第2話 非常に聖女っぽい普段の行動
──追放から一年が経った。
わたしはもはや立派で完璧でパーフェクトでグレートな聖女と言っていいだろう。
わたしは、とある寂れた村に向かっていた。
村の方に向かうという商人の荷馬車に乗せてもらっている。
ガタガタと揺れる座席にお尻に痛みを感じる。
自分の薄い胸元に下げた銀の板の揺れが気になり、手に取る。
その銀の板は聖教会の癒し手を示す証だ。
だが、その銀の板には大きく傷がつけられていた。
傷以外があること以外は美しく板だ。ピカピカに磨き上げられている。
そこには銀のロングヘアの少女が映っていた。
「やはり、十六歳には見えませんね……」
その少女はわたし、サナ・フェリシアである。
追放から一年経ったが、姿はあまり変わっていない。
かなり補正を入れてみたとしても、せいぜいが十三、四歳だろうか。
はぁ……と自分の容姿の子供っぽさにため息をつく。
そこで、御者台の商人から声がかかった。
「にしても嬢ちゃんも物好きだね。あんな村に行こうだなんて。何もないだろうに」
「患者がいるよ」
「癒し手様も大変だねぇ……」
「別に、大変なんて思ったことないよ。わたしはやりたいことをやっているだけだからね」
「……と、そろそろつくよ」
商人の言葉に顔を上げると、まばらに家の点在する村が見えてきた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ありがとうございます……! 癒し手様……!」
「いえいえ。治ってよかったですねえ」
わたしは笑顔で村人に対応しながら、家々と回る。
夜までには治療は終わるだろうか……。
そう思っていると、突如悲鳴が上がった。
「むっ……!」
わたしは声の聞こえたほうへと駆ける。
そこには、最初に治療を終えた女性がいた。
荒々しい風体の男たちが──十名ほどだろうか──武装をしたまま彼女に近寄っていくのが見えた。
「だからよォ……この村にヒーラーの嬢ちゃんが来てんだろ。連れてこいっていってんだよ」
女性は震えながら口を開く。
「そ、そんなこと、できません……」
「どこにいるか答えろよ。……まだ死にたくはねえだろ」
男の一人が古びた剣を抜いてみせた。
「ひっ」
女性が恐怖の声をあげる。
剣の切っ先が、女性に向けられる。
「死にたくなきゃ、さっさと答えろよ」
「はーい。そこまで~。ねえ。わたしの患者に何してるの?」
わたしはそう言って、近づいていく。
「癒し手様……! こっちに来たらダメです!」
女性がわたしに向かって言う。
それでも近づいていくわたしに、男たちは下品な笑い声をあげた。
「あひゃひゃ。バカなんじゃねえの。自分からノコノコ出てくるなんてよお」
「まさか話し合えばわかるなんて言うんじゃないだろうな。聖教会の癒し手様はみ~んな脳みそお花畑だからなあ!」
「癒し手はたか~く売れるんだよなァ!」
わたしは臆せず彼らに近づいていく。
そう。
人間、話し合えばわかるのだ。
「うん。そうだよ。話し合おう? そうしたらきっと、あなたたちもわかってくれるはずだから。誰もが再生できるはずだから」
わたしはかつて、そう教えてもらったから。
「盗賊さんにも、事情があるんだよね? わたしが聞いてあげましょう」
わたしがそう言って近づくと、盗賊たちは大爆笑である。
「ひぃ~。くるし~。腹いてえ。こいつ俺たちを笑い殺す気だぞ」
「こえー。やられちまいそー」
と馬鹿にするような口調で男の一人が言った。
そして一人が言ってしまった。
「ちっと幼いが、顔もいいから高く売れそうだ」
「……へ? 今なんて言ったの? 幼いって言った?」
「どうみてもガキじゃねえか。十歳くらいか?」
「いまペチャパイまな板のクソガキで成長の余地もないって言ったよね?」
「いやそこまでは言ってねえけどよ」
「わたしには許せないものが三つありまぁす! 一つ目は、わたしの患者を傷つけること。二つ目は、子ども扱いをされること。三つ目は──とにかく! あなたたちみたいな人たち!」
ちょっと思いつかなかったので、誤魔化したところはある。
わたしは、収納魔法でしまっていたマジカル★ホーリー☆ステッキを取り出す。
それを見た男が叫んだ。
「ああああ!! あの撲殺鉄球! こいつ、まさか──!」
「破壊の鉄球だと……!? 破壊の癒し手、サナ・フェリシアか!?」
「裁定の聖女!? ウソだろ! に、逃げ──!」
そう言って逃走しようとした男に、トゲトゲつきの鉄球が直撃した。
マジカル★ホーリー☆ステッキちゃんである。
男は吹き飛び、生えていたそこそこ太い木をブチ折り、民家の壁に激突した。
──マジカル★ホーリー☆ステッキ。
通称、破壊の鉄球。
正式名称、煉鉄の審杖。
これは鎖で繋がれたトゲ鉄球のついた杖である。
色々曰くはあるが、まあすごい武器だ。
なんと、人を殺さない武器なのだ。
「さ。おはなし──しよっか?」
鉄球を地面に叩きつける。大地が響く音が周囲に広がり、土煙が巻き起こる。
手を振ると鉄球が生き物のように動く。
数人の盗賊をぶっ飛ばす。
「ひ、ひぃ……ぶべえ!」
腕をもう一振り。
それだけで、残りの盗賊は残り二人になった。
盗賊はいかつい顔を、泣きそうに歪めて叫んだ。
「お前、癒し手だろう!? 癒し手は破壊は禁忌なんじゃないのか!?」
わたしはにっこりと微笑んで口を開く。
「幸福のためには、多少の破壊は許されるんだよ」
特に患者の幸せのためならね。
「ウソだああ! だって今までの癒し手は誰も、暴力なんか──!」
スゥ──とわたしの心が冷めていく。
癒し手は、優しく誠実な人が多い。
その人たちにひどいことをしたのか。
わたしが腕を振るう。
男を上から叩き潰すように鉄球は頭の上に落ちた。
最後の盗賊が言う。
「なんだこいつ……。俺たちにやり直せるなんて、本気で思ってるのか……?」
「きっと、あなたも再生できるよ。──わたしの鉄球が、そうさせるから、ね」
最後の盗賊を、鉄球が弾き飛ばす。
わたしは全員沈黙することとなった盗賊をしり目に、近くでへたり込んでいる女性に声をかけた。
「お姉さん、大丈夫? ほら、立って」
手を引いて立たせる。
「あ、ありがとう、ございますっ……」
「いーよいーよ。わたしは次の患者のところに行くから。甘いモノでも持ってきてくれると嬉しいな?」
そう言って歩き出す。
女性はちらちらと盗賊を見ていた。
「あ、はやくても一日は目覚めないと思うから。みんなで拘束しといてね。よろしく~」
わたしは鉄球を収納魔法でしまうと、手をひらひらと振った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
お礼をいう村人たちに微笑む。
「お姉ちゃんありがとー!」
そう言って幼い少女が抱き着いてきた。
軽く頭を撫でてあげる、
「いやぁ、わたしのおかげで助かったねえ」
「本当に、ありがとうございます……! どうお礼をすれば……。流行り病だけでなく、盗賊まで……」
老人がそういって頭を下げる。村長だ。
「ま、まさかあの、裁定の聖女様にいらっしゃっていただけるなんて……」
村長は声を震わせて言った。
顔に汗が滴っている。
「盗賊はわたしのせいだと思うから気にしなくていいけど──。でも、そこまでいうなら、もらおっか? ありったけ」
村長は困ったような顔をする。
「申し訳ありません……。この村には、あまりたくわえがなく……。村中からできるだけ、かき集めましたが、ご満足いただけるかどうか」
そういって村長は膨れ上がった袋をとりだし、渡してきた。
「おお。さすが村長さん。よくわかってるねえ」
そう言って袋を受け取ると、ずしりと重かった。
不思議に思って逆さにしてみる。
大量の銅貨と、少量の銀貨がじゃらりと地面に散らばった。
「……ナニコレ?」
わたしが言うと、村長は土下座をした。謝意を示す最上位の謝り方だ。
土下座──首を差し出すということである。
「申し訳ございません! この村のすべて、かき集めてこれなのです……。どうか、ご容赦を……この老いぼれの首で、少しでも気が収まるなら」
村人たちは「村長……!」と口々に叫んでいる。
「ちーがーうーでーしょー!! ちがうでしょーーォッ! 違うでしょ!」
「申し訳ございません……」
「こんな金属じゃなくて、おいも!」
「はへ……?」
「ぜんぶ焼き芋にして持ってきて!」
さっき女性に持ってきてもらった甘いモノ──焼き芋がめちゃうまだったのである。
盗賊は全員ロープでぐるぐる巻きにされた。
まだ誰も目を覚ましていない。
これがマジカル★ホーリー☆ステッキのパゥワァーなのだ。
右手の焼き芋にかぶりつく。
うま。
さて、こっちはどうかな~。
左手の焼き芋もうま。
両手に焼き芋、テーブルに焼き芋タワー。
村人たちは焼き芋タワーを見つめて「これでいいのか……? 本当に?」と呟いていた。
ほくほくの焼き芋食べ放題、最高!
うますぎ。
──さて。今日は一晩寝て、明日は盗賊たちの様子を見に行くとしますかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます