのか?」
「何を言うか。定めに従い、我らは魂を集める。それが崩れることこそ、世界の秩序を乱すのではないか?」
「違う! お前たちはただ数を稼ぐことしか考えてねぇ! 死すべきでない者の命を奪い続ければ、いずれこの世界は破綻する!」
スサノオは叫び、剣を再び構えた。
「いいか、俺は絶対にお前たちのやり方を認めねぇ。これ以上好き勝手にはさせねぇからな!」
死神たちは一斉にスサノオに向かって襲いかかった。スサノオは雷光をまとい、猛然とその群れへと飛び込んでいった——。
一方、地上では異変が続いていた。
突然の豪雨、雷鳴、異常な寒暖差。人々は天変地異に怯え、神々に祈りを捧げていた。
「これはただの異常気象ではない…どこか神が戦っているのか…?」
神々の世界でも、この異変は問題となっていた。
「風が制御できん!まるで誰かが嵐を起こしているようだ」
「雷雲が異様に集まっておる…これはただ事ではないぞ!」
風神と雷神が顔を見合わせ、不安げに呟いた。
その後二柱は天照のもとへと向かうことを決めた。
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