◇閑話◇ 「クロテッドクリーム」の色々な話

「スコーン」の語源について調べた際、それに添える「クロテッドクリーム」の話にもよく出合いました。

 折角ですので、そのとき見つけた「クロテッドクリーム」にまつわる、面白いお話をしようと思います。


     ☆


〈クロテッドクリームとは?〉

「クロテッドクリーム」とは、スコーンなどに添えて食べる、乳脂肪分が60~70%の固形状のクリームのことです。



〈英語での表記と意味〉

 英語で書くと「clotted cream」と書きます。一応文法的なことを説明しますと、「clotted」は「clot」という「凝固したもの」という意味の動詞で、その過去分詞形が形容詞的に使われています。

「クロテッドクリーム」は、牛乳や生クリームを煮込んでできる、上澄みの部分をすくい取ってできますから、そういう意味で名前の中に「凝固したもの」という意味があるのは、なるほど、と思えるのではないでしょうか。



〈発祥の地〉

「クロテッドクリーム」の発祥の地は、酪農が盛んなイングランドの南西部、コーンウォール州およびデボン州が起源とされています。


 デボン州のクロテッドクリームについては、14世紀ごろからあるみたいです。どうやら修道院で製造されていたみたいなんですね。これは文献が残っているようで、その記載があるとされています。


 資料によっては「クロテッドクリームは2000年前からある」と示しているものもあるようなのですが、この件は古代ローマ時代などの乳製品の保存方法の推測などから、そのようなことが言われたりしているようです。ただ、こちらの説はちょっと裏付けが弱く信憑性も低いので、「そんこともいわれているだなぁ」くらいに思っていただけるといいのかなと思います。



〈クロテッドクリームの呼ばれ方〉

 デボン州ではクロテッドクリームを「デボンシャークリーム(Devonshire cream)」と呼び、コーンウォール州で作られるものは、「コーニッシュ・クロテッドクリーム(Cornish clotted cream)」と呼ばれているそうです。

「コーニッシュ・クロテッドクリーム」に関しては、1998年にEUの「原産地名称保護」に登録されていて、この名称がつけられるのはコーンウォール州で作られたものだけとされています。

 イギリスはEUから離脱(ブレグジット)しているので、上記の件は該当しなくなったのではと思ったのですが、離脱後イギリスの法律にも登録されたようで、国内と一部の国で「コーニッシュ・クロテッドクリーム」のことが認められ、保護されているそうです。



〈「クリームが先か」「ジャムが先か」は地域によって違う〉

 地域によって、クロテッドクリームを付ける順番が違うようで、デヴォン州ではクリームを塗ってからジャムをのせ、コーンウォール州では逆でジャムを塗ってからクロテッドクリームをのせるそうです。


 この違いについて、現地の人たちは面白がって「クリームティー戦争」と言っています。英語では「Cream Tea War」と言います。


「戦争」なんて言っているので、日本でアフタヌーンティーやスコーンの食べ方に詳しくなった方の間では、「『クロテッドクリームが先か』、『ジャムが先か』という論争があって喧嘩している」などと言われているみたいなのですが、調べたところ現地の人はこれを文化的な遊びと誇りとして楽しんでいるそうです。「戦争」どころか「論争」ですらないらしいんですね。


 文化の違いを、こういうふうにしてジョークといいますか、冗談にして楽しんでいるんです。そしてこれは地元の人たちだけではなくて、観光客の方にも楽しんでもらおうともしているらしく、アフタヌーンティーを提供しているお店の中には「デボン式です」とか「コーンウォール式です」とか言って出すところもあるそうですよ。面白いですね。


 文化の違いとか、言葉の捉え方の違いってありますからね。この点は現地の方々の反応の仕方と、こちら側の解釈のずれによって、大ごとのように思われたのかもしれません。


 まあ、本当のところは私にも分からないのですが(そもそもそんな論争があったんだ……というくらいで知らなかったので)、そういった話もあるようですよ。


 ついでに、何故「クリームが先か、ジャムが先か」という話なのに、「ジャム」のことが入らず「クリームティー戦争」というのかというと、「『ジャム』を入れてしまうと、『ティー』に『ジャム』を入れると誤解されるかもしれないから」だそうです。

 そもそも「クリームティー戦争」に「ティー」が入っているのは、クロテッドクリームがアフタヌーンティー文化との関りがあることを示しています。

 ここに「ジャム」をれてしまうと、まるで「ティーにジャムを入れる」みたいになるというんですね。

 ですが、イギリスではティーにジャムを入れる文化はありません。(あるのはロシアですね)

 ゆえに、「クリームティー戦争」と言っているのだそうです。


〈スコーンに添えるのは、「バター」も有り〉

「スコーンにはクロテッドクリーム」というイメージがある方もいるかもしれませんが、イギリスの方はバターを塗る方もいますし、バターとジャムの組み合わせ、もしくは何もつけないという方もいるようです。

 理由は色々あります。

 クロテッドクリームが常備されていないということもありますし、スコーンをトーストの代わりに食べる方もいるようでその場合はバターのほうがいいのだとか。

 また、クロテッドクリームは脂肪分が高いため、重いと感じる人もいるみたいなんですね。それだったらバターのほうが軽め、ということで、バターで食べる方もいるみたいです。

 もちろん、前述した通り、何も付けずに食べる方もいるようですよ。

 スコーンに、クロテッドクリームとジャムを付けて食べるのは正統派ですが、それ以外も自由。その時々、またはお好みで色んな食べ方ができるのがいいですね。


 ということで、クロテッドクリームのお話でした。

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