魔皇撃神デモンカイザー
甘ケラトプス
第1話 地獄行きの少年
どこかの高校、どこかの教室。
「出席順に呼ぶぞー。じゃあ相田直美ー」
教師が中間テストの答案用紙を返却している。相田と呼ばれた生徒が席を立ち、教師の前に来て答案を受け取る。
「次、
少女が席を立ち、教師から答案を受け取りに行く。
少女に返却された答案には
『浅羽鈴音 96 学年1位! おめでとう!』
と書かれていた。
「ありがとうございます」
少女は嬉しそうな表情でそう言い、教卓を去る。その様子を少女の隣の席にいた少年が眺めている。
「何点?」
席に着いた少女に少年が聞く。
「96点ー、今回も1位だって」
得意げに答える少女。
「はぁー、頭良いなぁお前」
「当然。努力してんの、こっちは」
2人が話していると
「
教師が名前を呼んでいる。
「あ、呼ばれた」
少女と話していた少年は立ち上がり、教卓へ向かう。
「お前、ほんとやればできんじゃねぇか。ほれ」
そう言い教師が返した答案に書かれていたのは
『霧沢刀魔 83』
しかし、少年はあまり納得いかない様子で自分の席へと戻っていった。
「どうだった?」
席に着いた少年に少女が聞く。
「83」
「やったじゃん! また上がってる。私が教えてあげてるおかげかなー?」
「まぁ、そうだな」
「そうでしょ? この私に感謝してもいいぞー?」
少女は得意になって言う。
「はいはい。鈴音様ー、どうもありがとうございましたー」
少年は少しふざけた様子で少女に手を合わせた。
その日の放課後
「とーまー、かえろー」
鈴音が呼ぶ。
「おーう……」
刀魔が答える。
「おっ、トースズ夫妻もう帰るのかぁ?」
クラスメイトが2人を茶化す。
「やめろよその呼び方……」
刀魔は少し恥ずかしがっているが、鈴音はそんな様子もなく、2人は校舎を出て帰路に着いた。
帰り道、2人が話している。
「なぁ、もう2人で帰るの、いいんじゃないか……?」
「なんでー?」
「なんでって……恥ずかしくないの?」
「別にー? 何とも思ってないし!!」
鈴音はなぜか力みながら答えた。
「刀魔は恥ずかしいんだぁ?」
少し茶化す様に鈴音が聞くと
「そりゃそうだろ。高校生の男女が一緒に帰るって、それもうどう考えてもさぁ……ねぇ?」
「まぁ確かに恋人ってわけではないけどね。でも刀魔方向音痴じゃん? 私が案内しないと家にも帰れないでしょ」
「そりゃあ、入学したばっかりはそうだったけど、もう2年だぞ俺ら。さすがに覚えたって」
「んー、でも心配だからまだついてってあげるね!」
鈴音は小馬鹿にした様な顔でそう言う。その反面
「勘弁してくれよ……」
刀魔は困った顔をしていた。
「それはそうと、刀魔どんどん成績良くなってるよね」
今日返却されたテストの話をする2人。
「おじさんが亡くなってからすごい頑張ってるよね? 刀魔」
「まぁ、ね。鈴音にはほんとに感謝してるよ」
「な、なんだよ。急に褒めるなよぉ」
鈴音は照れながらそう言う。
「俺もいい加減大人にならなきゃなって言うかさ、とりあえず勉強はしとかなきゃなって」
「いや大人って、高2の言葉とは思えないんだけど。誰に影響受けた? 俳優? お笑いの人?」
鈴音が聞くと
「茶化すなよ。つーかテレビそんなに見てないし」
2人が会話しながら歩いていると、1軒の花屋の前に来た。
「あ、俺ちょっと用事あるから」
刀魔が言うと
「お花屋さんに……? あぁそっか、今日か」
そう鈴音が言う。
「大丈夫? 私いないで迷わないで帰れる?」
「だからいいってそれは!」
「はーい、じゃねーまた明日ー!」
そう言って、鈴音は刀魔に手を振り帰っていった。刀魔も手を振り返す。
「はぁー、ったく……さて」
鈴音の姿を見届けて、刀魔は花屋へと入っていった。
* * * * *
「なァーちょっと貸してくれよォ」
不良達が背の低い少年にたかっている。
「いや……でももうそんなに……昨日もだいぶ……」
少年は怯えている。しかし
「もうそんなにーじゃねぇよ。借りるだけだっつってんの。出せよホラ」
少年は震えながらカバンに手を伸ばした。その時
「よォ、何してんだ?」
別の少年が不良達の後ろから声を掛ける。
「あ゙? なんだお前」
不良が振り向くと少年はいきなり右拳で不良の顎先を掠めた。目眩がしてふらつく不良。少年は間髪入れずに首横を蹴り飛ばした。不良は痛みにのたうち回る。
「なんだおめェ!? やんのかよ!!」
驚くもなんとか威勢を保とうとする不良達。
「おう、やろうや」
少年は不良達を挑発する。だが不良の1人が少年の顔を見て驚きの声をあげた。
「あっ!? こいつ
「はァ!? 矢次って……あの、親殺しの……」
不良達は少年の顔を伺う。
「なんだよ」
「い、いやぁ……なんだよって言うか……あっ、やりません俺らは、うん、じゃあまた……お疲れっす……ハハハ……」
不良達は地面に倒れている仲間を担いで逃げるように去っていった。
「んだよ」
龍海と呼ばれた少年は舌打ちをしてその場を去ろうとした。
「あ、あの……ヤツギさん……? って言うんですか……?」
背の低い少年が、目の前の少年に問いかける。
「ア゙ァ!?」
龍海は少年を睨んだ。
「あっ、えっと、その……あ、ありがとうございます。その、助けてくれたので……」
龍海は怯えている少年を睨んだまましばらく固まった様子だった。しかし、また舌打ちをしてどこかへ去っていった。
* * * * *
「ただいまー」
刀魔は家に着き、リビングへ向かう。
リビングには1人の女性がいて、新聞を読んでいた。
「あれ?
結子おばさんと呼ばれた女性は、刀魔の方を向く。
「おかえり刀魔。今日は遅かったね」
彼女はそう言うと台所から夕食を持って来た。
「ご飯できてるから、さっさと着替えて手も洗ってきて」
「はーい」
刀魔は言われた通り制服からジャージに着替え、手を洗ってからリビングにある椅子へ座る。
テーブルの上にはたくさんの皿、中央にはハンバーグがある。刀魔の幼い頃からの大好物だった。
「今日は刀魔が家へ来て丁度17年。よくここまで無事に育ってくれました」
結子がそう言うと
「ありがとうございます。全てはここまで育ててくれたおばさんとおじさんのおかげです」
刀魔が答える。
「いただきます」
2人は手を合わせ夕食を食べ始めた。
夕食後、刀魔は片付けを終えた結子に、帰り道で受け取った花束を渡した。
「えっ……これは?」
少し戸惑う結子に刀魔は
「感謝だよ。いつもありがとうって、あとこれからもよろしくって」
そう言われ、結子は涙を流し答える。
「ありがとうね、ほんといい子に育ってくれちゃって……」
涙を拭いて話を続ける。
「今でも鮮明に思い出せるんだよ。朝、玄関の前に赤ん坊がいて、その横には刀魔って書かれた名札があって、役所に行ってあんたの親を探したけど見つからなくてね」
結子は大小2つの花瓶を持ってきた。
「可哀想で見捨てるわけにもいかなくて、あたしら夫婦であんたを育てることにしたんだよね。元々、子宝にも恵まれないような家だったしね」
2つの花瓶に花を生ける。大きい花瓶はテーブルの上に置き
「ほら、刀魔が買ってきてくれましたよ。本当、誰に似たのか、とっても素敵に育ってくれて」
小さい花瓶は仏壇に供えた。2人は仏壇の前で手を合わせる。
「おじさん、俺たちは元気だから心配しないで」
刀魔が呟いた。
辺り一面に咲く蓮の花。
「おーい! 刀魔ー!」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「あれ、おじさん? なんで?」
刀魔は不思議そうに男を見つめている。すると
「刀魔くーん」
また別の声が聞こえた。見ると先程の男の他に2人の男女がいた。
「あれって、鈴音の両親?」
刀魔は3人の元へ歩き出そうとする。しかし
「待て」
辺りに声が響く。
「己の往く可きは其方ではない」
声を聞き足を止める。刀魔は違和感に気がついた。
「なんで、みんながいるんだ? みんな亡くなってるはずじゃ……」
おじさんも鈴音の両親も既にこの世にはいない。刀魔がそのことに気がつくと辺りの景色が崩れ始めた。
薄桃色の蓮は次々散っていき、かわりに辺りには真っ赤な彼岸花が埋め尽くされていく。
崩れた景色の中から白い髪の人物が現れ、刀魔の目の前まで迫ってきた。
「己の魂は未だ、現世に在る肉体に宿って居る」
それは刀魔にそう言う。
「然し、己が死んだとして其の魂の逝く先は彼処ではない。己は地獄へ逝く事が定められた」
「地獄……? 何の話だよ?!」
刀魔が問うと、それは刀魔の頭に手をかざす。瞬間、強い光に包まれ、刀魔の意識はそこで途切れた。
刀魔が目を覚ますとそこは自分の部屋だった。
「なんだ……? 今の夢……」
翌日、早朝
「行ってきます」
身支度を済ませた刀魔が家を出た。しばらく歩き1軒の家の前に来た。表札には浅羽と書かれている。玄関先にはスーツを着た青年がいた。
「おー刀魔、今日は随分早いな」
「
樹と呼ばれたスーツの男は刀魔と話し始める。
「今日ってなんかあるの? 学校行事とか。鈴音まだ起きたばっかだけど」
「いや、今日はちょっと早く目が覚めちゃって。樹さんはもう仕事に?」
「まぁね、これでも今日は遅い方なんだぞ」
樹は車に乗り込み
「じゃあな。妹をよろしく頼んだぞ、少年」
そう言い車を走らせる。
刀魔は浅羽家の玄関を通り、リビングまで進んだ。
「おーい鈴音ー、迎えに来てやりましたよー」
「えっ刀魔!? 早くない? まだこんな時間……」
「電車のやつらはもっと早く起きてるんだよ」
「いや、それ刀魔が早く起きた理由になってないけど……」
「とにかく待ってるからさ。なるべく急いでくれよー」
「勝手に早起きして勝手に入ってきて急げって、えぇー……」
刀魔は昨晩の夢のことを考えていた。普通の夢ではない、何か不吉なことの前触れだと、直感的にそう思っていた。夢には死んだはずの鈴音の両親もいた。鈴音の身に何かが起こるのでは、そんな風に恐れていた。
「ん? 何?」
鈴音は自分への視線に気が付いた。
「いや……なんでもない」
自分の恐れは杞憂だったのか? そう思う刀魔。
考え込んでる様子の刀魔に鈴音は問いかける。
「どうしたの? 元気ないじゃん」
「んー、いやぁ……」
夢のことは言えない。余計な心配をかけるかもしれないし、鈴音の死んだ両親が出てきたと言えば意味もなく落ち込ませるかもしれない。
「昨日のテストさ、お前は90点代で学年1位で、でも俺は80点代だったから、お前と俺で何がそんなに違うんだろうなって」
ごまかすために適当な返答をする刀魔。
「うーん、頑張ってきた時間かな? 私はだって、お父さんもお母さんも死んじゃって、それ以来お兄ちゃんが大学も辞めて1人でこの家支えてくれて、私もそれ見てもっと頑張ってお兄ちゃんを楽させてあげなきゃなって思って。刀魔だってこんな頑張るようになったの春におじさんが亡くなって、おばさんが1人になったから楽させてあげようってことでしょ?」
鈴音は朝食中にも関わらず随分と語る。まだパンは食べかけだ。
「まぁ、うん、そんな感じかなぁ……」
恥ずかしい想いを見抜かれていた照れ、ごまかそうとした罪悪感、結局両親のことを言わせた後悔のような無気力感、刀魔は鈴音から顔を逸らしてそう答えた。
「刀魔も私と同じだよ。だから頑張ってればなれるんじゃない? 学年2位に! 1位は私だからね」
「なんだよ、その自信」
そんな風に話していたが
「あぁっ!? もうこんな時間!」
ゆっくりしすぎたと焦る鈴音。パンを食べ、急いで身支度を終わらせる。
「行ってきます!」
2人は家を出た。
授業中も刀魔は落ち着かない様子だった。真面目に授業を受けると心に誓ったはずなのに、昨夜の夢が気になって仕方がない。
刀魔がふと顔を上げると黒板の前に、見覚えのある白い髪の人物がいた。間違いない、夢に出てきたあいつだ。刀魔は驚きのあまり固まってしまった。
「どうしたの?」
隣に座る鈴音が問いかける。
「えっどうしたって……」
刀魔は考えた。教室内に明らかな不審者がいる、なのに誰も何も言わない。もしかすると自分にしか見えていないのか。
「えーっと……せ、先生ー!」
刀魔は席を立ち上がり
「と、トイレ行ってきます!」
教室を出てトイレへと向かった。
トイレに入り誰もいないことを確認する刀魔。
「なぁ、アンタ何なんだ……?」
刀魔が話しかけると、それは目の前に現れた。
「霧沢刀魔、
「だから何の話だよ。お前は誰なんだよ!」
訳のわからないことを言われ困惑する刀魔にそれは答えた。
「……我は地獄の世界を治める者。己等、人の言葉で云えば、神と呼ばれる存在」
「……神?」
目の前の不審者に質問に答えてもらえたというのに尚更訳がわからなくなった刀魔。
「己の魂は死後、地獄へ逝く」
「はぁ……? なんでだよ……?」
「己の祖父、志崎壕介の罪は余りにも極大。故に奴の子孫も其の罪を償う為、地獄へ逝く事が定められた」
「祖父……? それって俺と本当に血の繋がった……?」
刀魔は神と名乗る者に聞く。
「奴は輪廻の輪を外れ、地獄の底で現世を支配せんと企んで居る」
神は続ける。
「企むだけならば問題は無い。計画を立てど其れを実行するのは本来不可。だが奴は力を得ていた。其の力で奴は現世へ侵攻を始めた」
「な、はぁ……? ……どういうこと?」
刀魔は改めて考えてみるがやはり意味がわからない。そもそもこの不審人物を信用していいのかもわからない。
「アンタ……神様か何か知らないけど、俺は授業に戻るからな! 邪魔すんなよ! 変なことしたら通報するからな!!」
刀魔は急ぎ足で教室へ戻った。
教室へ戻ると教師から声を掛けられる。
「大丈夫か? 随分と長いトイレだったけども」
「えーいや、大丈夫です」
刀魔が席に着き授業が再開される。
「大丈夫?」
鈴音が心配している。
「うん、だいじょー……」
刀魔が鈴音に返答しようとしたその時
ドオオォォォォォォォン……………
どこからか太鼓のような音が響く。なぜだか不安な気分にさせる音。刀魔は少し身震いしていた。
「……刀魔?」
何かに怯える表情の刀魔を鈴音は心配そうに見つめていた。
刀魔は音のする方向を見た。
窓の外には見慣れるはずもないものがあった。ひび割れた空、そこから漏れ出す瘴気。
刀魔は思わず立ち上がってしまう。
「霧沢? どうした?」
教師がたずねる。
「先生、腹痛が収まらないので保健室に行ってきます」
「おい大丈夫か? 誰かちょっと一緒に行って……」
「いえ、大丈夫です!」
そう言うと刀魔は教室を飛び出した。
刀魔は保健室ではなく屋上へ続く階段へ向かっていた。
屋上へ出る扉の前、そこにはさっきの神がいた。
「あれ、なんだ!?」
刀魔は空のひびを指さし聞く。
「志崎の作り出した空間の裂け目だ。奴はあれを使い霊魔を此方の世界へ送り込む」
「霊魔……?」
刀魔が神に問おうとすると
ドオオオオォォォォォォォォン……!
また太鼓の音が聞こえた。今度はもっと大きな音だ。空のひびも更に大きくなっている。
「あれどうすんだよ……」
刀魔は神にたずねる。
「何度も言うて居るが、己の魂は死後、地獄へ逝く事が決まって居る」
「いや、だから何の話なんだよそれ」
刀魔が聞き返すと
「だが己に罪が在る訳では無い。罪は志崎壕介に在る」
神は続ける。
「我の言う通りにすれば、己に課せられた罰は消え、地獄ではなく浄土へと逝ける」
「言う通りって……何するんだよ?」
「志崎を討て」
「討てって……え……?」
困惑する刀魔をよそに神は屋上へ出る扉を開けた。だがそこには屋上ではなく見慣れない部屋があった。
「来い」
神はそう言うと部屋の奥へと消えた。刀魔も恐る恐る扉をくぐった。
「待っていたよ。君が霧沢刀魔君だね」
扉の向こうには痩せこけた男がいた。
「私は
「さ、サポート?」
「あぁ、君が不自由なく戦えるようにね」
「戦う……?」
何が何だかという顔の刀魔。
「……もしかして、神様から何も聞いてない?」
「何もって言うか、俺が地獄行きだから志崎? を討てって……」
「そんな説明しか受けてないか……戦うっていうのはね」
宮村が話をしようとすると
「何をして居る」
2人の前に神が現れた。
「事は一刻を争う。早う乗れ」
「乗る……? 何に?」
刀魔が聞くと宮村が答えた。
「……とりあえず着いてきてくれ」
そう言われ、刀魔達は部屋の隅にあったエレベーターを使い、地下へ降りていった。地下へ降りた先には鉄製の自動ドアが置いてある。自動ドアが開くとそこには巨大な空間があり、その中央には巨大な鉄の塊が立っていた。
「な……ロボット……!?」
頭には角を生やし、黒光りする体、巨大な手脚、その姿は巨軀の鬼と思えた。
「これはデモンカイザー。地獄の霊魔に対抗できる唯一の手段、君が乗ることになるスーパーマシンだよ」
宮村はそう説明する。
刀魔は言われた言葉の理解をするのに少し時間を要した。そして
「えっ……俺が乗るって……これに?!」
「そうだ。これに乗って霊魔と戦い、世界を志崎の魔の手から救うんだ」
宮村は答える。
「いや、待ってよ! 全然わかんないんだけど……いや、これ夢……?」
理解が追いつかない刀魔。
「ていうか戦うって、何と!? さっきから言ってる霊魔って、結局何なの?!」
刀魔がそう言うと宮村は手元にある端末を操作し、目の前のモニターに映像を映した。そこにはかろうじて人の形をしているが全身が溶けたような、見るもおぞましい怪物の姿があった。
「これが霊魔だ。地獄に堕ちた悪霊の中でも、とりわけ悪意の強い者が変質するバケモノだよ」
宮村はそう説明する。
「これ……俺がこのロボットに乗って、このバケモノと戦えってこと……? 無理だよこんなの……負けたら死ぬんじゃないの!?」
刀魔はパニックになりながら聞く。
「死ぬだろうね。だから無理強いはしない。君が断ると言うならそれでいいんだ」
宮村はそう答えた。意外な回答が帰ってきて少し拍子抜けした刀魔。しかし
ドオオオオオォォォォン!!
また太鼓の音だ。しかもかなりの大きさで響いている。
「まずいな……この場所まで聞こえるか……神様これって」
宮村が神に問いかける。
「もう時間が無い。早う乗れ」
神は刀魔を焦らせる。
刀魔は聞き返す。
「……もし、俺が断ったらどうなるんですか?」
「その時はまた別のパイロット候補を決めるさ。一応、目星はついてはいるけど……」
宮村は歯切れ悪く答える。
「けど?」
刀魔が聞くと神が
「今より現る霊魔の対応は不可となる。然すれば多くの命が喪われる」
神はそう言い近くに置いてあった地図を指さした。
「霊魔の習性を考えるに、先ず狙われるは此処か」
神の指先には刀魔が通う高校があった。
「学校かぁ……確かに若い命がたくさんある場所ですからね。ひび割れの位置も考えるとここが一番有り得る場所かなぁ」
宮村がそう分析する横で刀魔は震えていた。
「刀魔君、どうしたんだい? ……ひょっとしてこの学校って」
宮村は刀魔の震えの理由を察した。
「……みんな死ぬんですか?」
刀魔が問う。
「うーん、何もしなければそうなるけど……もちろん私達も被害を出さないようにできる限りのことを……」
「どうすればいいんですか?! 乗って戦うって、俺はどうすれば」
刀魔は焦りながら2人に問う。
「……危険なんだよ? 命を落とすかもしれない。軽々しく引き受けるべきでは……」
「やります……!!」
刀魔は少し涙目になりながら、しかしその目には何か強い意志を宿してそう答えた。
「漸く決断したか」
神はそう言うと
「乗れ。難しく考える事は無い」
格子を開き、刀魔をそこへ誘った。
「神様の言う通りだ。難しく考える必要はない。こいつは乗り手の思考を読み取って思うままに動かせる」
宮村はそう言い、巨大なロボットの背中にあるスイッチを押した。すると、背中が開き、中には人が1人座れる座席のようなものがあった。刀魔はそこへ座った。
「まずベルトを着けて、姿勢を固定して」
宮村は刀魔に安全ベルトを着けさせる。
「この足元のレバーを引いて、そうするとコクピットハッチが閉じるから、あとは手元のグリップを握って意識を集中させるんだ。デモンカイザーを自分の体として動かす様にイメージして、そうしたら勝手に動くから」
宮村が説明をしている。刀魔はわかっているのかいないのか、足元のレバーを引き、コクピットハッチを閉めた。
「無事を祈るよ」
宮村はデモンカイザーから離れる。
「……待ってくれよ、なんでこんなことに……?」
今更になってまた困惑する刀魔。
しかし、もう後悔している暇はない。
「誰かがやらなきゃなのか……」
刀魔は目の前にある2本のグリップを両手で強く握る。
「やってやる……守るんだ……」
刀魔の頭には少女の姿が浮かんでいた。
デモンカイザーの目が光る。腕を曲げ、力を溜めているような姿勢をとる。機体に繋がれていた大量のパイプとコードが次々外れていく。
デモンカイザーの起動を確認した神は、両の手を顔の前に持ってきて手のひらを前方にかざし、強く念じた。すると、デモンカイザーの目の前に巨大な空間の裂け目が生まれた。
裂け目の中では、さっきまで映像で見ていた怪物が咆哮をあげている。
「やるぞ……デモンカイザー!!」
少年を乗せた鉄の鬼は、裂け目に飛び込んだ。
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