第17話 双子姉妹喧嘩!

 こ、これがナンパ!? 

 ナンパなんて実際にあることなんだ……。

 モデルさんとか芸能人さんとかもっと綺麗な人がされるものだと思ってた。

 

「ねぇねぇ」


 えっ、シンプルにやだ! なんていうか生理的にやだ!

 この男の人、目つきが怖いよ。


「奢ってあげるから一緒に行こうよ」

「痛っ」


 ホタルの腕がその男の人に引っ張られた。

 その行為で私のどうでもいい嫌悪感は一気にどこかにいった。


 ホタルが怒った顔で、その男の人を睨みつけている。


 顔は怒っているけど私には分かるよ……。

 ホタルが怯えている。ホタルが怖がっている。

 言葉では絶対に言わないけど絶対にそうだ。


 ……だって、私、ずっとこいつのこと見ながら過ごしてきたんだもん! そんなのすぐ分かるよ!


「別にそんな顔しなくてもいいじゃん。楽しくやろうよ」


 私だって知らない男の人に声をかけられて怖い。

 私だって足がすくんでどうしようもないよ。


 でも……。


 でも……!


 ここで私が妹のことを守らないでどうするのよ!


「ちょっと! うちの妹に触らないでよ!」


 自分で思っていたよりも大きな声がでた。自分でもこんなに怒れたんだってくらい、頭には血が昇ってしまっている。感情が昂りすぎて涙がでてきちゃいそうだ。


「おっ、急にどうしたの?」

「今日は二人で花火を見にきたの! 邪魔しないで!」

「へぇ~、可愛いじゃん」


 むっかー! ホタルに馬鹿にされるよりも遥かにムカつく! なんなのこの人たち!


 こういうとき口の悪いホタルならどう言ってたっけ……。

 ホタル……ホタルなら……!


「あなたたち口臭いから話さないで!」

「はぁ?」

「あ、あとキモいから! キモ虫がうつっちゃうから!」


 声が震えている。足も震えている。

 でもここで私が頑張らないでどうするのよ!


「ホタル、もう行こ!」

「ちょっと待てよ」


 この場から立ち去ろうとしたら、今度は私の腕が掴まれた。


「今度はなに!?」

「怖いの?」

「こ、怖くなんかないもん!」

「あははは、二人とも可愛いね」

「もういいから離してよ!」


 無理矢理手を振りほどこうしても、全然振り切れない。

 痛い、男の人ってこんなに力が強いんだ。


「ふっざけんな! 汚い手で私のお姉ちゃんに触るな!」


 ここでホタルがキレてしまった。

 ホタルが男の人の手を勢いよく叩く。さすが本場の破壊力は全然違う!


「痛ってぇな、おい」

「どこ触ったか分からない手で私の姉に触らないで!」

「はぁ?」


 ……でも、今日はその破壊力がダメだった。

 ホタルの言葉がよほど気にくわなかったのか、その男の人の顔がみるみる鬼の形相に変わっていく。


「こいつ」


 瞬間、男の人が手を振り上げた。


 ――あっ、ホタルが殴られる。


 そう思ったら私の体は勝手に動いていた。


(あれ……?)


 いつの間にか私の目の前には綺麗な夜空でいっぱい。頭にどかんとなにが当たった気がするけどよく分かんないや。遠くからは誰かと誰かの怒鳴り声が聞こえている気がする。


 あれ、なんか起きてるのがつらくなってきちゃった……。


「マユ! マユお姉ちゃん!」


 目を閉じてもホタルの泣いている声だけははっきりと聞こえた。







 次の日の朝。

 私の右頬には湿布みたいな包帯がぺたりと貼られている。


「あっはは~。ご心配おかけしました」


 あの後、誰かが通報してくれて私は病院に直行したらしい。

 どうやら私はあの男の人に殴られみたい。殴られるのなんて初めてだからびっくりして気を失ってしまったようだ。


 その間には本当に色々あったらしく、お父さんと警察でなんやかんやあったり、お母さんが怒ってその男の人を殴ったりで大変だったらしい。


 結局、家に戻ってこれたのは次の日の朝方になってしまった。お父さんとお母さんは警察と病院でまだなんやかんややっているらしい。


 ホタルは浴衣も脱がずに、リビングのソファーにうつむいて座っていた。


「……なに笑ってんのよ馬鹿」

「いや~、まさかこんなことになるとは思わなくて。ごめんね、かき氷食べられなくて」

「そんなこと言ってるんじゃないでしょう!」


 ホタルの怒鳴り声が家中に響き渡った。


「えっえっ? なんで怒ってるの?」

「なんで勝手に私の前に出たの! 私が殴られればこんなことにならなかったのに!」

「私、ホタルのお姉ちゃんだしね。妹のことはお姉ちゃんが守らないと!」

「そのお姉ちゃんっていうのもうやめてよッ!」


 ホタルが鬼気迫る表情で私のことを見ている。目からは涙がポロポロとこぼれ落ちてしまっていた。


「ま、待ってよ! なんでそんなに怒ってるの? 私、ホタルのお姉ちゃんじゃん!」

「年齢違わないじゃん! いちいちお姉ちゃんぶらないでよ!」

「で、でも!」

「私、あんたに守られる対象じゃない! だからそんなに危ないことしないでよ!」 


 ホタルの頬にとめどなく涙が伝っていく。

 わけが分からない。怒られている理由も泣かせてしまっている理由もよく分からない。


「ああいうことするなら私! あんたの妹やめるから!」


 ホタルの涙が伝染してしまったのか、それとも今の言葉がショックだったのか――。


 いつの間にか私の目からも涙が出てしまっていた。

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