驚きの連続

「? どうしました?」

「それはこっちの台詞だよ! いつの間に着替えた⁉」

「ボタン一つでチェンジ出来ます」

「はあ?」

「さてと……」

 オクタが長いスカートの中からこれまた長い箒を取り出す。

「⁉ ど、どうやって隠していたんだ⁉」

「……よっと!」

「あっ!」

 オクタが長い箒を思い切り横に振り、道路に敷き詰められていたまきびしを一掃する。箒をスカートの中に収めたオクタが呟く。

「これで進めますね」

「あ、ああ……」

「それでは目的地ですが……このルートを進んでください」

 オクタが紙を見せる。それを確認したトレスが驚く。

「ええっ⁉ これって……」

「報酬は弾みます」

「……分かったよ!」

 トレスがトライストライカーをさらに加速させる。夜通し走り、明るくなってきたころ、トレスとオクタは密林地帯にさしかかる。トレスは確かなハンドルさばきで木々の間や、生い茂る草むらを抜けていく。

「ふむ、道なき道も難なく進めるとは、さすがトライストライカーですね……」

「腕前を褒めてくれよ! 追っ手連中もまた撒いたぜ!」

 オクタの呟きにトレスが反応する。

「……問題はあれですね」

「え? ああっ⁉」

 オクタの指差した先に、大きな花が口を開いて待ち構えている。戸惑うトレスにオクタが簡潔に説明する。

「食人花でございます」

「しょ、食人⁉ あ、あんなデカい口、かわせねえ!」

「仕方ない……」

「え? ……って、その恰好⁉」

 トレスが驚く。オクタの上半身が迷彩柄の服になっていたからである。

「さて……」

 オクタがスカートの中からバズーカ砲のようなものを取り出す。

「⁉ な、なんだよ、それは……バズーカ?」

「ファイヤー!」

「!」

 食人花に向けてバズーカのようなものを構えたオクタが火を放つ。あっという間に火に包まれた食人花はその大きなフォルムのほとんどを灰と化す。

「……バズーカではない、火炎放射器だ」

「ぶ、物騒なものを……」

「それだけではない……」

 オクタが火炎放射器をスカートの中に収めると、似たような形状のものを取り出す。

「こ、今度はなんだよ……」

「こういうものだ」

「‼」

 オクタが次に構えたものからは大量の水が出る。火はすべて消火される。

「密林をすべて燃やすのはさすがに忍びないからな……」

 オクタは水の噴射器をスカートの中に収める。

「は、はあ……」

 トレスは尚も戸惑いながら、密林を抜ける。しばらく走り、トレスたちは雪山に差しかかる。追っ手はスノーモービルで追いかけてきたが、トレスが見事なハンドルさばきでそれを振り切ってみせた。オクタが後ろを振り返りながら呟く。

「追っ手は諦めたようだな……」

「はっ、ざっとこんなもんだぜ……ん⁉」

 トレスが斜め上を見上げる。雪崩が発生したのだ。オクタが冷静に呟く。

「諦めたのではなく、こちらの進行方向を予測して、雪崩を発生させたのか……」

「あ、あの規模の雪崩はかわせねえ……!」

「仕方ありませんわね……」

「え? ……って、その恰好は⁉」

 トレスが驚く。オクタがお姫様のような恰好になっていたからである。

「さてと……」

 オクタがスカートの中から大きな扇を取り出す。

「⁉ お、扇……?」

「……ごめんあそばせ!」

「おおっ⁉」

 オクタが大きな扇を軽く仰ぐと、強烈な風が発生し、雪崩を吹き飛ばしたのだ。トレスは度肝を抜かれる。オクタが扇をスカートの中に収めてから、髪を優雅にかき上げつつ、トレスに告げる。

「さあ、次に参るとしましょう……」

「く、口調もそれっぽくなっているな……」

 トレスは思わず苦笑する。しばらく走り、トレスたちは砂漠地帯に差しかかる。追っ手は早々に撒いたが、巨大アリジゴクの穴に落ちてしまった。トレスはトライストライカーのバーニアを一気に吹かして、空中に飛び、穴から抜け出してみせた。トライストライカーが着地すると、オクタが胸をなで下ろしながら呟く。

「さすがにもうおしまいかと思いましたわ……」

「お姫様口調、まだ続いてんだな……あれくらい、なんともねえよ……んん⁉」

 トレスが目を疑う。大きな砂嵐が巻き起こっていたからである。

「砂嵐……これはイレギュラーな事態ですわね……」

「くっ……すげえ勢いでこっちに迫ってきやがる……あれはかわせねえ……!」

「仕方ないね~」

「え? ……って、その恰好は⁉」

 トレスが驚く。オクタがチャイナドレス姿になっていたからである。

「さ~てと……」

 オクタがスカートの中から大きな傘を取り出す。

「⁉ か、傘……?」

「……いつもより多く回っておりま~す!」

「おおうっ⁉」

 オクタが大きな傘を勢いよく回すと、砂嵐が霧散したのだ。トレスは度肝を抜かれる。オクタが傘をスカートの中に収めてからトレスに告げる。

「さあ、次に行こうか~」

「あ、ああ……」

 しばらく走り、トレスたちは沼地に差しかかる。追っ手はそのほとんどを早々に撒いたが、一組だけしつこかった。多少苛立ったトレスは沼を突っ切る判断を下す。オクタが首を捻る。

「……大丈夫?」

「トライストライカーは水中も行けるんだよ、問題ねえ!」

「いや……ここは底なし沼だよ?」

「えっ⁉ うおっ⁉」

 トライストライカーが沼に車体の自由を奪われる。前に進まず、沈んでいく。

「ほ~ら、言わんこっちゃない……」

 オクタが呆れ顔で呟く。

「そ、そういう大事なことは早く言えよ!」

「仕方ないね~」

「え? ……って、その恰好は⁉」

 トレスが驚く。オクタがシスター姿になっていたからである。

「さて……」

 オクタがスカートの中から大きな杖を取り出す。

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