第2話 俺がクラスの気になる女の子に水をぶっかけた話。(下)

 実を言うと、タコさんウインナーの味はさっぱりわかっていなかった。


 まさか姫乃ちゃんに「あーん」をしてもらえるだなんて思ってもみなくて、俺は自分でもわかるくらいにキョドってしまっていたから。

 多分だけど、顔とか真っ赤になっていたと思う。


 でも俺が玉子焼きをあーん返ししてあげると、姫乃ちゃんもおどおどしながら顔を真っ赤にしていたので、似た者同士でよかったのかも?

 付け加えると、顔を真っ赤にして「あーん」と小さなお口を開く姫乃ちゃんは、息が止まりそうなくらいに可愛かった。


 そんな風に、俺は大好きな姫乃ちゃんといい感じに仲良くなっていた。


 だから親から、引っ越しをするから2学期から別の学校に転校すると聞かされた時は、すごく凹んだ。


 もうマジで凹んだ。

 俺だけここに残りたいって本気で思った。(もちろんそんなことは不可能だ)


 考えるだけで涙が出てきたし、夜はなかなか眠れなかった。

 そのせいで寝不足になって、姫乃ちゃんに心配されたりもした。


「勇太くん、最近疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

「あはは。ゲームしすぎてちょっと夜更かししちゃってさ」

「そうなんだ。ちゃんと寝ないとダメだよ? 寝る子は育つって言うんだよ?」

「わかった。今日からちゃんと寝るね」


 俺は転校することを言い出せなくて、適当なことを言って誤魔化す。

 姫乃ちゃんの笑顔を見ていると、離れ離れになるのが悲しくて辛くてやるせなくて、俺はどうしても切り出せなかったのだ。

 

 ――でも。

 ――だけど。

 今は転校が運命だったように思った。


 転校するんなら、クラスのみんなに呆れられても実質ノーダメージ。

 なら迷うことなんてないよな!


 まずはパパっと作戦を考えると、俺は即座に行動へと移す。


「先生! ちょっと外に出ます!」


 俺は立ち上がって大声で言うと同時に、教室の前までダッシュして、前方の入り口から教室を飛び出た。

 前方の入り口を使ったのは、後方の席に座る姫乃ちゃんに注目がいかないようにするためだ。


「お、おい天道! 今は授業中だぞ――おい!」


 担任の慌てふためいた声を背中に聞きながら、俺はダッシュで手洗い場へと一直線。

 隅に置いてあった清掃用のバケツを手に取ると、水を満杯にして教室に戻ってくる。


 妨害されないように、今度は後ろの入り口から中に入ると、間髪いれずに自分の机に上って、バケツの水を頭から被った。


 ザバァ!

 盛大な音とともにパンツまでびしょ濡れになる俺。


 つ、つ、冷てぇぇぇぇぇ!!!!


 そしてその時に、前の席の姫乃ちゃんにも水がかかるようにした。

 おかげで俺と一緒に、姫乃ちゃんもずぶ濡れになってしまった。


 俺と姫乃ちゃんの席を中心に、床は水浸しだ。


 よし! 木を隠すなら森の中作戦、成功だ!

 俺って天才じゃね?


「水も滴るいい男って、こういうことですよね」


 達成感を覚えながら、空になったバケツを片手に横ピースサインを決める俺に、先生のカミナリが落ちる。


「天道! 授業中に何を考えとるか、この馬鹿もんが! 今すぐ机を下りなさい!」

「うぃーっす」


「それと女子の誰か。二宮も水をかぶったから、保健室に連れて行ってやってくれ。残りの者は先生が戻ってくるまで自習しているように」


 机を下りるときに姫乃ちゃんと目が合う。

 姫乃ちゃんは驚いたような、ホッとしたような、いろんな感情が入り混じったような顔をしていて、


「あ、あの――」

 だけどその口が何事か呟こうとする前に、俺は視線を外した。


 大丈夫だよ姫乃ちゃん。

 俺は何も気づいていないからね。


 アホな男子が、授業中に水をかぶるなんてアホな行動を取っただけだから。


 だから恥ずかしい思いなんてする必要はないし、お礼だっていらないんだ。

 姫乃ちゃんはバカをやった俺に巻き込まれた、可哀そうな被害者なんだから。


 鬼の形相をした先生が俺の席までやってきて、俺はびしょびしょのまま首根っこを掴まれて、職員室へと連行ドナドナされた。


 こうして俺は、小学校6年の一学期に大事件を起こしたことで、たくさんの大人に盛大に怒られ、長々としたお説教を何回もくらい、反省文をしこたま書かされ、お小遣いは年内なし&ゲーム禁止という死刑宣告を言い渡され、自宅待機処分を受けたまま夏休みに入り――。


 姫乃ちゃんや友だちに別れを告げることすらできずに、さながら逃げるように転校したのだった。


 そんな懐かしすぎる過去の記憶を、高校の入学式の日に俺は夢に見た。


 それが運命の再会を予見していたとは、この時の俺は知るよしもなかった──


―――――――――

新作ラブコメです!

気に入ってくれたら、ブクマと評価(☆☆☆)をしてねっ!(*'ω'*)


良かったらコメントも!

気が向いたらレビューも!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る