第11話 「学校では付き合ってること秘密にしない?」 次回→

 朝の光が眩しい……。


 床に敷いた布団には透花がぐっすり中。深夜、諸々と耐え切れる自信がなかった俺は、透花と入れ替わる形で空いているベッドに移動した。


「遼君どこー……?」


 もぞもぞと布団が動く。透花もどうやら目を覚ましたようだ。


「おはよう、透花」

「んー……?」


 うつろな目で透花が俺のことを見ている。


「なんでそっちにいるの……?」

「自分に自信がなかったので」

「遼君はカッコイイよ。自信持って」


 いや、そういう意味じゃなかったんだけどね。ベクトルが違う励ましをされてしまった。


 透花が布団をかぶったまま、ずるずるとミミズみたいに動いて――気づけば、こっちのベッドに移ってきていた。


「遼君、なんで逃げるの……?」


 布団の中から、透花が寂しそうな表情を覗かせる。


「逃げてるわけじゃないから! むしろ自分の自制心と戦ってるの!」

「遼君が朝からよく分かんないこと言ってる……」


 むにゃむにゃ文句を言いながら、透花がさらに距離を詰めてくる。もう背中が壁なんだが! スウェットの上着が肩から少しずれ落ちて、下着の紐が見えてしまっている。


「透花、マジで限界だから! 俺の理性が赤信号になっちゃうから!」

「赤信号でも、止まらなかったらどうなるの?」

「事故るわ!」


 俺が思わず声を上げると、透花はくすっと笑った。


「じゃあ、遼君。スピード落としてね。安全運転でぎゅーして?」

「透花が朝からよく分からないこと言ってる」

「私もよく分かってない……」


 起きたばっかりでうまく頭が回っていないらしい。そう言う俺も、徹夜でいまいち頭がはっきりしていない。


「はぁ、五分だけだからね」


 俺が折れると、透花は嬉しそうに微笑んだ。


「やった。延長決定」

「延長申請早すぎるから!」


 俺がツッコんでも、透花は知らん顔で俺の腕の中ですぅすぅと寝息を立て始めた。


「そろそろ起きて、お弁当を作らないと……」


 透花の呼吸に合わせて、心臓が無駄に高鳴る。はぁ、こんなところ家族に見られたら――。


「お兄ちゃーん、朝だよ」


 ノックの音と同時に俺の部屋の扉が開いた。柚葉が普通に俺の部屋に入ってきやがった。


「……」

「……」


 兄妹間にかなり気まずい空気が流れる――柚葉の視線の先には、俺に抱きついている透花がいた。


「お、お兄ちゃんが朝比奈透花ちゃんといちゃいちゃしてるーーー!」

「待って柚葉! 誤解だから! あと大きな声出すな!」

「これのどこが誤解なのよ!」

「なんでノックと同時に入ってくるんだよ! ノックの意味は!?」

「お兄ちゃん、今までそんなこと気にしたことなかったでしょ!」







 朝の六時半、俺はなんとか起きて、キッチンでみんなのお弁当を作っていた。


「遼、昨日は大丈夫だった?」

「大丈夫だけど大丈夫じゃねぇよ!」


 つい声を張り上げてしまった。人の苦労も知らないで……! 昨日の夜のMVPがいたら間違いなく俺だからな! なんの競技かは知らないけど!


「……そういえば、父さんはどうしたの?」

「昨日は残業で、そのまま会社に泊まることになったって」

「えー、それは大変。今日は帰ってくるの?」

「うん」


 母さんが仕事の身支度を整えている。家族の中では、母さんが一番家を出るのが早い。


「遼君、お肉はどこに入れたらいい?」

「適当でいいよ」


 透花が、俺の隣でお弁当の詰め物を手伝ってくれている。


「まさか朝比奈透花ちゃんにお弁当を作ってもらえる日がくるなんてなぁ」

「どこに感動してんだよ」


 透花の手つきを母さんが感慨深げに眺めている。やめろ、そんな目で見ても、がっかりするだけだぞ。透花はその目線のプレッシャーに耐えながら、慎重にお弁当の中身を整えている。


「母さん、言っておくけど、透花はあまり家事できないからね」

「な、なんで勝手にバラすの!?」

「変に取り繕うより、普通にしてたほうがいいって。どっちも疲れちゃうでしょう」

「うぅう……」

「あと、透花はピーマンと玉ねぎ嫌いだから。というか、野菜全般そんなに食えない」

「全部バラされたぁああああ!」


 よく知っている二人の、上っ面のやり取りがおかしかったので、全部バラしてしまった。ちょっと性格悪かったかな? でも、透花にはできるだけ自然体でいて欲しいしね。


「あはははは、私が思っていたよりも透花ちゃんって親しみやすいのね」

「そ、そうでしょうか?」

「うん、遼と話していると普通の女の子って感じ。最初は少しお高いイメージだったんだけど、素直でとても可愛いと思うよ」


 透花の表情がパァアアと輝く。すごく嬉しそうだ。


「透花ちゃんさえ良かったら、家事とか料理は教えてあげようか?」

「い、いいんですか!?」

「もちろん」

「やったー!」


 透花が俺の肩を両手でつかんで、ぴょこぴょこ喜んでいる。確かに、こういう素直さが本当の朝比奈透花かもしれないな。


「まぁ、母さんもそんなに片付けできない人なんだけどね」

「遼っ!」

「ごめんなさい」


 うんうん、二日目で二人はとても良い感じになっている気がする。透花が母さんから家事関係を教えることで、俺の育成計画も一石二鳥だ。


「兄さーん! お弁当のおかずに唐揚げ入ってるよね!?」

「入ってるわけないだろ! 昨日の焼肉の余りだから! 誰が朝から油ものなんてやるかっ!」


 そんな俺たちの様子をリビングから柚葉が訝し気に見ている。母さんと透花の関係は良い感じだけど、妹のほうはかなり微妙な感じになっていた。朝のあんな現場を見られたからだろうか、柚葉の俺を見る目がバイ菌でも見ているみたいになっている。


「遼君、遼君。私、きゅうり切ってみたよ。味見してみて」


 柚葉のことを考えていたら、透花が俺の口にきゅうりを入れてきた。


「どう?」

「すごく普通」

「こういうときは美味しいって言うの」

「素材そのままの味で美味しかったです。これ、終わったら学校の準備しような」

「はーい」


 柚葉の様子も気になるけど、騒動後、初めての透花の登校だ。今はこっちに注力しないと。クラスメイトたちの反応がどうなるか、正直全く分からない。透花が余計なことで傷つかないように、俺がしっかりしないと。


「透花、学校に行く前に言っておきたいんだけど」

「どうしたの?」

「俺たち、学校では付き合ってること秘密にしない?」

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