追放された鉄球聖女、悪人更生はじめます
もちぱん太郎@やり直し配信者
第1話 追放
「聖女サナ! あなたはもう、追放です……!」
神父服を着た男が額に青筋を浮かべながら叫んだ。
わたしは愕然とした。
「……な、なぜに? いったいわたしが何をしたと……!?」
神父は呆れ顔をして、ため息ついた。
「あなたは、なぜ被害者面ができるんです?」
「追放されるようなことをしていないから?」
「……してます。教えてあげましょうか?」
「フ……。わたしに非があるというなら、ぜひ教えてほしいですね」
口の端で笑って見せる。
一方神父は苦々しい顔だ。
「なぜ自信満々なのか理解に苦しみますが……。まず朝起きない」
「うっ……。そこは、どうしようもない……。で、でもそれだけじゃ……」
「次に食い意地がすごい。備蓄していた食料を盗み食いしたでしょう。半分くらいになってましたよ」
「ぐっ……」
「他にも食事中うるさい。私たちは感謝の祈りと共に、慎ましく食事をとるものだというのに。一人だけ『うまっ! これ最高!』とか騒いでることで、苦情が来てるんですよ」
神父の説教中ではあったが、わたしはとあることがどうしても気になってしまった。
つい口にしてしまう。
「神父様。それ、わたしの声真似です? 似てないですねえ」
「サナ! 今はそんなことを言ってる時じゃないですよ! あとは、掃除をしない! 『片付けも再生の一環』とかいって、ゴミを一か所に固めてるでしょう! あれ他の人が片付けてるんですよ!?」
神父は先ほど似てないと指摘されたことを気にしたのか、声を似せようとはしていなかった。
「いつも朝にはゴミがなくなってるから、あれでいいと思ってた」
「他にも……!」
「えぇ……まだあるんだ」
「こっちの台詞ですよ! 一番は、聖書の解釈が独特すぎることです!」
神父がぺらぺらと話し出す。
「神はすべてを許す」と言いながら、悪人には暴力制裁。
「パンを分け与えなさい」という教えを拡大解釈し、教会の供物を勝手に村人へ配る。
「救いは破壊から生まれる」と新たな教義を作り、説教中に鉄球を持ち出す。
などなど。
「なるほど。つまり神父様……。今言われなかったこと以外は全部オッケーってこと?」
「サナ……!? あなた他にも……!?」
「神父様。実はドッペルゲンガーという存在がいるらしく……。あとそっくりな人って世界に三人いるらしいよ」
「でも今の話は全部あなたですよね」
「まぁ、誤解を恐れずに言えばそうかも……?」
「というわけで──追放です」
「そんなぁ……!? と、普通の聖女ならショックを受けてしまうかもしれません。ですが、フッ……。わたしはすごい聖女なのでね。すぐにこのわたしが、聖教よりも、名声を得てやりますよ……! 後悔してももう遅いからね!」
──というわけで。この物語は、無実の罪で教会を追われた聖女であるわたしの物語。
このサナ・フェリシアが名声を稼ぎ、聖女の中の聖女、大聖女になる物語である。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
サナを追い出した神父は、一人になった教会でつぶやく。
「──サナ。どうかご無事で。今は、こうするしかないのです。あなたが善性であることはわかっています。神聖力も、誰よりも強い。どうか、あなたの行く道に祝福があらんことを。──ReNoi(リノーイ)」
神父は聖句を口に出すと、十字を切った。
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