新たな波音
第48話
~夏葉~
「はじめまして~。夏葉の母です」
「あ、どうもはじめまして。穂風の母と、こっちが父親です」
今日は、穂風の親とうちの親の両家顔合わせだ。
料亭の一室で、親たちがぺこぺこと頭を下げ合っている。
穂風と顔を見合わせた。
なんか変な感じだ…。
「すごい若くて素敵なお母さまとお父様ですね!」
「いえいえ、お母さまこそ夏葉くんがこんな立派に育ったのが納得って感じです~」
なんて褒め合ってる。
「とりあえず母さんたち…座るか」
「そうね!」
親たちを促して席に着く。
穂風と向かい合って座ると、穂風が照れ臭そうにちょっと笑った。
「この度はうちの夏葉を大事な娘さんと結婚させてくださるということで…ありがとうございます」
母さんが穂風の両親にそう言って頭を下げた。
「出会ったのは穂風ちゃんが高校生のときと聞いていたので…さぞ心配されたでしょ…?」
「いえ、最初から夏葉くんの印象はすごく良かったですよ。誠実に穂風と向き合ってくれてるのが伝わったので安心して任せられました」
「そう言っていただけてありがとうございます…」
そんな感じでその日の会は終了した。
最後の方にはそよ子さんとうちの母親もなんか仲良くなってて。
「これからは親族になるのでよろしくお願いしますね!」
「はい、親族が増えて嬉しいです」
とりあえず良かった。
結婚を祝福してもらえるのはすごくありがたいことだ。
そして…。
「卒業おめでと」
無事に大学を卒業した穂風。
晴れて俺と穂風は結婚して夫婦になった。
婚姻届の証人欄はリアルと郁に書いてもらって。
2人で婚姻届を役所に提出しに行った。
それから、俺に新しいタトゥーが増えた。
『Ke pā nei ka makani 』
左胸に掘ったその言葉は、ハワイ語で『風が吹く』という意味。
つまり、『風が実る』という『穂風』の意味だ。
俺と穂風は、サーフボードが傷つくから、用意はしたものの基本結婚指輪をしない。
まあこのタトゥーは結婚指輪代わりだな。
体に刻むくらいには穂風のことを愛してるつもり。
穂風は「痛くない?」と心配してたけど。
その割には穂風だって昔俺の真似をして右足に掘ってたけどな…。
足にはお揃いのタトゥー、俺の胸には妻の名前が掘ってあって、最高のバカップルだな!
新居は今までの家からそう離れていない。
海辺と山を臨む立地のそれは、今まで俺が住んでいた部屋からは考えられないくらいでけぇ家…。
穂風の実家ほどではないが…。
正面からは海が一面に見え、背後には山。
周りに家はないので隠れ家的でもある。
まあ普通の穂風の年齢で住む家ではねえな。
穂風はお嬢様だからこのくらいが普通だろう。
夜寝るときはキングサイズのベッドに2人でくっついて眠る。
俺にしがみついて眠る穂風の耳の中にそっと指を突っ込んでみた。
「んっ…」
ビクッと反応する穂風。
「なに?」
「いや。なんかムラついて触りたくなった」
「なにそれ」
なんか愛おしさが全身を駆け巡ったんだよ…。
「あたし生理だからえっちできないよ」
「いいよ、勝手にするから」
穂風の服を脱がせて上半身にキスしまくった。
「キスする場所なくなった」
「あたしもムラムラしてきちゃったじゃん~…」
そのまま2人、キスでドロドロ。
毎日この愛おしい存在が隣で眠って一緒に生活してるって最高だな…。
それから新婚生活も落ち着いてきたころ、世界選手権の季節がやってきた。
最近の穂風はかなり調子が良い。
「私生活が最高に幸せだからコンディションも最高だよ!」
とのこと。
調子が良いといえば、悠星も。
最近ますます成長していて、大会では3位以内は固い。
世界選手権、今回の開催地は韓国。
韓国はショートボード女子のキム・ミンヒ選手が世界的に有名だ。
穂風とも親交があるっぽい。
今回も素晴らしい波乗りを見せてくれた。
「ミカゼ~!」
「ミニ~!」
試合終了後のミンヒ選手と会った穂風はお互いハグし合った。
『ミカゼ』『ミニ』と呼び合ってるらしい。
「(ミカゼ結婚おめでとう!)」
「(ありがと!)」
「(夫はこの人?)」
英語で会話する2人。
ミンヒ選手が俺を見る。
「(キリモトナツハだよね? 知ってる! 良いフォトグラファーだよね)」
「(どうも…)」
俺の名前も世界でそれなりに認知されてて嬉しい。
そして久しぶりに会うこの人。
「(ナツハ! 久しぶりだな)」
「(変わってねえな、リアム)」
リアムと軽くハグし合った。
それからリアムが穂風に「(ミカゼも久しぶり)」とハグを求めた。
俺はリアムの腕を抑える。
「(なんだよナツハ。挨拶だろ)」
「(お前は下心がありそうだからダメ)」
「(相変わらずかてえな~!)」
あんたが相変わらず節操ねえんだよ!
「(人妻には手出さねえよ)」
「(嘘だな。あんた人妻寝とって相手の夫に殺されそうになってただろ)」
あんときは拳銃まで出てきてまじ肝冷えたし…。
「(お、なんかタトゥー増えてんじゃねえか。どういう意味だ?)」
「(ハワイ語で『風が吹く』)」
「(なんでだ?)」
「(『穂風』って意味)」
俺がそう言ったらリアムが楽しそうに口笛を吹いた。
「(やるな~お前)」
「(ほっとけ…)」
この感じ久しぶりだな…。
「じゃあ夏葉、あたしそろそろ待機行くね!」
「おう、がんばれよ」
「うん! 優勝するよ~」
試合前の穂風を送り出す。
最近の穂風は前よりもかなり身軽そうだ。
それは物理的な意味よりも心理的な意味で。
大きな試合前も前みたいな緊張をしなくなった。
自然体というか…。
俺はそれがすごく嬉しい。
穂風は宣言通り優勝した。
「夏葉~!」
「おめでと」
俺の胸に飛び込む穂風を抱きしめた。
スランプ後、大きい大会では2位とか3位とかで優勝を逃してきた穂風だったが、ここにきてようやく世界選手権での優勝は、穂風のキャリアにとっても意味の大きいことだ。
本当に良かった…。
ちなみに、愛姫は2位、杉下真恋は今回調子が振るわず5位という結果だった。
でも、穂風にはほかの選手の順位はもう気にならないみたいだった。
自分の結果だけを真摯に受け止める姿勢になったらしい。
試合が終わった穂風は、しばらく韓国で波乗りをすると言ってた。
「ミニとショート(※ショートボード)するー!」
らしい。
まあたまには羽を伸ばしてもらって…。
俺も日本以外の色んなところで写真を撮りに行く。
夫婦になっても、お互いの仕事には理解を持ってて。
『会いたいよ~』
という連絡は毎日来るが。
そんなところは変わらなくて愛おしい。
俺も穂風に現地で撮った写真を送ったり…。
「ただいまー!」
「ん、おかえり」
そして、同じ家に帰る。
これが今の俺たちの一番の幸せだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます