初恋×今恋 高校に入学したら昔、水をぶっかけた初恋の女子が右隣の席に座ってた。朝、起こしに来る幼馴染みは左隣に座ってる。

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第1章 俺がクラスの気になる女の子に水をぶっかけた話

第1話 俺がクラスの気になる女の子に水をぶっかけた話。(上)

 あれは俺――天道勇太てんどうゆうたがまだ小学校6年で、1学期の終わりごろのことだった。


 その日は夏休み目前にもかかわらず、朝から小雨が降って、北風が吹いて、妙に肌寒い日だった。


 教室の一番後ろの角の席で授業を受けていた俺は、前の席の女の子――二宮にのみや姫乃ひめのの様子がおかしいことに気が付いた。


 姫乃ちゃんは身体を小さく縮こまらせながら、下を向いたまま震えている。


 姫乃ちゃん、どうしたんだろう?

 たしか寒がりだって言ってたし、身体が冷えちゃったのかな?


 でも、それにしては首元は赤いような?

 姫乃ちゃんが恥ずかしがっているように俺には見えた。


 気になったので少し観察してみると、すぐにその理由が分かった。

 姫乃ちゃんの座る椅子の足を伝って、わずかに黄色がかった液体が流れ落ちていたからだ。


 わわっ!?

 もしかして教室でお漏らししちゃったのか!?


 肌寒い日、寒がり、黄色い液体、恥ずかしそうな素振り。

 どうやら「そういうこと」らしかった。


 ど、どうする!?

 まだ俺しか気づいていないみたいだけど、先生に言うか?


 いいや、だめだ!

 そんなことをしたら姫乃ちゃんがお漏らししたことが、クラスのみんなに知られて大変なことになってしまう。

 学年中に広まるだろうし、心無い男子にからかわれたりもするかもしれない。


 ど、どうしよう!?


 心の中で焦っている間にも、どんどんと椅子の足を伝う液体は増えていき、椅子の下には小さな水たまりができつつあった。

 このままじゃ他の誰かに気付かれるのは時間の問題だ。


 その時、俺はハッと気が付いた。

 木を隠すなら森の中ってことわざがあるよな?


 ってことは、お漏らしを隠すには水の中ってことだ。

 うん、これなら誤魔化せるんじゃないか?


 だけど「それ」をやってしまったら絶対に怒られる。

 先生にも、両親にも、姫乃ちゃんのご両親にも。


 クラスメイトにだって呆れられるだろう。

 特に女子からはガン無視されることは間違いなかった。

 「それ」をやれば俺の学校生活は、文字通り終わる。


 だけど俺はこのまま見過ごすことはできなかった。

 なぜなら姫乃ちゃんは、俺がずっと好きだった女の子だからだ。


 4年生で同じクラスになって恋に落ちた。

 5年生で別のクラスになってすごく悲しかった。

 6年生になって、1年ぶりに同じクラスになれて小躍りするほど嬉んだ。


 席替えで姫乃ちゃんの後ろの席になった時は、神様に感謝した。

 毎日後ろから姫乃ちゃんの姿を眺められることに、ハンパない幸せを感じていた。

 綺麗なサラサラの黒髪に、俺はいつも見惚れていた。


「よく間違えられるんだけど『せんどう』じゃなくて『てんどう』なんだ。よろしくね」


 最初は簡単な挨拶から始まって、いつの間にか毎日話すようになって、勇太くん・姫乃ちゃんと名前で呼び合うようになって、俺は毎日学校に行くのが、楽しみで楽しみで仕方なかった。


 デフォルメされた黒猫のヘアピンがすごく似合ってるって褒めたら、恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに喜んでくれた。


 姫乃ちゃんから笑顔が向けられるのが本当に嬉しかった。

 この笑顔をもっと見たいっていつも思っていた。


 姫乃ちゃんに良いところを見せたくて、苦手だった算数も頑張った。

 テストで100点を取って、

「勇太くん、100点なんてすごいね!」

 って言われた時は、嬉しすぎて自分でもわかるくらいにニヤついてしまった。


 そんな姫乃ちゃんはちょっとぽっちゃりした体形していて、それを男子にからかわれることもあったからか、

「私、デブだから」って恥ずかしそうによく言っていた。


 そのたびに俺は、

「そんなことないって! 気にしすぎだってば。少なくとも俺は気にしないからさ。もし今度何か言われたら、俺に言ってよね。カチコミしてくるから」

 みたいなことを言って、全力で否定したものだった。


(実際、デブじゃなくて、他の子よりもほんの少しぽっちゃりしているだけだったのだ)


 あと、遠足で同じ班になって、レジャーシートの上で肩がくっつくくらいに近く座って、姫乃ちゃんとお弁当のおかずを分け合いっこしたのは、小学校で一番の思い出だ。


「わっ、タコさんウインナーだ。すっごく可愛いね」

「ありがとう。初めて作ったから、足の形が少し歪なんだけど……」

「これ姫乃ちゃんが自分で作ったの? うわっ、すっごいじゃん!」

「そ、そんなにすごくはないんだよ? 切って焼くだけだから」

「自分で作る時点ですごいって! 俺、お弁当なんて作れないもん。姫乃ちゃん、マジすごいよ!」

「もぅ、ほめ過ぎだよぉ……あ、あの。よかったら勇太くんも一つ食べる?」

「え、いいの?」

「うん。せっかく作ったし、勇太くんがよかったら食べて欲しいな」

「食べる食べる! 超食べる! ありがとう姫乃ちゃん!」

「ふふっ、どういたしまして」

「でも俺だけもらったら悪いから、俺の玉子焼きと交換しない?」

「もしかして勇太くんが作ったの?」

「ううん、母さん。でも母さんの玉子焼き、すっごい美味しいんだ。だから交換しようよ?」

「じゃあ交換だね。はい、あーん」

「えっ!? ええっと、えっ! あっと、あの、あ、あーん……」

「どう……かな……?」

「すごく美味しい!」

「よかったぁ」

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