第41話

和未は今は平気そうだが、そのうち揺り戻しが来るだろう。そのときにどれだけ苦しむことになるのか。

 そのときは絶対に自分が支え、彼女を救う。そう決めていた。


 あともう一つ、片をつけなければならない。

 晴仁はアポをとり、和未に土曜日に出掛ける、と伝えた。


***


 土曜日、和未はどきどきしながら服を選んだ。

 自分で選ぶというのが慣れなくて、これもまた慣れないスマホで、ネットの情報を参考にして服を選んだ。

 紺色のシンプルなワンピースにして白いカーディガンを羽織った。


 連れられて行ったのは、彼の実家だった。

 君はなにもしなくていい。そう言われていた。


 挨拶に来た、と晴仁が告げると、家のリビングに通された。  

 晴仁と並んでソファに座る。


「この前はごめんなさいね」

 香奈枝に謝られて、和未は驚いた。


 自分が謝るのが当たり前で、他人が自分に謝るなんて、ありえない話だった。

 思わず床に土下座した。


「申し訳ございません、不手際がありましたでしょうか」

 謝る和未に、香奈枝はあっけにとられた。それから、納得したように呟く。


「虐待されて、こういう状態なのね。……顔を上げて。あなたはなにも悪くないのよ」

 和未がおそるおそる顔を上げると、困ったような笑みを浮かべた香奈枝がいた。


「私が勝手に思い込んで嫉妬していたの。将吾さんとよく話しあって、誤解だったとわかったわ」

「やっぱり隠し事はよくないなあ。晴仁の言う通りだよ」

 将吾は苦笑する。


***


 あの日、晴仁の家から帰って来た香奈枝は将吾をなじった。

 自分に対しての裏切りだ、と泣きながら怒った。


「今でもあの女が好きなんでしょ! だから晴仁とあの女の娘を結婚させたんでしょ!」

「彼女のことはとっくにただの思い出だよ。愛しているのはお前だけだ」

 将吾は言った。

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