第10話 スサノオその3
スサノオは大きくため息をついた。腕を組み、険しい顔で夜空を見上げる。
「……ったく、面倒なことになったな」
青年はその姿をじっと見つめていた。先ほどまでの豪快さとは違い、スサノオはどこか落ち着いていた。
「まあ、隠しても仕方ねぇな。聞かせてやるよ……俺と死神の因縁について」
スサノオはどっかりと岩に腰を下ろし、黄泉の国での出来事を語り始めた。
それは、まだスサノオが若かった頃の話だ。
スサノオはある時、黄泉の国へと迷い込んだ。正確には「迷い込んだ」というより、「勝手に入った」と言ったほうが正しい。
「ほら、俺って昔から何かと姉ちゃん……天照に怒られてたろ? そんで、あの時も『お前は粗暴すぎる!』ってまた怒られてよ。腹が立ったから、頭を冷やそうと思って適当にぶらついてたんだよ。そしたらいつの間にか黄泉の国にいてな」
青年は目を丸くした。
「えっ、そんな軽いノリで?」
スサノオの表情が少し険しくなる。
「だがな、そこはただの黄泉の国じゃねぇ。腐った空気が渦巻き、地面からは亡者の手が這い出て、闇の中から無数の目がこちらを覗いている。まるで生者を引きずり込もうとするようにな……」
青年は息を飲んだ。
「俺はそこで見ちまったんだよ。死者の魂が、死神どもに鎖で引きずられ、どこかへ運ばれていく光景を。だが、そいつはまだ寿命が尽きていないのに、間違えて黄泉の国に連れてこられたって言うんだ。」
「……そんな」
「あの連中に逆らえば、魂を滅ぼされる。だから、死者はただ従うしかねぇ。でも、俺には許せなかった」
スサノオの拳が震えていた。
「死んでもなお苦しみ続けるなんて、そんな理不尽があってたまるか!」
彼の怒号が響くと、地面がびりびりと震えた。
「俺はそいつらをぶっ飛ばしてやろうと思った。だが、死神どもはしぶとくてな……黄泉の国での戦いは、まるで終わりがなかった」
「それで、今日の喧嘩に……?」
「そうだ。俺はあいつらを許せねぇんだよ!」
スサノオの目は未だ怒りの炎を宿していた。
「とにかく、そこで妙な奴らに出くわした。こっちの世界じゃ死んだ人間の魂はみんな黄泉の国に行くことになってるが、中には死にたくないって言って駄々をこねる奴もいる。そういうのを無理やり連れてくのが死神の仕事だ」
「とにかく、あいつらのやり方は気に食わん!」
スサノオは豪快に言ったが、青年は苦笑した。
「スサノオ様、それってスサノオ様も悪いのでは…?」
「いやいや、間違ったことはしてねぇぞ? あの魂は本当に間違えて連れてこられたんだからな。それに、俺はただ正しいことをしただけだ」
「でも、そのせいで死神と因縁ができたんですよね…?」
「まぁな。あいつらにしてみりゃ、俺は邪魔者だろうよ。だから、今回もあいつが俺を見つけて喧嘩を吹っかけてきたってわけだ」
スサノオは腕を組み、ふんっと鼻を鳴らした。
「だから、俺は基本的に死神には関わるなって言われてんだよ。黄泉の国にもう一度足を踏み入れたら、今度こそただじゃ済まねぇってな」
青年はじっとスサノオを見つめた。
「それでも、スサノオ様は助けたかったんですね。その魂を」
「当たり前だろ。俺は俺が正しいと思うことしかしねぇ」
スサノオはそう言うと、空を仰ぎ、大きく伸びをした。
「…っと、なんか腹減ったな。お前、何か食いもん持ってねぇか?」
「えっ、この流れで食事の話になるんですか!?」
「なるだろ。話したら腹が減るのは当然だ!」
青年は呆れながらも、ふと笑った。
(スサノオ様は豪快で無鉄砲だけど、なんだかんだで人のことを考えてるんだな)
「仕方ないですね。ちょっとしたお菓子ならありますよ」
「おっ、気が利くじゃねぇか!」
スサノオは喜んで菓子を受け取り、大口を開けて食べ始めた。
そんな様子を見ながら、青年はふと思った。
(スサノオ様がいつか、『太陽の部屋』に来たら、きっと面白いことになりそうだな)
そして、その時は意外と近いのかもしれない。そんな予感が、ふとした。
夜空の下、スサノオの豪快な笑い声が響き渡るのだった。
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