吹き荒れろ、大旋風!
フィッシュ
プロローグ
腰を捻転して、放つ。
「ストライク!」
その動作を繰り返すこと、102回。
ボールを受け取ってワンテンポ置き、103回目の動作に移る。
何度も何度も、身体に染み付く程繰り返してきた動きだ。目を瞑っても出来る。いや、それはバランスを崩すから無理かもしれない。
「ストライク!」
疲労は無い。完全に無いと言えば嘘になるが、投げるのが困難になる程の疲労は感じていない。
つまり、ここを封じ込めるだけの体力は残っている。有り余っている、と言い換えてもいいくらいだ。
捕手からの送球を受け取り、モーションに入る。垂直に振り下ろした右腕から放つのは、ストレート。
風を切り裂くそれが、ミットに収まるまでにそう時間は掛からなかった。
「ストライク、バッターアウト! ゲームセット!」
試合の終了を告げる審判の声が、響いた。
「ありがとうございました!」
「あざした」
下した相手に興味は無い。このチームもまた、私の心を揺さぶらせるような相手は居なかったということだ。
残念だけど、実力差があり過ぎるってこういうことなのよね。
……あ、けど一人だけ気になるのが居たな。確か捕手の……。
「やあ」
「お」
噂をすれば何とやら。お目当ての捕手の人が私の元までやって来てくれた。
有象無象だらけのチームの中で、この人だけは記憶に残っていた。
投手だから捕手が目に付くのかは分からないけど、私の記憶に残る人って大抵捕手なんだよな。
「君は凄いね、手も足も出なかったよ」
「まあ、それが投手の仕事なんで」
「ふふ、噂に違わず投手らしい性格をしているんだね」
どういう意味だろう。エゴイストで自己中心的で自信家で打たれることを一切考えていない性格だとでも言うのかな。合ってるけど。
というか噂ってなんだ。歴代史上最高級の自己中投手が居るとでも噂になってんのかな。流石にそこまで自己中ではないんだけど……ないよな?
「君はストレートだけではなく、変化球も一級品だ。欲しがるチームは数多だろうね」
「どもっす。今の高校野球はストレートだけじゃ抑えられないんでね」
「その通りだ。それを理解し、実行に移し、確かな実力を身に付ける……誰にでも出来ることではないよ」
そうかな。何処かしらで躓いたら誰でもこの思考回路に至ると思うけど。
まあ、褒められて悪い気はしないので喜ぶことにしておこう。わーい。
「そうだ、君は何処の高校に進学するんだい? 是非とも教えてくれたまえ」
「ああ、私が進学するのは──」
これが、私の運命を変える出逢い──に、なるといいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます