第一話

 ──遂にやって来た。


「待ち侘びたぜ……!」


 春と言えばなイベントでもある、入学式当日。私はここ、蒼星学院高校に入学した。

 私立みたいな格好良い名前だけど、れっきとした公立高校だ。

 別に、名前で選んだ訳ではない。まあ多少はそれもあるけど……それ以外に入学したいと思わせるだけの要素が、此処にはあった。

 蒼星学院高校は至って普通の公立高校であり、偏差値もスポーツも並。別に著名な卒業生が居るだとか、名物教師が居るとかそういうのは一切無く、ただただ平凡な高校だ。

 学校の理念は「誠心誠意」。とにかく真心を持って人に接しなさいという、何もかもが並な学校が掲げそうな理念だ。

 勿論、スポーツ推薦や特待生制度とかも無し。普通に受験して、普通に合格した。定員割れはしていたが、それが無くても余裕で受かっていたであろう点数を叩き出して合格した。


 あと、地味に大事だった理由がある。制服がオシャレなのだ。

 野球をやっているとはいえ、やっぱり華の女子高生。ダサい制服よりかは、東京に出て ても違和感の無いオシャレな制服を着たいと思うのは当然のことだろう。

 まあ、オシャレでな制服を着こなせるのはある程度顔面偏差値が高くないといけなさそうだけど、生憎私は顔まで良い。

 神は二物も三物も私に与えてしまったねぇ。


 他にも理由はあって、上下関係が緩いと聞いたからだ。私のこの性格は、体育会系では間違いなくシメられる。

 だから上下関係がゆるゆるのガバガバで、どんな性格の奴でも受け入れてくれそうな此処にしたという訳だ。

 未だに昭和のやり方を盲信しているような古臭い高校はノーセンキュー。私は最新鋭のメニューをこなしてレベルアップしていく予定なんで。


 因みに、春休み中や学校見学の際に野球部を見に行く……ことはしなかった。仮に上下関係ゆるゆるが嘘だったとしても、それを都合の良い方向に正せる人間が居ることを知っているからだ。

 まあ、私なりに考えて考え抜いた結果、この蒼星学院にしたということだ。地味にユニフォームも格好良いし。



「仁科柚葵ゆずきさん」

「はい」


 名前を呼ばれて返事をするだけの入学式は終わった、爆速で終わらせた。校長の長話を右から左に聞き流すのは容易だった。

 校長の長話、真面目に聞けば結構良いことを言っていると聞いたことがあるけれど、悪いけど私はその話の良さが分かる年齢じゃないんだ。

 数年──いや、十年後くらいに同じ話をしてくれたら多少は良さが分かるかもしれない。


 入学式が終わったら何処に行くか。そうだね、グラウンドだね。

 私は私の美貌に惚れて話し掛けようとしてきている子猫ちゃんたちには目もくれず、颯爽と歩き出した。

 学校特有の一年生が最上階に配置されている教室から徒歩八分程で、目的地に辿り着いた。


「ふーん……まあ悪くはないか」


 強豪私立と比べたら底辺も底辺なグラウンドだけど、それを分かって入学したのでそこに関しての文句は言わない。

 設備があんま整ってないのがちょいと不安だけど、まあ何とかなるでしょう。


「ん……? やあ、仁科」

「お?」


 背後から聴こえてきた声に反応し、振り向いた。

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