第五話 オカルト案件(二)

 なんとか講義が始まる1分前に講義室へ滑り込むことができた。間宮は言っていた通り席を取っておいてくれていた。

 「お、間に合ったな」

 「ギリギリな。周は?」

 「友達が食堂におるからって、さっき別れた。それで、橘さんは……」

 間宮は橘さんと僕が何を話したのか聞きたがったが、答える前に担当講師が来てしまったので口を噤まざるを得なかった。間宮もそれ以上聞いてくることはなく、そのままかったるい講義を終えた。

 そして僕だけ次の講義へ。

 間宮はこのままサークル棟へ向かうとのことだったので途中まで同行することにした。その道中、橘さんが槙島夢の件に一枚嚙みたがっているということを伝えると彼は「人手は多い方がええしな」とあっさり言うのだった。

 「じゃあな。また連絡するわ!」

 そう言って僕と間宮はそれぞれの目的地へと向かった。

 次に講義があるのはまた別の講義棟だ。山を切り開いて作られたこの大学は無駄に広い。移動するだけで一苦労だった。

 ようやく第二講義棟までやってきた。このまま講義室へ向かってもいいが、その前に近くにある掲示板を確認しておこう。

 掲示板は各学部ごとに用意されていて、僕と間宮が所属している学部の掲示板は第二講義棟の前にあった。

 「うーん、まだこんなもんかぁ」

 僕が欲しているのはインターンシップについての情報だった。目当ての企業は激戦らしいので、ライバルと差をつけるためにも少しでも早く情報が欲しいのだ。

 でも今日は目ぼしい情報はなかった。

 行くか。 

 掲示板の横側を抜け、第二講義棟へ入ろうとしたその時、僕の目にあるポスターが飛び込んできた。

 「あ、これって……」

 槙島夢だった。

 オープンキャンパスをPRするためのポスターだ。槙島夢がその中央で笑っている。

 脳裏に電車で会った時の彼女の顔が浮かんでくる。

 沈んだ、暗い顔。

 生気のない、生のない顔。

 もう今後、彼女がこんな笑顔を浮かべることはないだろう。

 だって死んでいるのだから。

 僕は今更実感する。

 なんだか頭の靄が晴れたような感覚がある。

 

 なぜそれに思い至らなかったのだろう。

 僕は逡巡する。

 槙島夢はどういう人間だったのだろう。何が好きで、何が嫌いで、何に感動し、何に悲しみ、これからどんな人生を送る人間になったのだろう。

 そういえばいつか福永先輩が言っていた。『死と締め切りは誰の元にも平等だ』と。ともすれば、槙島夢は僕だったかもしれない。間宮だったかもしれない。周だったかもしれない。人には死ぬ理由は無くとも、死ぬときは死ぬ。今回はたまたま彼女だっただけだ。正直言って、なぜ見も知らぬ (それも死んでいる!)人の為に僕が動かなければならないのだろう、と思っている部分はあった。

 でもそれはきっとお門違いというものだろう。『ひとはひとの為に生き、自分の為に死ぬ』、これもいつか福永先輩が言っていた言葉だ。なんで忘れていたのだろう。それならせめて、せめてものはなむけに僕は出来ることをやるべきではないだろうか。それが例え欺瞞だろうが自己満足だろうが、どちらでも構わない。

 指輪を探そう。

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