第8話 お姉ちゃんは綺麗になった

 七月に差し掛かろうとしたある日。

 お母さんが、晩御飯中に唐突にこんなことを言ってきた。


「お姉ちゃん、最近綺麗になったよね」

「そう?」


 唐揚げを食べようとしていた手が止まってしまった。

 隣にいるホタルが一瞬頷いたのが見えてしまった。


「うん、最近おしゃれに気を使うようになったでしょう?」

「これが!?」


 自分の服を見回してみる。


 今の私の服は新選組羽織。ちなみに隣にいるホタルも同じ。


 ホタルも大分気に入ってくれたみたいで、あれからずっと羽織は使ってくれている。


 家にいると双子らしくペアルックみたいにでちょっと楽しい。


「違う違う、最近朝にお風呂に入るようになったでしょう」

「まぁ、朝は基本ランニングするようになったしね」

「うん、肌が綺麗になってるよ。体もちょっと引き締まったような気がする」


 確かにホタルの寝言を聞いてから、身だしなみには気を使うようになった。

 でも、体が引き締まったは言い過ぎだよお母さん。

 私、びっくりするほど体重変わってないもん。


「元から太ってはいないじゃん」


 えっ、ホタルからまさかの援護射撃。いつも人の前ではけちょんけちょんに言うくせに。


「そうね、でも前よりも女の子らしくなった気がする」


 えへへ、なんか照れちゃうなぁ。

 そんな風に言われて悪い気がする女の子はいないよね。


「ホタルは前から気を使ってるよね」


 お母さんからびっくり発言。

 え? そうだったの?


「ホタルも最初は私の香水使おうとしてね。双子だなぁと思ったよ」

「ちょ、ちょっとお母さん! 余計なこと言わないでよ!」

「ふふふ」


 ほーう、良いことを聞いた。

 まさかホタルが私より先に試していたとは。

 それであんなゴミだカスだみたいな言い方をしてきたとは。


「お母さんね、最近嬉しいよ。二人が仲良くしてくれて」

「そう?」

「ふふふ、そんなお揃いのものを着るなんて何年ぶりかしら。二人は本当は仲良しだもんね」


 待ってお母さん! それは言い過ぎだって!

 そんな言い方したらホタル嫌が――。


「別に……」


 ……らなかった。

 おかしい、いつもよりホタルが素直だ。


「ホタル」

「なによ」

「具合悪いの?」

「別に悪くないし。どういう意味よ」

「どういうってほどではないけど……」


 この羽織のことからホタルの態度が柔らかくなったような気がする。

 前なら、お母さんにそんなこと言われたらすぐに脱ぎ捨ててビリビリに破ってゴミ箱にポイってしていたはずだ!


 ……それはちょっと言い過ぎかもだけどだ。


「もしかしてマユ……」


 今日のお母さんはとても楽しそうだ。

 とてもニコニコしていて少し意地悪そうな顔をしている。


「好きな人でもできた?」

「そんなわけないでしょう!」


 なんでよ! 即座にホタルが私の代わりに回答をした。


「なんであんたが答えるのよ!」

「ふんっだ」


 いや確かにいないけどさ! 

 でもそれをホタルに言われるのはムカつく! いや、間違いなくいないんだけどさ!


「あらあら」


 終始、お母さんは私たちのやり取りを楽しそうに眺めていた。







「それじゃおやすみ~」


 電気を消して、布団の中に入る。

 寝不足は肌に悪いから気を付けないとね。


「あんたさぁ……」


 毛布をかぶったら上からホタルが声をかけてきた。


「なに?」

「なんで急にそんなに気にするようになったの?」

「気にする?」

「さっきのお母さんの話」

「あー」


 まだ終わってなかったんだその話。

 何故かホタルが気にしているようだ。私の代わりに勝手に答えたくせに。


「……」


 さて、なんて言おうか。

 全部正直に話すのはかなり恥ずかしい。


 あんたに臭いって言われないようにするためとか、あんたにぶさいくって言われないようにするためだとか。


 年頃のお姉ちゃんとして、できればそれは言いたくない。


「さぁ、ただなんとなくだけど」


 というわけで誤魔化した。

 お姉ちゃんとしてのプライドもあるしね。


「ふーん……」

「なによ、そのなにか言いたそうな感じは」

「別に。ところであんたって好きな人いるの?」

「えっ!? いきなりコイバナ!?」

「だってさっき答えてなかったじゃん」


 まさかホタルからコイバナをふってくるとは夢にも思わなかった!

 明日は槍がふるかもしれないよ! いや、上からコイバナがふってきてるのか!?!?


「そういうあんたはいるの?」

「いるように見える?」

「全然」


 あっ、ホタルが笑っている。

 今の会話で面白いところなんてないと思うけど。


「で、実際どうなの?」

「普通にいるけど……」

「えっ!?」


 ホタルからとても驚いたような声が出た。


「ち、ちなみに誰……?」

「鬼の局長の土方歳三!」

「はぁ~~~」


 くそでか溜息が部屋に響き渡った。

 馬鹿にしたような、呆れたような、色んな感情が入ってそうな溜息だ。

 つまりムカつく溜息だ。


「聞いた私が馬鹿だった」

「なによ! ホタルだって良さが分かるくせに!」

「私、沖田派だから」

「死ぬじゃん」

「死ぬって言うなぁ!」

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