第10話 マユとホタル シスコン疑惑編

「なんで泣いてるの!? 私、変なこと言った!?」

「あんたが変なのは元からでしょう」

「あははは~、そうかも……じゃない!」


 ホタルが目をこすりながら、私をからかってきた。

 憎まれ口を叩いてはいるが声に覇気がなくなってしまっているような気がする。


「ったくあんたのこと好きになるってどんな変人よ」

「だからそれは言い過ぎだってば!」

「どんなやつが来たか、ちゃんと教えなさいよね」


 そう言い残してホタルは先に教室に行ってしまった。


「うわっちゃー」


 取り残された私。

 その様子を美也子みやこが気まずそうに見ている。


「……私、おかしなこと言った?」

「言ってないよ」

「じゃあなんで……」

「ほたちん、シスコンだからね。仕方ないね」

「シスコン!?」


 目ん玉が飛び出そうになった。

 あのホタルが!? あのいつも私のことをボロカスに言ってくるホタルが!? あいつがシスコンなんて絶対にあり得ない!


「どこぞの馬の骨に、大好きなお姉ちゃんが取られると思って悲しくなっちゃったのかも」

「馬の骨って……」

「あんた、自分で思っているよりもずっとみんなに人気あるよ。可愛いし、性格も明るいから。それを一番知ってるのはほたちんなんじゃない?」

「……」


 そんなことを言われても……。

 私、今まで自分のことをそんな風に考えたことなかったもん。


「マユもまだまだねぇ~。ほたちんなんて分かりやすいほうだと思うけど」

「どこが!? 全ッ然、分からないんだけど!」

「ほたちんって、あんたと話しているときは表情が優しくなるよ。知らなかった?」


 知らん、全く知らん。どこのどいつだそれは。

 私の知っているホタルは般若みたいな形相で私のことを罵ってくるんだけど。


「で、で! どうするの!? そのラブレター!?」

「どうするって言われても分からないよ……。誰がくれたかも分からないのに」


 うぅ、頭が混乱している。

 ラブレターをくれた人もよく分かんないし、ホタルが涙目になった真相も分からないよ。


「ま、本気ならそのうち向こうからなにかあるかもね」

「えぇえ!?」


 恋愛強者みたいな態度をとる美也子みやこ氏。

 彼氏ができたのなんてつい最近のくせに妙に余裕がある。



(……私のこと好きになってくれる人いたんだ)



 その事実だけでもびっくりなんだけどな。

 私、どうしたらいいんだろう。







「ホタル」

「なによ」

「一緒にお弁当食べよ」


 お昼休み、私はホタルと一緒にお弁当を食べることにした。

 お昼をこんな風に一緒にいることはないので、ホタルが私の様子をかなり訝しがっている。


「急になによ」

「おかずの交換会をしたいなって」

「中身一緒でしょうが」


 うーん、分からん。どうみてもいつもの塩辛ホタルだ。

 美也子みやこは、私と話しているとホタルの表情が優しくなるとか言っていたけど全然そんな風には思えないんだけど。


 私は前の席の椅子をひっくり返して、ホタルと向かい合う形にした。


「あんたさぁ……」

「なーに?」

「最近、なんか妙なことしてるなぁと思ったらやっぱりそういうことだったんじゃん……」

「そういうことってなーに?」

「男できてるじゃん……」

「ぶーーーっ!」


 ホタルがおずおずとそんなことを聞いてきたので、私は思わず吹き出してしまった。


「汚っ」

「なわけあるか! この前も同じこと聞いてきたよね!?」

「だって今までそんなことなかったじゃん……」

「え?」

「今までそんなことしてなかったじゃん……」


 ホタルが私から目をそらしながらそんな言葉を呟いた。目元にはまたしてもじわっと涙が溜まってしまっている。


「ホタルってさぁ……」

「なによ……」

「もしかしてシスコン?」

「はぁあああああああ!?」


 ホタルが勢いよく席から立ち上がった!


「馬ッ鹿じゃないの!? 調子乗んな!」

「調子にはのってないけど……」

「だ、誰があんたのことなんか! 私はあんたのこと心配してるだけだから!」

「心配してくれてるんだ」

「これは違っ! そういうことじゃなくて!」

「ホタル、心配してくれてありがとね」

「……」


 私はホタルの目を真っ直ぐ見てそう答えた。

 

「私、ホタルに心配してもらえてとても嬉しいよ」

「……」


 ホタルがなにを心配しているかはちんぷんかんぷんだが、私は自分の気持ちは素直に言っておかないといけない気がした。まわりくどいやり方をして、私にはそういうところが足りなかった気がする。


「うっ……」


 ホタルの目から涙がポロポロとこぼれ落ちる。


「な、泣くほど!?」

「うるさい! 黙れ!」


 双子なのにホタルの気持ちがちっとも分からない。でも、ホタルから心配って言葉がでたのがとても嬉しい。


「マユー! サッカー部の人呼んでるよ~」


 ホタルの様子を優しい気持ちで見守っていたら、ふいにクラスメイトから呼ばれてしまった。


「サッカー部? 誰だろ?」

「なんか体育館裏で待ってるって言って行っちゃったよ」


 体育館裏? ま、まさか……。


「お、お姉ちゃんの馬鹿ぁあああああ!」


 ホタルに思いっきり怒鳴られてしまった!







 放課後になるとすぐに美也子みやこが私のところにやってきた。後ろにはホタルもちゃっかりいる。


「まゆゆん! どうだったの?」

「うーん……」


 お昼休みにあった出来事を思い出す――。







雛咲ひなさきさん、俺と付き合ってください!」


「い、いきなりなんで!? 君と私って接点ないよね……?」


「実はずっと可愛いと思ってて……」


「えぇええ」


「目は大きいし、体格はすらっとしているし、色白だし、髪は色素? が薄くてとても綺麗だと思う!」


「全部見た目じゃん……」







「……知らない人と付き合うってはならないよね」

「でも付き合ってみたら好きになるってあるよね!」 

「そうかもだけど……」


 可愛いって言われても全然嬉しくなかったんだよなぁ……。だって、すぐ近くには同じ見た目のホタルがいるわけだし。じゃあ同じ見た目のホタルのことも好きになってるでしょう? って感じがしちゃってさ。


「私、まだそういうのはいいかな」

「ちぇ、つまんない」


 美也子みやこが言葉通りとてもつまんなそう顔をしている。まぁ、そう思われても仕方ないとは思うけど……。


「それに妹が心配するしね」

「だ、誰が心配なんて!」

「ありがとね、ホタル」

「うぅ……」

「そういうときはどういたしましてだよ」

「どぅぃたしまして……」


 珍しくホタルが素直に私の言うことを聞いた!

 声はとてもちっちゃかったけど、お姉ちゃんにはちゃんと聞こえたよ。

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