第7話 仲悪妹の寝言! 素直になれないで

 六月の下旬。

 じめじめした季節が到来した。


 雛咲ひなさき家のリビングは除湿でエアコンフル回転中!

 

 快適~。


 今日はお休みなのでまったり中。

 私は膝にブランケットをかけて、お母さんと一緒にテレビドラマを見ていた。


「ぐすっ……えぐっ……」


 ドラマ“忠臣蔵”

 主君のために仇討ちをする物語。

 人を想う生き様の物語……! 熱い、熱いよ……!

 私の涙腺は季節の雨のごとく決壊していた。


「またドラマ見て号泣してる」

「だってぇ……」


 感動の涙を流していたらホタルがリビングにやってきた。どうやら飲み物を探しにやってきたらしい。


「今年は歴史ものにハマりすぎじゃない」

「次は新選組見てみよっと……」

「オタクじゃん」


 妹の冷たい視線が私にふりそそいだ。


「去年はアニメにハマってたよね。なんだっけ? 機動戦士カンガルーだっけ?」

「なにそれ可愛い」

「オタク趣味、気持ち悪いよ」


 いつも通り私のことを罵ってくるホタル。


 なによ、なによ、お高くとまっちゃってさ。

 

 お母さんはドラマとかアイドルが好きだし、お父さんはアニメとか漫画が大好き。その人たちの娘なんだから、私もサブカル文化大好きになるに決まってるじゃん。


「ホタルも一緒に見てみたら良さが分かるよ」

「やだよ、私オタクになりたくないもん」

「そんな風に人の好きなものを否定するのは良くないよ」


 本当に不思議。同じ産地で生まれて、同じ生簀いけすで、同じ餌を食べて育ってきたくせになんでこうも趣味嗜好が変わっちゃうのだろう。


「ぐっ、いきなり正論を言ってきて……!」

「いいから、一緒に見てみようよ。ホタルも楽しめるかもしれないよ」

「……」


 ホタルが不服そうな顔をしながらも私の隣に座ってきた。

 おっ、たまには言うことを聞くじゃん。


「じゃ、新選組みよっと」

「はぁ……」


 隣のホタルのため息を聞きながら、私はDVDのボタンをオンにするのであった。







「えぐっ……うぐっ……」


 時間は夜の七時前。

 今日はどっぷりドラマ漬けの一日になってしまった。でも後悔はない。


 新選組……! 結成と崩壊、そして絆の物語!


 うぅ、胸が色んな感情でぐちゃぐちゃになってるよ。

 朝から涙が全然止まらないよ。


「ねっ! ホタル、面白かったでしょう!」

「ぐすっ……」


 隣にいるホタルの顔を見ると、目を真っ赤に腫らしている。

 ほら見ろ、だから面白いって言ったんだ。


「ホタルだって泣いてるじゃん」

「うるさい! これは花粉症なだけだから!」

「花粉症って三月頃のイメージがあったんだけど……」


 素直じゃないやつ。

 面白かったなら面白かったって言えばいいのに。


「新選組の羽織、絶対通販で買お。私も新選組隊士になるんだ」

「わ、私も――」


 ホタルの目が輝いている。

 こいつのこんな生き生きとした目を久しぶりに見た。

 いつもは死んだ魚の目……もしくは……。


 もしくは――。


 いや、なんて言うんだっけ? 目にハイライトのない目をしているこというの。なんとか目って言ったような気がしたんだけど。


「や、やっぱりなんでもない!」


 妹があからさまにしまったという顔をしている。

 これはもしや!


「もしかしてホタルも欲しいの?」

「~~~っ!」

「なーんだ! 欲しいなら欲しいって言えばいいのに! ホタルの分も一緒に頼んでおくよ! 久しぶりにお揃い――」

「そんなこと言ってないでしょう! オタクグッズ別に欲しくないもん!」


 ホタルがムキになって否定してくる。


「べ、別にそんな言い方しなくてもいいじゃん!」

「ふんっだ! もう寝る!」

「ご、ご飯がまだだよ!」

「今日はいらない!」


 ホタルが目を血走せながら自分の部屋に戻ってしまった。

 な、なによ! 別にそこまで言わなくても良くない!?


「あんたらまた喧嘩したの?」


 ホタルの大きな声を聞きつけて、お母さんがこちらにやってきた。


「喧嘩というか……」

「久しぶりに仲良くテレビ見ていると思ったのに」

「……」


 わ、我が妹ながらめんどくさい……。

 せっかく素晴らしい休日を過ごしていたのに、これじゃ最後の最後で台無しだよ。







「むぅ……」


 携帯で大手通販サイトとにらめっこすること三十分。

 私はいまだにお買い物カートの決定ボダンを押すことができずにいた。


「ムカつく、ムカつくけど……」


 さっき言っていた新選組の羽織を一にするか二にするかで全力迷い中。

 サイズは一緒だろうから、同じもので問題はないと思うんだけど……。


「……」


 二つ買うのは、お小遣い的に考えてかなりの痛手だ。

 でもなぁ、あの反応は絶対にホタルも欲しいと思うんだよなぁ。



(はぁ? なに勝手に買ってんの!? いらないって言ったじゃん!)



 そして買った場合、当然こういう反応も考えられるわけで。

 こっちがお金を出して買っているのに、そんな反応をされたらさすがの私も血管がぶち切れるかもしれない。


 でもなぁ……。


「ええーい! ままよ!」


 いつまでも悩んでいても仕方ないので、私は個数のところを二にして注文した。


「なにやってんだろ私……」


 嫌がられるかもしれないのは分かってるんだけどな。

 こんな風に押しつけがましいことしているから嫌われちゃうのかもしれないな私。







 二日後、無事羽織が到着。


「お母さん見てみてー! 新選組の羽織が到着したよ!」

「あはは、よく似合ってるわよマユ」

「甚平みたいに着るのもいいかも! これから家の部屋着はこれにしよっと!」


 テンションあがるー!

 好きなものに身を包まれるのってなんでワクワクするんだろう。


「ふんっ……」


 ホタルが私のことをチラッと見て二階に上がってしまった。


 さて、もう一着の羽織をどうやってあいつに渡そうか。

 この二日間、ほとんどあいつと話していないんだが。


「サンタさん作戦でいくか」


 正面突破はかなり厳しい。今のあいつは固く心の門を閉ざしているので、絶対に素直に受け取ってくれるとは思わない。と、なると寝ているときにひっそり枕元に置いておくしかないか。


 土方さん、私に力を貸して……!


 気持ちを奮い立たせて、今日の夜に臨むのであった。



~数時間後~



 時間は夜の十二時。


 ホタルが寝静まった頃を見計らって、私は二段ベッドの階段に足をかけた。


「すぴ~」


 妹ののんきな寝息が聞こえてくる。

 くそぉ、なんで私がいつもこんなに気を使わないといけないのかな。


「今回だけだからな」


 そっとホタルの枕元にリボンに包んだ新選組の羽織を置く。

 季節外れのお姉ちゃんサンタさんだ。どうせなら白いひげもつければ良かった。


「はぁ、さっさと寝よ……」


 明日が怖い。

 こいつの明日の天気は嵐か雪かどっちだ。

 最悪いらないって突っぱねるなら、お母さんにもらってもらおう。


「いつも素直になれないでごめぇん……むにゃむにゃ……」


 ホタルの寝言が聞こえてきた。


 本当だよ、まったく。

 寝言だけなら可愛い妹なんだけどなぁ。







 次の日の朝。


「や、やっちゃったああああああ!」


 急いでベッドから起き上がる!


 遅刻する! 遅刻する!


 昨日、遅くまで起きていたからいつもより起きる時間が遅くなってしまった!


 既に上にいるホタルはもぬけの殻! どうせなら起こしてくれてもいいのに!


 私は駆け足で一階の洗面所に向かった。


「おはよ」


 洗面所に着くと、ホタルが黙々と歯を磨いている。


「寝坊助」

「お、起こしてくれても良かったのに!」

「私から起こしたらなんか気まずいし……。一応、受け取っておいてあげるから。ありがと」

「え?」


 ホタルが照れくさそうな顔でこっちを見ている。

 よく見るとホタルの背中には“誠”の文字が書いてある!


「そ、それ着心地いいでしょ!」

「うるさいなぁ。早く用意しないと本当に遅刻するよ」


 私は思わず声が弾んでしまっていた。

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