第2話 沙耶

彼女にとって居場所ってなんだろう…。


愛犬と日課の散歩を楽しみながら、寒空の下、まだ薄暗い夜空を見上げる。

まだ、夜明け前の星が消えるのを拒んでいる頃、世間はもう動き出そうとしていた。

星の小さな瞬きにも気付かず、あちらこちらから無差別な物音が聞こえてくる。

私には、それが嬉しかった。静かで私達を狂気へ導こうとする夜に、彼女思い出すのが怖かったから。


「よく、本やテレビやネットでこの世には『強者』と『弱者』なんかいない。皆『平等』なんだって言うじゃない。でもね、いるんだよ、『強者』と『弱者』。それは本人が決めるんじゃない。周りの人間が決めることなんだ。そうやって、区別しないと人間は生きていけないのかもしれないね。」


彼女は笑っていた。無邪気に笑って言った。何故彼女がそんな事を言い出すのか私には分からなかったけれど。今になって彼女の言葉が心に突き刺さる。


帰路に向かいながら、ふっと空に目をむける。うっすらと明るくなり始めた空間の中に宵の明星が、どの星より輝いている。「きれい」今は素直にそう思える。


時間って不思議。それでいてすごく残酷。嫌な事、辛かった事、そして彼女のことを忘れる時間は与えてくれるのに消す事は許さない。嬉しい事はすぐ消し去るのに。


家に帰れば、母が笑ってた朝食を出してくれ、父は黙々と新聞に目を通している。

これが私の毎日。私は幸せ。彼女に比べたら私は幸せ。そう、私は彼女を踏み台にして生きている。でも怖い。恐い。いつか私にも彼女と同じ日がやって来たらどうしよう。

不安は常につきまとう。恐怖はいつも私の隣にいる。逃げることはできる?答えはまだ見付かっていない。誰か答えを教えて…。


「人は誰かに必要とされて初めて自分の居場所と存在価値を見出す。今の子供達もそれらを探しているのかもしれない。見付からない、キレるんだと思う。自分はここにいるんだと主張してるんだよ。だって、そんな方法しか知らないんだ。誰かが教えてくれる訳じゃないからね。もしかしたら、大人も同じかもね。皆知りたがっている」


最後まで『存在価値』を見出せなかった彼女。誰も彼女を救ってはくれなかった。誰一人彼女が『壊れて』いくのに気付かなかった。私でさえ彼女が『壊れる』のを止められなかった。一番近くにいたのに

…。

罪悪感が私を苦しめる。救ってあげられたのは私だけだったのかもしれないのに。でも、どうすることもできなかった。

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