第2話 死ねない戦い

「うあああアアアアッッッッ!!」

 刀魔の叫びと共にデモンカイザーが霊魔に突っ込む。デモンカイザーの拳が霊魔の腹を貫く。体が崩壊し、溶けていく霊魔。

「か、勝った……!」

 そう思ったのも束の間

「後ろだ!!」

宮村の声にデモンカイザーが振り返る。

 グォォオオオオ!!!

 新たな霊魔が襲いかかる。4本脚で牙の生えた猪のような姿だ。

 咄嗟に腕を上げ身を守ろうとする。しかし霊魔の勢いは強く、そのまま突き飛ばされてしまった。

「うわぁぁっ!!」

 叫ぶ刀魔。遠慮などせず追撃をかける霊魔。壁面に打ち付けられたデモンカイザーに牙を突き刺そうと迫る。

「ぐっ……!! くそォッ!!」

 すんでのところで牙を掴む。

「うゥら゙ァァアッッ!!」

 怪力で霊魔を投げ飛ばす。霊魔は地面に落ちる瞬間、姿勢を変え見事に着地した。

「くっそ……あいつ……」

 悔しがる刀魔。その時、先ほど倒したはずの霊魔が再び形を取り戻し立ち上がった。

「なんだよそれ……ズルだろ……」

 立ち上がり腰を落とすデモンカイザー。額に汗を滲ませ、刀魔がどうするかと考えていると

「ダークネスブレイドだ! それならばヤツらを倒せる!」

コクピット内に宮村の声が響く。

「ダークネスブレイド……?」

 その時、刀魔の頭にイメージが流れてきた。

「……っ!! こうするのか!?」

 刀魔は感じ取った通りに念じる。

 デモンカイザーは拳を地面に突き付けた。デモンカイザーを中心にいくつもの地割れが生じ、その割れ目から大量の光が漏れ出てきた。光はやがてデモンカイザーの元へと収束し、デモンカイザーが地面から拳を引き抜くと、その手には大振りの大剣が握られていた。

「こいつで……ッ!!」

 妖しい光を帯びる剣を見て、霊魔達は竦む。これならいけると刀魔は2体に飛びかかる。

「うおおオオオアアアアアッッ!!!」

 力いっぱいに剣を振り下ろす。

「だああああアアアアアァァァァァァッッッッ!!!!」

 剣は強い光を解き放ち、その光が霊魔共の体を切り刻んでいく。

 ギャオオオオアアアアアアアッッッ!!!

 2体は断末魔をあげ、粉微塵になり消えていった。

「はぁ……はぁ……っ! 今度こそ勝った……よな……?」

「あぁ、完璧な勝利だ……!」

 宮村が答えた。

「は……はは……勝てた……」

 刀魔が安堵していると

 ドオオオオオオンンンン!!!!

巨大な地鳴りのような音が辺りに響き渡る。

「うおおおおおおおっっ!?!」

 安心しきっていた刀魔は、いきなりの轟音に絶叫してしまった。

 音が止むと目の前に巨大な空間の裂け目が生まれた。裂け目の向こうには、見た事のある格納庫が見えた。

「戻れ」

 神の声が聞こえる。デモンカイザーは裂け目の中へと入っていった。


「お疲れ様。体調とかはなんともないかい?」

 宮村は刀魔に問いかける。

「あぁ……はい。大丈夫だと思います。多分……」

 刀魔は答える。あまり自信はない。

「た、多分か……一応、検査はしたほうがいいかな」

 宮村がそう言う中、刀魔はスマホを取り出し時計を見た。

「あの、俺、学校戻らないと……」

「あぁ、もしかして授業中だったかい? それは悪かったね」

 宮村は神に視線を送る。

「扉は繋がって居る。来た道を戻れば良い」

 神がそう言うと、刀魔は急いでエレベーターに乗り込んだ。

「……大丈夫ですかね、彼」

 刀魔を見送り、宮村が神にたずねる。

 神は何も言わず姿を消した。

「……整備するかぁ」


 刀魔は屋上前の階段を降りていた。もうすぐ授業が終わる。急いで保健室へと駆け込む。幸いにも保健室には誰もいない、どうやら養護教諭は留守のようだ。刀魔はベッドに潜り込んだ。

 しばらくしてチャイムが聞こえてきた。授業が終わったらしい。

「刀魔ー? 大丈夫かー?」

 2分ほど経ってから鈴音が保健室に入ってきた。

 刀魔は体を起こす。

「具合どう?」

 鈴音は刀魔に駆け寄る。

「うん、大丈夫。だいぶよくなってきた」

 適当にごまかす。腹痛という体で保健室に来てはいるが、実際のところ体調は最初から良好である。

「ほんとに大丈夫? なんかすごい汗かいてるよ」

 鈴音は刀魔の額に手を当てる。熱はないようだ。

「だ、大丈夫だって! もう元気だし、教室戻ろう。えーっと、次ってなんだっけ?」

「次は体育だよ。女子はバドミントン、男子はわかんないけど」

「体育かぁ……」

 体調がよくないという体で保健室に来たと言うのに、体育の授業は参加する。そんなのはさすがに通らない。

「もうちょっと休むか……」

 刀魔は再びベッドに倒れ込んだ。

「私も休もっかな」

 鈴音が言う。

「お前は元気なんだから休んだらダメだろ」

「だって刀魔が心配だからっ!」

「体育が嫌なだけだろ?」

「あ、バレてる」

 鈴音は笑いながら言った。

「お前昔から運動だけはまるでできないもんな」

「しょうがないじゃん。人には向き不向きがあるんですー」

 刀魔は呆れてしまい、窓の外に目をやった。すると有り得ないものが見えた。

 空にひび割れがある。

 刀魔は思わず起き上がった。

「えっ……なんで、倒したはずじゃ……」

 刀魔が呟く。

「刀魔? どうした?」

 鈴音は、刀魔が何か言ったが聞き取れなかった。


「おいおい、霧沢くんよー」

 放課後、男子生徒が刀魔に絡む。

「聞いたぞお前、授業出ろって浅羽さん突っぱねたんだって?」

「なんだよ突っぱねたって、人聞き悪いなぁ。授業は出た方がいいって言ったんだよ」

「はァー……どうして浅羽さんはこんなやつ……わからん」

 男子生徒はため息をつく。

「浅羽さんな、落ち込んでたぞ」

「落ち込んでた?」

「授業中さ、俺ずっと女子達見てたんだけど、あれはどう見ても落ち込んで……」

 男子生徒が語ろうとすると

「お前、体育の授業中に女子見てたのか……? 落ち込んでるかわかるぐらいずっと……? 普通にキモいからやめとけ、それ……」

 刀魔が言い放つ。

「んっ!? お、おっ、俺のことは今はいいんだよ!」

 男子生徒は自分の行いを指摘され焦ってしまった。

「とにかく、あんま変なことしてやんなよ! じゃあな! また明日!」

「なんなんだあいつ……」

 刀魔は男子生徒を見送り呟く。

「はぁ……あ、鈴音」

 向こうから歩いてくる鈴音を見つけた。

「やっと来た。なんかしてた?」

「あぁ、刀魔。ちょっと先生に頼まれて手伝いを……」

「そうだったか。手伝いってまだある? あるなら俺も何か……」

「ううん、もう終わったよ」

「そっか。じゃあ帰ろう」

 刀魔は鈴音を見て言う。

「えっ、あ、うん帰る! ちょっと待って、カバン取ってこなきゃ」

「待ってるからさ。なるべく急いでくれよー」

「急げって、勝手に待ってるんじゃん!」

 そう怒るように言いながら、なんだか嬉しそうな鈴音。その様子を見て、後ろで女子生徒がニヤけている。

 鈴音がカバンを持ちやって来た。

「またせたー!」

「おーう、よし帰ろう」

 2人は教室から出る。

「なんかあった? さっきちょっと元気なさそうな気がしたけど」

 刀魔が問いかける。

「えっ?! えーっと、なんもないよ。ちょっと体育嫌だったかなー……なんて」

「なんだそれ? 心配してソンしたよ」

 刀魔は笑いながらそう言う。


 その日の夜、刀魔は闇の中にいた。そこら中に咲いている彼岸花達。視線の先には川が流れ、その向こうには荒廃した大地が広がっている。この異様な光景を見て、刀魔はすぐに夢だと気づいた。

「なんの用だよ、神様」

 刀魔が語りかける。すると目の前に神が姿を見せた。

「己はデモンカイザーに乗り、志崎壕介の送り込んだ霊魔を打ち倒した」

 神が言う。

「あぁ、アンタの言う通りやってやったよ。これで俺は地獄行きじゃなくなるんだよな?」

 しかし神は首を縦には降らない。

「己の使命は未だ終わっては無い」

「はぁ……? 使命ってなんだよ。あの霊魔ってのを倒せばよかったんじゃないのかよ」

「あれで終わりでは無いと言うて居る。己に課せられた使命、霊魔共を打ち倒し、志崎を討つ。其れが志崎の孫で在る己への罰だ」

「罰って……そもそもそれ、俺悪くないんだよな?!」

 刀魔は苛立ちながら聞く。

「そうだ」

「そうだって……おかしいだろ! なんで俺が見ず知らずの爺さんの罪を背負わなきゃいけないんだよ!」

「奴の罪は其れ程に重い。故、子孫も共に償う必要が在ると定められた」

「なんだよそれ……ていうか俺は志崎の孫なんだよな? だったら俺の、父親か母親かわかんないけど、そのどっちかが志崎の子供ってことだよな? そっちはどうなってるんだ?」

 刀魔が聞くと神は答えた。

「死んだ。既に地獄に居る」

「死んだって……マジかよ……」

 神の回答に驚く刀魔。そんな刀魔をよそに神は話を続ける。

「己が使命を守り志崎と戦い、見事に奴を討つ事が出来れば、己等の罪は消え、浄土へと逝ける」

 神は刀魔の目を見据え話を続ける。

「二つ、選択肢が在る」

「選択肢……?」

「今直ぐ生を辞め地獄へと逝くか、或は此の儘デモンカイザーに乗り志崎を討つと言う使命を果たすか」

 神は迫った。

「生を辞めって、死ねってことかよ……?」

 刀魔が聞く。

「そうだ。志崎の罪を思わば当然の報い」

「なんだよ報いって、俺悪くないのに……ていうか戦うかどうかは自由だったんじゃ……」

「其れは宮村徹朗の言葉に過ぎん、彼奴は己の使命など知らぬ」

「……アンタ、俺にも宮村さんにも説明しなさすぎだろ……わかったよ、やればいいんだろ?」

 刀魔は絶望的な表情でそう答えた。

「そういや、聞きたいことがあるんだった。俺、霊魔を倒したんだよな? なのになんで空のひびが残ってるんだ?」

 刀魔の問いに神が答える。

「あれは志崎の作り出した裂け目、奴を倒さぬ限り消えはせん」

 刀魔は空のひびの事を思い出している。ひび自体に変化はない、しかし霊魔と戦う前、ひびから漏れ出ていた瘴気は見あたらなくなっていた。

「話は終わりだ」

 神は刀魔の頭に手をかざす。視界が白くなっていく。

 目が覚めると日が昇っていた。


 翌日、昼休み。各々が昼食を摂る時間。

「とーまっ! ごはん!」

 刀魔の方を向き、両手のひらを刀魔に差し出す鈴音。

「あぁ、ちょっと待ってなー。ほい」

 刀魔はカバンの中から2つの包みを取り出し、片方を鈴音に渡す。鈴音が包みを開くと中から弁当箱が出てきた。

「はぁー、ありがたいぜぃ。いただきます!」

 鈴音は手を合わせ、弁当の蓋を開ける。刀魔も弁当を開ける。

「いただきます」

 食事中、1人の女子生徒がやってきて、刀魔に話しかけてきた。

「ねぇ、霧沢君っていつもお弁当持ってきてるよね? 自分の分と鈴音ちゃんの分、それって自分で作ってるの?」

 刀魔は答える。

「いや、これはおばさんが作ってくれるんだ」

「おばさん……? あぁ、そういえば霧沢君って養子なんだっけ? じゃあそのおばさんってお母さんみたいな人ってこと?」

「まぁ、そうだね」

 刀魔がそう言うと女子生徒は何かに気づく。

「えっ、待って? てことはじゃあ、親公認……?」

 女子生徒が呟くと

「そうだよ」

鈴音は満面の笑みで答えた。

「えぇーっ!?」

 女子生徒は驚いた後、刀魔と鈴音を交互に見る。

「へぇーそうなんだぁ……! 参考になりまぁす……!」

 なぜかテンションが高い女子生徒はそのテンションのまま刀魔達の元を去っていった。

「何の話?」

 刀魔が鈴音にたずねる。

「んー? んフフ」

 鈴音は口に卵焼きを放り込み、笑うだけで答える気がない。


 * * * * *


 辺りが闇に覆われている。そこかしこで火柱が立ち、嵐が起こり、悲鳴が響き渡る。

「お久しゅうございます、我が主よ。不肖コオロギ、招集の命を受け只今参上致しました。」

 メガネをかけた男が老人の前で膝まづいている。

「来たか、コオロギよ。儂がなぜお前を呼んだかわかるな?」

 老人はコオロギと名乗る男に問う。

「デモンカイザーでございますか?」

「そうだ。地獄の主はやはり、儂の動きを読んでいたようだな」

「その様でございますな。して、奴をどう致しましょうか?」

 男は老人にたずねる。

「どうもせん。これまで通りに計画を進めるぞ」

「しかし、あれは我々の障壁となり得ますぞ」

 老人は不敵に笑う。

「なればこそだ。多少は酔狂な方が面白いだろう?」

「左様ですか。であれば、私めにはこれ以上の言葉はございません」

 男がそう答えた後、老人が問いかける。

「儂の言う通り、用意はしてあるのだろうな?」

「えぇ、仰せの通り数百の霊魔を捕らえて参りました」

「よし、すぐに1体出せ」

 老人が命令する。

「では、どれにいたしましょうか?」

「岩の大男がいただろう。奴を使え」

「承知しました。すぐに用意を。全ては我が主、志崎壕介様のために」

 男はそう言うと闇の中に姿を消した。

 志崎は不敵に笑っている。


 * * * * *


「ねぇ刀魔、明日なんだけどさ」

 食べ終わった弁当を片付けて、鈴音が言う。

 明日は土曜日、学校は休みだ。

「明日? なんかあったっけ?」

「刀魔は用事あるの?」

「俺? いや、ないと思うけど」

「私、ちょっと行きたいとこあるんだけど……」

 そう言いながら鈴音がカバンの中で何かを探している、その時

 ドオオオォォォォォォォン…………

太鼓のような音、刀魔は咄嗟に窓の外を見た。空のひびから瘴気が漏れ出ている。

「えーっと……あった! これ、『オニオンズ』のチケット! お兄ちゃんがもらってきてくれたんだけど、2つあるし一緒に……刀魔?」

 鈴音は遠くを見ている刀魔に気づいた。

「ねぇ、聞いてる?」

「えっ? あぁ、えっと……ごめん、ちょっとトイレ行ってくる!」

 刀魔は教室を飛び出した。

「えっ?! ちょっと刀魔! ……うぅー」

 近くにいた女子生徒が、いじける鈴音を慰めようと頭を撫でている。


 刀魔は屋上への階段を上がる。しかし、扉前には数人の生徒がいた。その内の1人、腕章をつけた生徒が刀魔に話しかける。どうやら生徒会らしい。

「ちょっといいですか? 先生方が仰っていたのですが、昨日、この屋上に出るための扉が開けられたという記録があって、何かご存知ですか?」

 急いでいる様子の刀魔を怪しむ生徒会。

「えっ、えーっと……知らないです! ごめんなさい!」

 刀魔は逃げるように階段を下りていった。

 あの扉は使えない。他にないかと校内を探す刀魔は体育館裏の倉庫にやってきた。ここならば他に人もいない。

「神様!」

 刀魔が呼ぶと神が姿を見せた。神が倉庫の扉を開けると、その先は宮村の部屋に繋がっている。刀魔は扉の向こうへ進んだ。

「刀魔君、来てくれたか」

 刀魔の姿を見て宮村が言う。

「あんな怪物と戦うわけだからな。もう来ないんじゃないかって、その場合の対策を考えないとと思っていたが、大丈夫そうだね」

 2人はエレベーターに乗り込む。

「まぁ……死にたくはないので……」

「……? どういうことだい? 戦う方が命を落とす可能性は高いと思うが……」

「神サマに、戦わないなら死んでもらうって言われたんで……」

「そ、そうなのか……」

 宮村は少し同情するような表情をした。

「そりゃ戦うのは怖いし嫌ですけど、死ぬのはもっと嫌だし、それに……」

 戦わなければあのひびが完全に割れ、この世界に霊魔達が侵攻してくる。そうなったときまず被害を受けるのは鈴音達だ。

「それに……なんだい?」

「俺に守れるなら、守りたい」

 そんな刀魔の様子を見て宮村は語りかける。

「守りたいというのは立派だが、なんだか少し苛ついてる様にも見えるな……」

「そりゃまぁ、ね。理不尽だなって苛立つ感じはありますよ」

 エレベーターが到着すると格納庫内には神が待っていた。2人は格納庫へと入っていく。

「理不尽か……まぁ、悪人の尻拭いなんてやりたくないもんなぁ普通」

 宮村がそう言うと、刀魔の表情はだんだん暗くなっていった。

「……うーん、そういう時はさ、叫んでみるといいかもね」

「叫ぶ?」

「そうだ。それもただ叫べばいいってもんじゃない。ちゃんと意味のある言葉を叫ぶ、そうやって自分の気持ちを吐き出すんだ。マイナスな物もプラスな物もね」

 宮村は格子を開く。

「戦う時もそうだ。武器の名前とか、必殺技の名前なんて叫んでみたりさ。……まぁ、必殺技とかは特にないんだけど。とにかく、そうやってテンションを上げていくんだよ」

 コクピットハッチが開く、刀魔はデモンカイザーに乗り込んだ。

「テンションですか……?」

「こういう戦いってのは気分が大事なんだ。気持ちが高まっていれば前向きになれるし、気圧されて怯むこともない。逆に気持ちが沈んでいたら、諦めがちになってしまって勝てる相手にも勝てない」

 そう言い、宮村はデモンカイザーから離れた。

 ハッチを閉じ、コクピットで1人になる刀魔。

「戦いは気分、気持ち、武器、必殺技……叫ぶ……」

 神が手を突き出し念じる。デモンカイザーの前に地獄の入口が現れる。

「行け」

 神の言葉を聞き、刀魔は機体を動かす。

「やるぞ……デモンカイザー!!」


 グオオオォォォォォォォッッ!!

 人の形をした岩塊が吼えている。腕を振り上げ、目の前の空間に入ったひびに殴りかかる。

「うおおおああアアアアアアアッッッ!!!」

 霊魔の腕が空間を割ろうとしたその瞬間、デモンカイザーの体当たりが炸裂した。吹き飛ぶ霊魔、デモンカイザーはゆっくり立ち上がる。

「やってやる……! みんなを守って、俺も死なない! 地獄行きなんて、なってたまるか!!」

 デモンカイザーの拳が地を割る。光が溢れ辺りを照らす。デモンカイザーは大剣を引き抜いた。

「ダークネスッ! ブレイドォォォッッ!!」

 ダークネスブレイドを構え、岩の霊魔に突っ込む。しかし岩の霊魔は自らの身体で、その刃を受け止めた。

「なぁっ!?」

 驚く刀魔。霊魔はデモンカイザーを掴み上げ、遠くへと投げ飛ばす。

「うわあぁっ!!?」

 刀魔は予想外の反撃に声を上げてしまう。

 デモンカイザーはバランスを崩し、膝まづいてしまう。ダークネスブレイドは弾き飛ばされ地面に突き刺さった。

 刀魔は心が折れそうになるが

「……っ! ダメだ……! 弱気になるな! 俺は負けない。勝つんだ!」

奮い立つ、勇む。諦めるわけにはいかない。その時、宮村の通信が聞こえてきた。

「刀魔君、奴の表皮は恐ろしく固い。斬撃ではダメだ。打撃を、ファントムストーンを使うんだ!」

「ファントムストーン……? ッ……!」

 刀魔の頭にイメージが流れ込む。

 グアアアアッッ!

 霊魔がデモンカイザーに飛びかかる。咄嗟に腕を前に出し身を守る。

「邪魔ッ……だアアアァァァ!!」

 霊魔にされたのと同じように、体を掴み上げ、投げ飛ばす。地面に打ち付けられて霊魔は怯んでしまった。

「お゙お゙オオオオォォォ……!」

 胸の前で両手を構えるデモンカイザー。雄叫びと共に風が巻き起こり、周囲の石や砂をその手の中へ集めていった。それらは1つの塊となり、みるみるうちに大きくなっていく。

 やがて塊は無数の棘が生えた巨大な金棒へと変わった。

「ファントムッ! ストォォォオオン!!!」

 デモンカイザーは自身の背丈を超えるほどの大きさの金棒、ファントムストーンを高く掲げる。

「岩を砕く……一撃……これだッ!!」

 少しだけ考え込む刀魔。デモンカイザーはファントムストーンを振り回し、霊魔に突進する。

「ファントムロック……ッ! ブレイカァァァァァアアア!!!」

 霊魔は腕を組み、防御姿勢を取る。だがデモンカイザーの強烈な一撃は、それを無意味なものにした。

 岩の両腕は粉々に砕け、胴体には特大のダメージを負わせ、霊魔の体の内側、魂そのものが露出した。

「今だ刀魔君! これなら勝てる!!」

 宮村が叫ぶ。

 デモンカイザーはファントムストーンを霊魔目掛けて投げつける。姿勢を崩し、倒れ込む霊魔。その隙に、地面に刺さったダークネスブレイドを回収した。

「やってやる! 見せてやるよ、必殺技ァ!」

 刀魔が叫ぶ。霊魔は起き上がり、吼えながらデモンカイザーへ突っ込む。

 ダークネスブレイドは妖しい光を纏い輝く。デモンカイザーは輝く剣を構え走り出した。

「ダァァァアアクネスッ!! ファイナァァァァァアアアアアアルッッッ!!!!!」

 剣を横一文字に振り払う。その刃は残像を写しながら、見事に霊魔の魂を両断した。

 グゴオオオオアアアアアァァァァッッ!!!

 霊魔の叫びが辺りに響く。その魂は光に灼かれ消えていった。


 デモンカイザーが格納庫に入る。裂け目が消え、地獄への道が閉じる。刀魔はデモンカイザーから降りた。

「よくやった。お疲れ様」

 宮村が刀魔に寄る。

「しかし、なんだっけ? あのファントムロックブレイカー? ってのとダークネスファイナル? というのは」

 宮村がたずねると、刀魔は少し恥ずかしそうに目を逸らし答える。

「いや……なんというか? ノリって言うか……? 戦いは気分なんですよね? だからまぁ……」

「いいんじゃないか? 私は好きだね、ああいうの」

「そ、そうですか……あっ! ていうか学校戻んないと!」

 刀魔は急いでエレベーターに乗り込み去っていった。

 刀魔が去った後で神が宮村に話しかける。

「志崎は我等の想定以上に力を付けて居る、あれの準備はどうだ」

「順調です。あとは乗り手さえ決まれば、デモンカイザーと合わせて調整して完了です」

 宮村はモニターにデータを映す。神はそれを見ると姿を消した。


「遅くなりましたぁー……」

 刀魔が教室に戻ると既に授業が始まっていた。

「遅ェぞ霧沢! 何してた!」

 教師が怒鳴る。刀魔は謝りながら自分の席に向かっていった。

「刀魔、なにしてたの?」

 鈴音が少し冷ややかな目をして聞く。

「えー、いや……ちょっと外出たら迷っちゃって……はは……」

 鈴音は怪しんでいる。なぜ刀魔が嘘をつくのかわからない、何かを隠しているのかと考える。

「……まぁいいけど」

 鈴音は拗ねたまま、黒板の方に向き直る。

 刀魔はこの先、わけのわからない使命のせいで貧乏くじを引き続けることになったと気づき、頭を抱えた。


 放課後、刀魔と鈴音は帰り道を歩く。会話のない2人、鈴音は機嫌がよくない。あまりに気まずい。刀魔はなんとかしようと考えるが、何を話すべきかわからない。すると、見かねた鈴音が口を開いた。

「何話したらいいかわからないって感じだね?」

「えっ……まぁ、はい……」

 刀魔は頷く。

「……ほんとは何してたの?」

 鈴音は足を止め、刀魔の方を向いた。

「今日のお昼、本当は何をしていたの?」

 地獄に行って正義のロボットに乗り邪悪な怪物と戦っていた。そんなこと言えるはずがない。

「……言えないんだね」

「うん……ごめん……」

「ううん、大丈夫。刀魔のことだから何かやましいことしてるわけじゃないと思うし、誰だって人に言えないことの1つや2つあるよ」

 そう言う鈴音の顔は寂しげだった。

「あのさ、鈴音」

「なに?」

「今日の昼、何か言いかけてたよな? あれなんだったの? 明日どうとかって」

「……映画のチケット、もらったから行きたかった」

 下を向き、鈴音が小声で言う。

「映画かぁ……」

 刀魔は考えた。もし映画の最中に霊魔が現れたら、鈴音といる時に神に呼ばれたら、考えるほど嫌気がさしてきた。もう考えない、その時はその時だ。

「明日は土曜日なんだから、悪霊だって休んでくれよ……」

 心の声が漏れてしまった。

「悪霊……? えっ、何?」

 鈴音に聞かれていた。

「なんでもない、こっちの話。映画連れてってくれる?」

「……一緒に行くの?」

「ダメでしょうか……?」

「……いいよ。じゃあ明日ね」

 鈴音の声が少し明るくなった。刀魔はその様子を見て少しだけ安心した。

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