第4話 双子姉妹と心霊スポット

 高校一年生の六月初め。


 入学したばかりでドタバタしていた四月・五月を終えて、みんな新生活に余裕ができてきた。


 その中でも、私たち双子の幼馴染 来栖くるす美也子みやこはクラスのムードメーカーとして暗躍。スクールカーストってなんだっけ? というくらいみんなを巻き込んで遊びに誘ってくるようになった。


「まゆゆん、ホタちん! 今日、どこかに遊びに行かない?」

 

 早きこと風の如く。

 終業のチャイムがなると、美也子みやこが私たちに声をかけてきた。


「いいけどどこ行くの?」

「心霊スポット」

「絶対やだ」


 軽く返事をして超後悔。


 オカルトマニアの美也子みやこはたまにこうやって変なところに遊びに誘う。


 私はその度に、丁重、丁寧、徹底的にお断りをしている。だって私、怖いもの大っ嫌いだもん。


「ほらほら見て! 有名な配信者さんが近くの廃ビルに来てたんだって!」

「へぇ~」

「少しは興味持てこら」


 美也子みやこってミーハーなところあるよなぁ……。わざわざ怖い所に行く理由が全く分からない。そもそも高校一年生が喜んで遊びに行く場所でもないと思う。


「えっ、私も昨日その動画見た」


 その話にホタルが食いついてきた。

 エサ待ちの鯉みたいにパクパク食いついてきた。


 ミーハーがここにもいたわ。

 

 ホタルは私とは逆に怖いもの大好き。

 さては最近遅くまで携帯の明かりがついていたのはその動画を見ていたからだな。


「ね、行ってみよ!」

「うん」


 ホタルがあっさり了承する。


 うん、勝手に二人で行けばいいと思う。

 私は家に帰って、熱々のお茶とつぶあんのおまんじゅうを食べよっと。


「じゃ、お先ー!」

「ほら、まゆゆんも行くよ!」

「そうくると思ったぁあああ! なんでよぉおお!」

「他のみんなも来るから。まゆゆんも仲間外れは寂しいでしょ?」

「この場合は寂しくないよ!」


 動かざること山になれなかった私。

 何故か心霊スポットに無理矢理連行されるのであった。


 ちなみに今日の最後の授業は歴史の授業。

 私は完全に戦国時代の口になっていた。

 家に帰ったらネットで色々調べようと思ったのに! 怖いものの気分では断じてないのに!







 時間は夕方の五時過ぎ。


 私たちは学校の近所にある廃ビルにやってきた。

 

 静かなること林のごとしだよ……。もう嫌だ、既に雰囲気が怖い。

 空気が完全に淀んでるよ。お母さんが掃除し忘れた金魚の水槽みたいに淀んでいるよ。


 美也子も他のクラスメイトたちも平然とした顔でその廃ビルに入っていく。もう、その度胸が不思議で仕方ないよ。


「ビビってるの?」

「黙れ」


 嫌味ったらしいこと火のごとし。

 入口のところで腰が引けていたらホタルに煽られた。

 

「私、ここで待ってるね」

「映画だとそういうやつから真っ先に死ぬよね」

「た、確かに……」


 悔しいがホタルの言うことも最もだ……。確かにその手の映画だと集団行動しなくなったやつからしょされていくパターンが多い気がする。


「そういうあんたは行かないの?」


 ムカついたので、私がそう尋ねるとホタルの眉がピクっと反応した。


「あっ、実はあんたも怖いんだ」

「……」

「怖い映画を見た後はよく寝れなくなってったもんね」

「……」

「私、子供の頃、あんたのおねしょをなすりつけられたのだけは忘れてないから」

「うっさい!」


 私の言葉にホタルが激昂する。

 へへん、たまにはやり返してやった。


 ムッとした顔になったホタルが、私の肩を後ろからがっちり掴んできた。


「な、なによ!?」

「ほら行って!」

「やだってば! 絶対に行きたくない!」

「あんたお姉ちゃんでしょ! 少しは妹のことを守ったらどうなの!?」

「こういうときばかり妹ぶって! あんたこそ興味しんしんでここに来たんだから、私の先を行きなさいよ!」

「私は寒い日にあったかいコタツでアイスを食べるのが好きなの! 寒いところで冷たいもの食べるのは好きじゃない!」

「意味分かんない!」


 ホタルに体を押され、どんどん体が廃ビルの入り口に近づいていく。


「あんた私のこと嫌いなんでしょう! こういうときばっかり頼らないでよ!」

「はぁ? なに言ってんの? 別に――」

「ん?」

「いいから早く行けーー!」


 ずるい、ずるい、ずるい! こういうときばかり姉扱いをする!


 こんなの生贄だよ、人柱だよ、モズのはやにえだよ!


 こいつは昔からこうだ! 自分が苦手なことには私を積極的に巻き込もうとする。


「八歳と九歳と十歳のときと、十二歳と十三歳のときもこんなことあった!」

「いちいちカウントするな!」


 幽霊とかオカルト的な話を信じているわけじゃないよ。

 でも、100%いないと言えないじゃん。1%の確率で取り憑かれるかもしれないじゃん!


「ホタルだってこの歳でおねしょしたって知らないんだからね! 略しておねしょただ!」

「い、いきなりバッカじゃないの! それは意味が違うじゃん!」

「え?」

「しかも全然略せてないし!」


 力が緩んだので後ろを振り返ると、何故かホタルはとても気まずそうな顔をしていた。


「あんた、そろそろそういう知識をつけたらどうなの……」

「そういう知識?」

「知らない!」


 ホタルが恥ずかしそうな顔をして、私から目線を逸らした。


 私、変なこと言った?

 相変わらずホタルがなにを考えているのかさっぱり分からないよ。


「あのとき、私も同じ布団に寝てたからびしょびしょになったんだから」

「~~~っ!」


 ホタルが勝手にひるんでいるので話を元に戻した。

 おねしょたについてはもっと言及しないと。


 あのときは同じ布団に寝ていたから私も甚大な水害被害をこうむった。

 他人のおねしょに巻き込まれた経験のある人間がこの世にどれほどいるというのだろうか。結果、大きくなった今でもこのエピソードは私の深いトラウマとして刻まれてしまっている。


「びしょびしょ言わないでよ!」

「びしょびしょはびしょびしょでしょうが」

「あんたには恥じらいがないの!?」


 ホタルの顔が耳まで真っ赤になっていく。


 あー、心がミントみたいにスッとする~。

 久しぶりに一矢報いた気分だ。

 

「びしょびしょホタル」

「うぅ~~っ!」


「……あんたらなにやってんの?」


 あ゛っ、入口のところで騒いでいたらクラスメイトたちに変な目で見られてしまった。







「今日はあんたのせいで大恥かいた」

「こっちの台詞なんだけど」


 夜、ご飯を食べていたら、ホタルに毒を吐かれた。

 食べると同時に吐くなんて、なんて器用なやつなんだ。


「私は事実を申し上げただけです」

「ふんっ、そんな昔の話でしかマウントを取れないなんて悲しいやつ」

「びしょびしょ」

「うぅううううう!」


 使える! 使えるよこの言葉!

 最強の剣を手に入れた気分だ!


「いちいちそんなエッチな言葉使わないでよっ!」

「どこが?」


 なんか私が思っていたところと別の部分でダメージを受けてたっぽい。

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